第1話 神様は私を離す気がないらしい
ゆっくりと目を覚ませば見知らぬ天井に私は勢いよく起き上がった。月明かりが照らす部屋を見渡せば彼は妖しく笑みを浮かべていた。
「あぁ良かった……ちゃんと目が覚めて。少し神気を当てすぎたと思ったけれど……おはよう璃乃。」
「あ……貴方は誰ですか……それにここは……」
「俺は
「神域……?暮らす……?」
「そう。璃乃はこれからここで暮らすんだ。」
「い……嫌です……私帰らなきゃ……!」
「帰る?……何処に?」
その言葉に私の動きは止まる。家族はもう誰も居なくて家で一人ぼっち。誰かと住んでいた記憶なんてもう遠い記憶。私はそこからもう動けなくなってしまった。
「ほら……もう誰も居ない家に帰らなくていい。俺が傍に居る。もう人の世界なんて忘れてしまえばいい」
「っ……でも……!」
私が反論しようとすれば彼の手によって目を隠され目の前が暗くなる。目を隠されたせいか、彼の言葉はまるで反響するかのように私の頭に響いた。
「璃乃。君はもう俺のものだ。俺の
「神……嫁……?」
その言葉を口にした瞬間胸の奥がざわついた。頭が混乱しているせいか、息が苦しく、脈が早く打っている。その時、私の首に冷たい感覚が走りようやく視界が明るくなった。
「っ……なに……?」
そっと手を添えれば見覚えのない硬く黒い帯に触れた。冷たいのにその帯はまるで脈打つかのように微かに震えていた。
「い……いや……なにこれ……!」
「大丈夫だ璃乃。それは
「首……輪?」
まるで何が悪いか分からないかのように、当たり前だと言うように彼は優しく笑みを浮かべている。その穏やかな声が恐ろしくて、私はもう逃げる事が出来ずにいた。
「大丈夫……怖がらなくていい。俺は璃乃を傷つけない。一生俺が愛してあげるから」
「っ……いや……」
声が震える。どうしてこんなにも穏やかな声で言えるのか……分からなかった。だんだんと呼吸が浅くなる。でも彼は私の様子を喜んでいるかのようで私をそのまま抱き寄せた。
「璃乃、君はもう俺の神嫁なんだ……こうして抱く権利くらいあるだろう?」
「そんなの……知らないっ……!」
自然と声は涙声になり視界は歪む。彼の指が私の後頭部へ触れ、そっと髪を撫でる。
「もう人の世界では生きられない。璃乃はこれからずっとここで……俺の腕の中で過ごすんだ。」
耳元で響く声は低く、そして砂糖を溶かしたかのようにとても甘い。同時に逃げ道を塞ぐかのように深く沈み首輪の三日月が微かに光り脈打った。
「愛してる璃乃。もう絶対に逃がさない。」
その言葉はとても静かなのに酷く強制的で……絶対だった。この瞬間私はもうここから逃れることは出来ないのだと悟った。
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