二刀流の最強悪役貴族〜悪役貴族に転生した俺、原作知識と二刀流で無双しまくり、破滅エンドにざまぁする〜

楠木湊人

第一章 二刀流の悪役貴族

第1話:悪役貴族転生

 トラックに市中を引きずり回され死んだ俺は、悪役貴族に転生した。


「う、嘘だろ……?」


 どうして詳細な死因を自分で分かっているのかは知らないが、あの死に方がかすむほどのことが現在進行形で起きていた。


 姿見に映る顔が、見知った俺の顔じゃない。

 琥珀色の瞳と、少し癖っ毛気味の茶髪。

 なにより、俺はこの顔に見覚えがあった。


「俺……アーサーに転生してるー!?」


 鏡の中で驚愕している美少年の表情と、俺の心情がリンクした。

 それが、夢のような現実を嫌でも叩きつけてくる。


「なんてこった……俺、異世界転生したのか」


 昨今のライトノベルのトレンドだが、まさか俺が体験することになるとは。


 ここは『新・勇者伝説』というゲームの世界だ。

 世界累計3000万本を叩き出した大ヒット作。オープンワールド型のアクションRPGで、美麗なアニメ調3Dグラフィックと、豊富な探索要素、そして歯応えのある難易度が人気を博したタイトルである。


 前世の俺は、それはもうやり込んだ。人生のすべてを捧げたと言っても過言ではない。

 ゲーム外のグッズや公式設定資料集も買い漁り、公式/同人問わずこのゲームのイベントには毎度参加したほどである。初めてやったゲームだからこんなにのめり込んだのかもしれないけど……。


「なんでよりによってアーサーに転生するんだよ……」


 大好きなゲームの世界に転生できたこと自体は嬉しいが、それ以上に問題なのが転生先だ。


 “アーサー・フォン・ヴォルフシュテイン”。


 伯爵家の嫡男だが、ある意味で貴族らしい、傲慢かつ怠惰で嫌な性格の人物。

 他の貴族からはおろか、領民にすら嫌われまくっている典型的なわがままお坊ちゃん。


 それ故に、近い将来で因果応報な破滅が待ち構えている。


 つまり、前世であんな最悪な死に方をしたのに、今世はもっと最悪な死に方をするのが既に決まっているのだ。


 アーサーはいわゆる“悪役貴族”──俺はそんな、『死』と手を繋いでいるようなキャラクターに転生してしまった。


「どうしたもんか……ん、待てよ?」


 破滅の未来をうれい、腕を組んだ瞬間、あることに気がついた。


「このままじゃ間違いなく破滅だが……俺にはがある」


 数年かけてあの大ボリュームなゲームを遊び尽くした俺は、この世界のことを知り尽くしている自負がある。

 魔法の効果、登場する人物、各種武器や防具の入手方法。


 ──アーサーが辿る破滅の道のりも。


 脳と人生のリソースを全て、新・勇者伝説に割いてきた俺だからこそ、自信を持って言える。


「原作知識を駆使して、破滅エンドを回避できる!」


 それを可能とするほどの知識が、俺の記憶には残っているのだ!


「せっかく大好きなゲームの世界に来れたんだ。楽しまなくちゃファン失格だ」


 目標は、憧れの新・勇者伝説世界で、天寿を全うすること。

 この世界で幸せに生きて、大往生しよう。

 あんな前世に未練はないし。


「そうすると、計画を立てなくちゃな……」


 新・勇者伝説は剣と魔法のファンタジー世界だ。

 当然、人ならざる魔物もいる。

 この世界で生きる以上、そういった怪物たちと対峙することも踏まえ、武力に秀でておいて損はない。


 俺自身が強くなること。これが最初の目標だ。


自分アーサーをどう育成するか──後々のことも考えれば、強いビルドを組んだほうがいいよな」


 ビルドは数多くあれど、最強のビルドかつ、アーサーのを考えると、やっぱりこれかな。


「『二刀流』……武器を2本持って戦うビルドだ」


 最強と評価されるビルドは他にもあるが、やっぱり二刀流だな。


 踊るような剣捌けんさばきで相手のHPをどんどん削るその姿は、火力とビジュアル面含めて申し分ない。


 初見プレイ時、最終的に二刀流で攻略したもんだから、個人的な思い入れもある。


「方向性は決まった、あとは時間だ」


 どのくらい時間的な猶予があるか──俺は改めて姿見を見る。


「…………」


 あれ、なんか、記憶にあるアーサーとほとんど姿が変わらんな。

 今こいつ何歳なんだ?

 最初の破滅が起きるのは15歳のとき。

 そこから連鎖的に落ちぶれていくのだが──


 コンコン。


 その時だった。


「坊っちゃま、失礼します」


 ガチャリ、と部屋にを生やした黒髪のメイドさんが入ってきた。

 彼女はヴォルフシュテインの家で雇われている使用人、獣人族のカーニャさんだ。


(つ、つけ耳じゃない。本物だ!)


 可愛い〜! と思ったのも束の間。


「本日は14、改めておめでとうございます」

「…………」


 え?


「夜会の余興試合も準備が整いました。ご来賓らいひんの皆様も、お待ちになってますよ」

「………………」


 ──なんだって?


「なんだってえぇーっ!?」


 アーサー・フォン・ヴォルフシュテイン。

 破滅まで残り──1





◇あとがき◆

ここまでの読了、ありがとうございます。

この後、19:00と20:00に第2話と第3話を更新します。


こちらの連載も追っていただければ幸いです。

星の評価とフォロー含めて、どうぞよろしくお願いいたします!

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