第25話 カップの2「ふたつの杯」
フユミ『あんたが放火行為をしていないかって、警察の方が……』
ミドリ「待てって。違う、誤解……。いや、ちがっ、アタシじゃない!」
フユミ『私もあんたを信じたいけど、あんたは帰って来ないし。ねえ、どこにいるのよ! 帰って来て、ちゃんと説明しなさい!』
ミドリ「か、帰りてぇけどよ……」
フユミ『何? 帰れない理由でもあるの? まさか……、悪い友達に脅されてるんじゃないでしょうね? そうなの!? ねえ!!』
ミドリ「ち、違う!!」
スマホを切る。
ミドリ「はあ、はあ、」
ヒロト「どうしたんだよ、西野先輩……」
ミドリ「な、なんでもねえよ」
スマホをポケットにしまう。
スミ「西野さん……」
秋穂「どうやら、よくない知らせだったのよね?」
ミドリ「まあな」
卓上の御飯を無言で食べる。
スーパーで買い物カゴを押すスミ。
並んで歩くミドリ。
スミ「お醤油って、台所にあった?」
ミドリ「少しは……」
キョロキョロと周りを見回すミドリ。
スミ「西野さん、何か探し物?」
ミドリ「ちげぇ……、見られてんだよ」
スミ「……カード所持者?」
ミドリ「違う……、カードは反応してないし、違和感を感じないだろ?」
スミ「うん……」
ミドリ「カードを持ってるやつじゃない。少なくとも、今は……」
スミ「じゃあ、誰が……」
スミが振り返る。
商品棚の向こうから、こちらを見つめる、
黒いスーツの男。
スミ「あ……」
棚に隠れるようにして、スミの視界から消える。
スミ「いた……」
ミドリ「一人じゃねぇよ……」
周りをぐるりと見る。
所々に、スミたちを見つめる視線。
気づいただけでも、4、5人はいる。
スミ「見張られてる……? なんで……?」
ミドリ「恐らく……、警察だ」
スミ「警察……」
ミドリ「マークされたってことだよ。昨日、雑木林を燃やしたから」
スミ「そんな……」
ミドリ「急いで帰ろう」
スミ「……」
セルフレジに買い物かごを置く。
距離をとって見張る男たち。
スミ「……」
ミドリ「……」
心臓の音がどんどん早くなる。
買い物袋を持ちながら、
緩やかな坂道を登って行く。
曇る空。
振り返ると、
二人組のスーツの男が遠くからついて来ている。
スミ「つけられてる……。どうする? 逃げる?」
ミドリ「逃げられっこねーよ……。前、見てみろよ」
スミ「え……?」
坂道の途中に見慣れない黒い車。
窓からこちらを覗く、黒スーツの男。
スミ「……」
冷汗。
無言で黒い車を通り過ぎる。
ミドリ「アタシら、完全に囲まれてる……。多分、新藤の家も全部調べられてんだよ」
スミ「そんな……。もしかして、ヒロト君たち、もう捕まっちゃってるのかな……」
ミドリ「わかんねぇ。アタシらだって、捕まようと思えば、余裕で出来るだろうけどさ……、アイツらただ見てるだけだ……」
スミ「私たちがどこへ向かうか調べてるとか……」
ミドリ「さあな……」
ヒロトの屋敷の前。
黒い車が複数台、遠目に停まっている。
スミ「完全にバレてる……」
ミドリ「アタシらが帰ってくるまで待ってたのかも……。まとめて逮捕ってことかもな……」
スミ「……私のせいだ。昨日、あんな無理な提案をしたから……」
ミドリ「それだけじゃねぇ……。遅かれ早かれ、こうなってたんだよ。アタシらは……」
スミ「……うん」
ミドリ「家に入ろうぜ」
屋敷の門をくぐる。
秋穂「おかえりなさ〜い」
座敷でこたつに入る秋穂。
スミ「……ただいま」
秋穂「なに? 暗い顔して」
ミドリ「実はよ……」
こたつに向かい合って入る。
買い物袋は机に置いたまま。
秋穂「ふ〜ん。警察っぽいヤツらに見張られてるって? 気にしなくてもいいんじゃない?」
スミ「え……、でも……」
秋穂「捕まえる気なら、とっくに捕まってるわ」
ミドリ「そうだよな……。じゃあ、アタシら、捕まるほど悪いことはしてないって思われてんだよな?」
秋穂「いいえ。泳がされてるだけよ」
ミドリ「なっ……」
スミ「それって……」
秋穂「警察はカードの存在を知っている。そして、カードを持つ私たちを観察している。もしかしたら、警告かもしれないわね。次に動けば捕まえるとね」
スミ「そんな……」
ミドリ「しばらくカード集めは出来ないよな……」
秋穂「残念だけど、カード集めも、悪者退治も、今日からは休止にしましょう」
ミドリ「ああ」
スミ「はい……」
警察署。
特別捜査室に数名の刑事。
水際「じゃじゃーん。この子たちでしょー、ナオちゃんの家の前に火をつけたのー」
スミとミドリが歩く姿が写る写真。
ナオ「ああ、この人たちで間違いないよ。でも、なんでわかったの? 昨日の今日よ?」
