王都騒乱編

第47話 あのサキュバス店が臨時休業!? マダムが悲鳴

【珍事】あのサキュバス店が臨時休業!? マダムが悲鳴「王都民の夢が“マズすぎ”て食あたり」。原因は国民総“お疲れ”社会か


「店内の消毒と、スタッフの胃腸調整のため、当面の間お休みをいただきます」


 王都の夜の癒やし処、会員制サキュバス店「月光の寝台」の重厚な扉に、そんな張り紙が出されてから三日が経つ。 かつて本誌が「魂の洗濯屋」と絶賛したこの店で、一体何が起きているのか? まさか、ゲテモノ食いでもして腹を壊したのか?


 心配(と、ネタ欲しさ)に駆られた私は、裏口から馴染みのマダムを訪ねた。 そこで目にしたのは、いつもの妖艶な笑みを失い、青ざめた顔でソファに沈み込むサキュバスたちの姿だった。


 <img ="ぐったりと横たわり、胃薬を飲むサキュバスたち">

▲店の控室にて。「もう、あんな脂っこいストレス食べられないわ…」と呻く彼女たち。まるで建国祭シーズンの酒場店員のような疲弊ぶりだ。


 ■ 「見た目は良い夢なのに、後味が『鉛』のように重い」


「……いらっしゃい、レミィ。悪いけど、今は接客できる気分じゃないの」 オーナーのマダムは、気だるげに煙管を置き、深いため息をついた。 彼女によれば、原因は王都中の客の夢の質が急激に落ちたせいだという。


「ここ数日、おかしいのよ。客の夢の『味』がね」 マダムは不快そうに顔をしかめた。 「夢の内容自体はいいのよ。出世したり、恋人ができたり……みんな幸せそうな夢を見てる。でもね、それを口に入れた瞬間、舌にまとわりつくような重い味がするの」


 それは恐怖や怨念といった激しい味ではない。 もっと陰湿で、粘着質な――「諦め」と「疲労」が腐って発酵したような味だという。


 ■ 幸せな夢の裏にある「限界」


 ダウンしたスタッフの一人、リリアは胃薬を片手にボヤいた。 「お客さんたち、無理しすぎなのよ。表向きは笑って、夢の中ですら『成功』しようと頑張ってるけど、魂の根っこはもうクタクタに疲れ果ててる。私たちはその『空元気』でメッキされた夢を食べさせられて、消化不良を起こしたってわけ」


 つまり、こういうことだ。 王都の人々は今、無自覚なまま限界を迎えている。 「幸せな夢」を見なければやってられないほど追い詰められ、その夢の裏側には、隠しきれない疲労と虚無感がドロドロに溜まっているのだ。


 マダムは呆れたように言った。 「こんな添加物だらけの不健康な夢、魔族だって体を壊すわよ。人間たちはよく平気な顔をして生きていられるわね」


 ■ 「異常なし」こそが異常?


 王宮の医師団は「特に異常な流行り病はない」としている。 だが、人間の深層心理を味わうプロフェッショナルである彼女たちの舌は誤魔化せない。


 特定の発生源があるわけではない。 ただ、王都全体を覆う空気が、水槽の水が腐るように、ゆっくりと、しかし確実によどみ始めている。 夢の味が変わるほどの「国民総疲労ナショナル・バーンアウト状態」。 これは平和な時代の停滞が生んだ病なのか、それとも、我々の本能が何かの予兆を感じ取り、魂が防衛反応で疲弊しているのか。


 店を出て、夜空を見上げる。 いつもと変わらない二つの月が輝いている。 だが、マダムの言葉を聞いた後だと、行き交う人々の笑顔が、どこか薄い仮面のように見えてくるのは、私の考えすぎだろうか。


 読者の皆様。もし最近、「いい夢を見たはずなのに、起きたら体が鉛のように重い」なんてことはないだろうか? もしそうなら、気をつけることだ。 あなたは今、サキュバスさえもお腹を壊すほどの「特級の疲れ」を抱え込んでいるのかもしれない。 とりあえず、今夜は早く寝ることをお勧めする。


 ―レミィ・スクープ

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