第42話 【建国祭特集①】教科書は教えてくれない? この世界を形作る「三つの時代」と「二つの月」の神話

【建国祭特集①】「歴史」の前に「神話」を知ろう。我々が生きる「月の時代」の前に、かつて世界を焼き尽くした「強者たちの宴」があったことを


 来週はいよいよ、我が王国の建国記念祭だ。 街は三色旗で彩られ、広場では吟遊詩人たちが英雄王の武勇伝を歌い上げている。 だが、我々『週刊グランドール』は、ただ浮かれて祝杯を挙げるだけの雑誌ではない。今の王国があるのは、建国以前の壮絶な「世界の破壊と再生」の歴史があったからだ。


<img ="建国祭の準備でバザーを立てている広場の様子">

▲この時期のバザーに顔を出すとなぜか財布の中身が空になっているのだから不思議な話だ。


 特集第一弾となる今回は、学校の歴史の授業では居眠りしていた諸君のために、この世界が辿ってきた「三つの時代」の神話を、本誌流に分かりやすく解説しよう。


■ 第一時代:愛と停滞の「日のサンライズ


 太古の昔、世界は一柱の女神によって統べられていた。「暁の女神アウローラ」と呼ばれる彼女は、慈愛そのものであったとされる。 神話によれば、この時代、世界には「欠乏」が存在しなかった。果実はたわわに実り、気候は常に温暖。争いもなく、あらゆる種族が手を取り合って暮らしていた――と、神殿の聖典には書かれている。


 だが、あえて意地悪な見方をすれば、それは「進化のない停滞」の時代でもあった。 誰も飢えない代わりに、誰も努力しない。魔法は空気のように満ちていたが、それを発展させる技術も生まれない。ただ、女神の膝の上で微睡むだけの、永遠の揺り籠。それが「日のサンライズの時代」だった。


■ 第二時代:殺戮と進化の「日のサンセットり」


 その平穏は、最も残酷な形で破られた。 女神が生み出した眷属の一人、力の化身である「黄昏のヴェスペル」が反旗を翻したのだ。彼は、「弱者は淘汰されるべきだ」と唱え、母である女神を殺害。その心臓を食らい、神の座を簒奪さんだつした。


 ここから始まったのが、暗黒の「日のサンセットりの時代」だ。 世界は一変した。空は煤煙に覆われ、大地は戦火に焼かれた。ヴェスペルは、従わない者たちを力で捻じ伏せようとしたが、他の神々や種族も黙ってはいない。 ドラゴンが空を焼き、巨人が大地を割り、人間やエルフは生き残るために必死で「兵器」としての魔法や科学を発達させた。


 皮肉なことに、今の我々がダンジョンで発掘する「古代文明の遺産アーティファクト」の多くは、この最も野蛮な時代に作られたものだ。平和は怠惰を生み、戦争は技術を生む。なんとも救いようのない真実である。 結果として、この大戦で文明は一度、完全に滅びた。ヴェスペル自身もまた、力の暴走によって自滅し、世界には荒野だけが残された。


■ 第三時代:癒やしと再生の「双月ツイン・ムーン


 焼き尽くされた大地に、訪れたのは長い夜だった。 しかし、それは絶望の闇ではなかった。天に二つの月――青き「静寂の月」と、赤き「情熱の月」が昇ったのだ。神話では、これらは砕け散った暁の女神の両眼であるとも、あるいは女神を殺したことを悔いた黄昏の神の涙であるとも言われている。


 二つの月が放つ柔らかな光は、傷ついた大地をゆっくりと癒やしていった。生き残った我々の祖先は、地下シェルターや森の奥から這い出し、月の光の下で、再び文明の種を蒔き始めた。 強すぎる太陽(絶対的な神)も、荒ぶる夕日(独裁者)もいない、静かな夜の時代。我々人間や亜人種が、神の力に頼らず、自らの足で歩み始めたのが、この「月の時代ムーン・エイジ」――すなわち現代である。


■ そして「建国」へ


…とまあ、ここまでがお堅い神話の授業だ。


だが、ここで最大の疑問が湧かないだろうか?


 我々が生きるこの「月の時代」は、神話によれば「癒やしと静寂の時代」のはずだ。 にもかかわらず、なぜ300年前の祖先たちは、再び「国」という巨大な権力構造を作り上げ、強大な「王」を戴く必要があったのか?


 ただの話し合いで平和が訪れた? いや、歴史はそんなに甘くない。 当時の大陸は、滅びたはずの「日のサンセットりの時代」の負の遺産――古代兵器や汚染された魔力――が掘り起こされ、むしろ神代よりも酷い泥沼の戦争状態にあったのだ。


 そんな地獄を、たった一人で平定した聖王オリオン。 彼は一体、”何”を使って、暴走する旧時代の兵器たちをねじ伏せたのか? 穏やかな月の光しか降り注がないこの世界で、彼だけが振るうことのできた「圧倒的な暴力」の正体とは?


 もし、その力の源が、女神の加護などではなく、かつて世界を滅ぼした「荒ぶる神の一滴」だったとしたら――?


 次号からは、教科書が決して語らない、この国の建国前夜、「月の時代」の血塗られた歴史を紐解いていく。 英雄王の伝説は、光り輝くばかりではない。その影にこそ、真実のドラマが眠っているのだ。


―レミィ・スクープ

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