第7話 悪魔の正位置「堕落」





古びたアパート。

その一室に西野の表札。


ヤクザ風の男「困りますよ、西野社長」


ミドリの父「申し訳、申し訳ありません」


ヤクザ風の男「先月も同じことを、言っていましたよね?」


ミドリの父「何とか、来月まで待ってください。この通りです」


床に頭をつける。

隣にいる母も同じように。


ヤクザ風の男「駄目ですよ。利息ぐらいは払ってもらわないと。働いて、働いて、それでも駄目なら、もっと生活切り詰めて、節約して、死ぬ気でお金作ってくださいよ」


ミドリの父「こ、これ以上は無理です。切り詰めて、切り詰めて生活してるんです」


ヤクザ風の男「困るなぁ。金なんて作ろうと思えば、いくらでも方法はあるでしょ。そうだ、娘さんいましたよね? 高校生でしたっけ? いいバイトでも紹介しましょうか?」


ミドリの母「む、娘には、何もしないで!!」


ミドリの父「お、おい……」


ヤクザ風の男「奥さん、大きい声を出さないで」


ミドリの母「はい……。申し訳ありません」


ヤクザ風の男「まあ、いいです。来月まで待ってみますから、そのとき払えなかったら、あんた、わかってますよね?」


ミドリの父「はい……」


ヤクザ風の男「じゃあ、また来月」




ヤクザ風の男が外に出る。

扉を開けた所にミドリがいる。


ヤクザ風の男「あ」


ミドリ「……」


ヤクザ風の男「ご両親に感謝しなさいね」


ミドリの肩を叩き、歩き去る。




ミドリ「ただいま」


ミドリの母「あ、おかえりなさい。お茶入れるわね」


ミドリ「お金、今月もやばいの?」


ミドリの母「き、気にしなくていいのよ?」


ミドリ「アタシ、バイト変えようかな。もっと稼げるやつに」


ミドリの母「え……、どういうこと?」


ミドリ「ほら、アタシ、こんなナリじゃん? 好きなオッサンもいるでしょ。多分」


ミドリの父「ふざけるな!!」


ミドリ「な……」


ミドリの父「子供は余計なことをしなくていい!!」


ミドリ「も、元々、お前の仕事が、上手く行かなくなったのが始まりだろ!」


ミドリの母「ミ、ミドリ!」


ミドリの父「自分の部屋に入ってろ!」


ミドリ「この……、クソオヤジが!」


隣の部屋に入って、

扉を叩きつける。




小さな部屋のベッドに身を投げる。


ミドリ「……どうすりゃいんだよ、くそ……」



※※※ カードを集めよ。さすれば願いは叶う ※※※



思い出したように立ち上がる。

机の引き出しを開ける。

筆記具に混ざる、鏡のようなカード。


ミドリ「願いは叶う……かぁ」






夜の歓楽街。

ビルの壁沿いでスマホをいじるミドリ。


ホスト「ねえ、君、超可愛いね! ギャルっぽいのに盛ってないし、スゲータイプ!」


ミドリ「……なに?」


ホスト「褒めてるだけだって~! ちょい時間ある? 俺、そこの店にいんだけど」


ミドリ「アタシ、未成年」


ホスト「あ……、そう、じゃあいいや」


通りすぎていく。




中年サラリーマン「あの……」


ミドリの肩がピクリと揺れる。


中年サラリーマン「あの、えっと……」


ミドリ「……いいよ」


中年サラリーマン「え……?」


ミドリの手が小刻みに震える。


ミドリ「やってもいいって、言ってんの」


中年サラリーマン「あ、ほんと……。いくら?」


ミドリ「いくらまで出せんの?」


財布を確認する中年サラリーマン。

片手を広げて見せる。


中年サラリーマン「こ、これで」


ミドリ「あと、一枚」


中年サラリーマン「わ、わかった!」


ミドリ「じゃ、連れてって」


中年サラリーマン「うん!」


肩を抱く中年。

ミドリの手の震えは収まらない。






ホテルのベッドに座る。

シャワーの音。

机に置かれた男の財布。


ミドリ「……」


開けてみる。

お札が十枚以上見える。


ミドリ「……」


一つかみに取り出してみる。


中年のサラリーマン「何やってるの?」


ミドリ「っ!」


中年のサラリーマン「あ、お金!」


ミドリ「いや、ちがっ」


男がミドリを両手で弾き飛ばす。


