第6話 大切な君だから

☆伊藤春風サイド☆


私は...意を決して彼に声をかけた。

世界史の授業で書くのが早すぎてノートを取り損ねた。

私は綺麗な文章にこだわりを持っている。

だからノートをよく書きしくじる。

でも頼れる人が居なかった。

だけど。


「大丈夫か?」

「え?な、何が」

「いや。俺の字って速筆で汚いだろ?だから読めるかなって」

「私、字の汚さはこだわらない」

「そうなのか?」

「うん。私...読める。ちゃんと」

「...そうか。分からなかったら聞いてくれ」

「...じゃあ1つ。お願い」


その言葉に「ああ。...どういうお願いだ?」と聞いてくれる鮫島くん。

私は少しだけ頬を朱に染めてから「お友達として買い物に付き合ってほしい」と言ってから彼を見る。

まさかの言葉だったのだろう。

鮫島くんは驚いていた。

断られたらどうしようかと思ったけど。

溢れる想いを言いたかった。


「え?そ、それは...」

「嫌?」

「あ、い、嫌じゃないけど...」

「じゃあ付き合って、くれ、る?」

「...分かった。付き合うよ」

「あ、ありがとう」


そんな感じで会話をしているとチャイムが鳴った。

私は先生が入って来る姿を見て慌ててノートを仕舞おうとした。

そのノートをバサバサと落とした。

すると鮫島くんが「大丈夫。落ち着いて」と拾ってくれた。

また鮫島くんに助けられちゃった。



放課後になってから私は立ち上がる。

それから鮫島くんのもとに向かおうとした時だった。

鮫島くんが他のリア充の男子生徒に声をかけられていた。

その言葉に鮫島くんは「なんだ」と問いかける。


「いやさ。忠告しておくけど...伊藤だけはなんつうか止めておいた方が良いぜ」

「...」

「よく分からんし変な性格だしな」

「...ご忠告どうも」


私は嘲笑う男子生徒に怯む。

この時点で相当悪口だけ...ど。

怖さに心臓がバクバクし始める。

前に付き合っていた男の子の悪口を思い出した。

鮫島くん...がそっち側になったら。

そう思ったのだが。


「だが俺は彼女に関わる事は止めないよ。...彼女は彼女なりに精一杯生きずらい世界を生きているから。それを見届ける必要がある。それにお前ら彼女の内面を知らないだろ」

「...!」


男子生徒はその言葉に真顔になりつまらなそうな顔をした。

それから「あっそ。どうなっても知らねーぞ」と愛想を尽かした様に去って行く。

面白くない答えが返って来たのだろう。

私はその姿を見てから肩をすくめる鮫島くんを見る。


「行こうか」

「...あ、う、うん」


それから私は鮫島くんと一緒に教室を出る。

そして歩いていると鮫島くんは「あんな奴らの言葉なんか気にしなくて良いからな」と言った。

私は顔をゆっくり上げる。

鮫島くんがこっちを見ていた。


「俺はああいうのは好かん」

「...でも鮫島くんの...立場が」

「そんなもん気にもならないよ。...ああいうのが嫌いだしな」


私は心臓をドキドキさせる。

それから鮫島くんを見る。

鮫島くんは「ああいう連中は外見しか見てないから」と言いながら怒る様に眉を顰めていた。

私はその事に嬉しくなる。


「...うん」


私は彼の為に生きたい。

そして彼と一緒になりたい。

こんな障がいがあるにせよ...。

そんな事を思うのは贅沢かもしれないけど。

でも私は...彼が心底から好きだ。


「ね」

「...?...どうした?」

「私は私自身を磨く」

「磨くっていうのは?」

「私...自分自身を可愛くする」

「...!」

「もっと可愛くなる。ゆ、友人の為に」


目をパチクリする鮫島くん。

それから「え?な、何でそれ以上?友人だから?」と動揺する。

私はその姿に頷きながら階段を降りた。

そして途中で立ち止まり振り返る。


「私は自己研鑽」

「...自己研鑽って」

「日々が自己研鑽。頑張る」

「...???」


今は拙い想いかもしれない。

だけどいつかこの想いが叶います様に。

私は思いながら心臓をバクバク跳ねさせる。

それからニコッと微笑んでから手を差し出した。


☆鮫島雪穂サイド☆


自閉症スペクトラム障害。

その長い障がいの名前は...俺自身が初めて聞く名前だった。

その言葉自体をネットで必死に調べた。

それから発達に障がいがある...ものだと分かった。

俺はその事に顔を上げて伊藤さんにどう関わっていこうかそう考えながら日は過ぎて今日になった。


試される時かもしれない。

聞くのは失礼かもしれない。

だが。


「伊藤さん」

「?...うん」

「俺は...君の特性がよく分かってない。だから...教えてくれないか」

「...え」

「障がいの特徴を。こんな事を聞くのは最低かもしれない。でも俺は君の特性を理解して...あげたいんだ。...心から」


その言葉に伊藤さんは「...!」となりながら歩くのを止める。

それから俺を考えながら見てくる。

俺は(駄目か)と思いながら俯いていると「私の障がいは...人の感情が読めない。関わる事が主に苦手。...あと何を喋っているのか分からなくなる」と伊藤さんが答えた。


「...家族以外では初めて。...私の発達障害を理解したいって言ってくれた人」

「伊藤さん...」

「私、貴方と友人になって良かった。...その点さえ理解してくれれば。他には何も要らない」

「...」


俺は伊藤さんに向く。

それから「分かった。気を付ける」と言ってから「教えてくれてありがとうな」と返事をする。

すると伊藤さんは「ん。じゃあ手を出して」と顔が赤くなる。

(は?)と思いながらも俺は手を出す。

伊藤さんはその手を恋人繋ぎした。


「え」

「これも親友の証」

「そ、そんな馬鹿な。幾らなんでも」

「違わない。...行こ」


それから伊藤さんに手を握られたまま歩く。

すると伊藤さんが寄り添ってきた。

胸を押し付けてくる。

は?へ?

こ、これは!?


「伊藤さん!?」

「親友でしょ?」

「し、親友の枠を超えている気がする!」

「えへ」


伊藤さんは構わず歩く。

周りの視線を無視しながら幸せそうに。

これじゃまるで恋...な訳ないか。

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