水際「日本の警察を舐めない方がいいよー。大抵のことはお見通しなんだからー」
ナオ「コイツら2人だけじゃない。仲間もいるはずよ」
水際「焦らないのー。男の子と、若い女性でしょ?」
ヒロトと秋穂の写真を見せる。
ナオ「男子ひとりはわかるけど、もうひとりいたの?」
水際「そうだよー。大丈夫、全員、居場所もわかってるよー。この子たちは、みーんな同じ高校に通う、生徒と教師だって、掴んでるからねー」
ナオ「コイツら全員が同じ高校ですって? 本当に?」
水際「そうなんだよねー。実はー、私も、この子達と同じ高校の教師やってまーす」
ナオ「は? 教師? あんた刑事でしょ?」
水際「潜入捜査ってヤツなのよ。 本業は刑事、教師は副業ってとこかなー。コイツらを探るために、この学校でスパイ活動してたってわけ。私ー、スパイ得意だからー。驚いた?」
ナオ「……」
ナオの怪訝そうな顔。
水際の張り付いたような笑顔。
水際「そうだー、いいこと思いついちゃったなー」
ナオ「なに……?」
水際「ナオちゃんもー、同じ高校に転入しちゃいなよー」
ナオ「は、はあ!?」
水際の笑顔が消え、
整った冷たい美人がナオを見つめる。
水際「カードを持つ者同士は引きつけ合い、数々の事件を引き起こす。そう、いわば、カードには、他のカードを集めようとする性質がある。私はそう考えている。あなたが彼らに近づけばどうなるか、私は興味がある。カードを持つあなたを、彼らがどう見るのかも」
ナオ「だから、私で実験してやろーっていう訳……? カードを集めようとするヤツらは手段なんて選ばない。そんな所に私を放り込んで、コイツらと戦わせようとでも思ってるの?」
水際「だってー、楽しそうだもーん」
ナオ「この、サイコヤローが……」
水際「これは捜査の一貫よ。大丈夫、あなたは私達が守るわ。もちろん、あなたの家族も」
ナオ「……」
水際のわずかな笑顔を、ナオがにらむ。
月曜日の朝。
スミとミドリが並んで登校する。
校門までの長い坂、
後からヒロトが距離を開けてついてくる。
スミ「……ねえ、今も、私たち、監視されてると思う?」
ミドリ「わかんねえけど、どっかに居るだろ。もう四六時中見張られてるって思った方がいい」
スミ「……だよね」
振り返る。
ヒロトと目が合う。
そっぽを向くヒロト。
スミも気まずそうに目をそらす。
校舎に入る。
スミ「ヒロト君、また放課後にね」
ミドリ「またな」
ヒロト「ああ」
教室。
ミドリ「おはよー!」
スミ「おはよー」
シホ「おはよう! ミドリ! スミちゃんも! ねえ聞いた聞いた!? ビッグニュース!」
ミドリ「なんだよ、朝からテンションたけーな」
スミ「シホちゃん、何かあったの?」
シホ「転校生だって! ウチのクラスに!」
ミドリ「へー、珍しいじゃん。もうすぐ三年になるってのに」
スミ「シホちゃん、その話、どこで聞いたの?」
シホ「担任とセナちゃんが、制服の違う女子と歩いてたらからさー、もしかしてって聞いてみたの!」
ミドリ「ふーん。どんなやつ?」
シホ「ふわっとした茶髪でー、ちょっと気が強そう? でも可愛い子だったよ!」
ミドリ「へー」
スミ「ふわっとした、茶髪……」
キーンコーンカーンコーン。
担任「おはようー。はいはーい、席についてー」
担任が教室に入ってくる。
ビクン。
スミが違和感を覚える。
スミ「なに……、この感覚……」
担任の後から、
制服の違う女子生徒が入ってくる。
昨日出会ったナオだ。
スミとミドリが目を大きく開く。
スミ「うそ……、あの子って……」
ミドリ「まじか……」
スミの肩がビクンとする。
ナオがスミを見つけて、睨みつけている。
担任「急で驚くなよ、今日からの転入生だ、じゃあ、白川さん、自己紹介してくれる?」
ナオ「白川ナオです。皆さん、よろしくお願いします」
スミ「白川……、ナオ……」
ごくんとツバを飲み込む。
担任「はい、えーと、それじゃ、白川は、黒瀬の後ろの席に座って。授業中は黒瀬の隣で教科書見せてもらってな」
ナオ「はい」
ナオがスミのほうへ歩き出す。
シホ「ナオちゃん、よろしくー」
ナオ「よろしく」
女子生徒「よろしくね」
ナオ「こちらこそ」
スミ「よろ、しく……」
ナオ「よろしく……、黒瀬さん」
スミに後ろの空いた席に座る。
ドクドクとスミの心臓が鳴る。
ナオも震える指先を隠すように重ねる。
水際「っぷ、くすくすくす……」
教室の端で、その様子を笑顔で見つめる水際。
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