ミドリ「あっ!」


ベッドの上に倒れ込む。

舞うお札。


中年サラリーマン「ああ、ああ、もう!」


お札を拾うサラリーマン。


ミドリ「つっ」


中年サラリーマン「あ、おい!」


ホテルから飛び出す。






ミドリ「はっ、はっ、はっ!」


夜の街を駆ける。

ビルの合間の非常階段を見つけ、

上へ、上へと逃げる。


ミドリ「はあ、はあ、はあ、」


手すりの隙間から見えるネオン。


ミドリ「ちくしょう、何やってんだよ、アタシ……」


瞳が潤む。



※※※ カードを集めよ。さすれば願いは叶う ※※※



鞄からカードを取り出す。

表面に反射する、ミドリの顔。


ミドリ「集めろったって……、他のカードはどこにあんだよ……」


カードを隣に置き、

膝を抱えて丸くなる。






コツン、コツン。

誰かが階段を上ってくる音。

顔を上げるミドリ。


ミドリ「……帰るか」


カードを拾おうと手を伸ばす。

ぼんやりと光るカード。


ミドリ「は……? あれ……? なんか……、光ってね……?」


下の踊り場に、若い男が上がってくる。


若い男「あっ」


男の手にも光るカード。


ミドリ「え?」


若い男「あ……、カード……」


ミドリ「あ、ああ……、お前も……」


若い男「……」


ミドリ「……」


若い男「それ……、集めてるの?」


ミドリ「え……? ああ……」


若い男「ふーん……」


男がカードをポケットにしまう。

下の踊り場に立ちすくむ男。


ミドリ「お前も……、集めてんのかよ?」


若い男「これから、集めようかって思ってて……」


ミドリ「あ……、そう……、それじゃ」


階段を駆け下りて、男とすれ違う。


若い男「待って」


男に腕を掴まれ、制止する。


ミドリ「な、なに……?」


若い男「君のカード、僕にくれない?」


ミドリ「やだね……」


腕を振りほどこうとする。

より強い力で掴まれる。


ミドリ「おい、離せよ」


若い男「頂戴よ。そのカード」


ミドリ「駄目だ、離せ!」


男が掴んだ腕を振り回す。


ミドリ「うわ!」


階段に叩きつけられ、元居た場所に戻される。


ミドリ「いってー……。何すんだ!」


若い男「いいから、渡せよ」


男がのしかかるように迫る。

ミドリの腕と首を掴む。


ミドリ「な!? て、てめっ」


カードを持つ腕と、首を強く締め付けられる。


ミドリ「う、ぐっ」


首が締まる。

ジタバタともがく。


若い男「それから手を離せ!」


ミドリ「い、いや、だ……」


若い男「しつけーなー!!」


ミドリ「だ、だす……」


若い男「あ!?」


ミドリ「だす……、けて……」


強く輝き始める、ミドリのカード。


若い男「な、なんだ!?」


ぐにゃりと形を変える。

幅の広い、包丁のような形。


若い男「え? うわ、わああ!」


ミドリから手を離して、後ずさり。


ミドリ「はっ、はっ、おえっ」


若い男「なんだよ、……それ!」


ミドリ「はあ、はあ、願いを、叶えろ……。アタシを……、助けろおお!!」


ミドリの周囲に、手にした包丁と同じような物が浮かび上がる。


若い男「お、おわ、あああ!」


浮かぶ包丁たちが宙を舞い、

次々と男に突き刺さる。


若い男「ぎゃああ!! いでえええ!!」


ミドリ「ああああ!!!」


手にした包丁を、男の腹に突き立てる。


若い男「お、おおおおお」


包丁から手を離して、後ずさり。


若い男「うう、う、う、………」


男の唸り声が小さくなり、

倒れ込んで動かなくなる。


ミドリ「はっ、はっ、はっ」


包丁がカードに戻り、男の腹から抜け落ちる。


ミドリ「はあーっ、はあーっ、」


地に濡れたカードを拾う。


ミドリ「はあっ、はあっ、」


男のズボンのポケットからはみ出す、

もう一枚のカード。


ミドリ「はぁ……、はぁ……」


ズボンのカードを抜き出し、

二枚のカードを握り締め、階段を駆け下りる。


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