第19話 【復刊のご挨拶】地獄の底から、愛を込めて。

【復刊のご挨拶】地獄の底から、愛を込めて。『週刊グランドール』本日より通常業務(戦争)を再開する


 三週間の沈黙を破り、当初の目標よりは少々遅れはしたが、ここに『週刊グランドール』の復刊を宣言する。 見ての通り、紙面が少し煤けているかもしれないし、インクの匂いに混じって焦げ臭さが漂っているかもしれない。だが、安心してほしい。そこに書かれている文字は、以前にも増して黒く、そして鋭い。


<img="包帯姿でデスクに座る編集長">

▲仮設編集室にて。私の左腕の包帯はファッションではないが、ペンの動きには支障ない。背景の壁がベニヤ板なのは気にするな。


■現状報告:オフィスは半壊、士気は全快

 まず、心配してくれている(と信じたい)読者のために、現状を報告しておこう。


 呪いは解けた。高名な解呪師に法外な料金を支払ったおかげで、原稿用紙に「ヒヨコ」という文字しか書けなくなる呪いは除去された。あの呪いをかけた術者には伝えておこう。「次はもう少し語彙力のある呪いにしたまえ」と。


 物理的な封鎖も解除された。編集部を埋め尽くしていたパン生地のゴーレムは、スタッフ総出で三日三晩かけて食い尽くした。当分、パンは見たくもないが、おかげで食費は浮いた。


■レミィ・スクープの安否について

 さて、諸君が最も気にしているであろう、我が社のエース記者、レミィ・スクープについてだ。 結論から言えば、彼女は生きている。


 本来なら、この復刊第一号で彼女の署名記事を掲載すべきだったかもしれない。だが、彼女は今、ここにはいない。 彼女は現在、自分に向けられた「対人殲滅用極大魔法」の発信源を特定し、その術者(および依頼主)に対して、“独占インタビュー”を行うための準備に奔走している。


 彼女から伝言を預かっている。 「私の葬式用にと用意した香典は、そのまま賠償金として取っておきなさい。すぐに集金に行くから」 ……とのことだ。犯人の諸君、震えて眠れ。


■我々は、ペンを置かない

 今回の襲撃で、我々は多くのものを失った。 愛用の印刷機、ふかふかのソファ、そして私の秘蔵のヴィンテージ・ワイン。


 だが、得たものもある。 それは三流ゴシップ誌たる「我々の報道が、殺意を抱くほどに正しかった」という確信だ。どうでもいい嘘になら、誰も高い金を払って暗殺者など雇わない。我々のペン先は、確実に巨悪の急所を捉えていたのだ。


 暴力で言論を封じ込めようとした者たちへ告ぐ。 君たちは失敗した。 建物を壊すことはできても、好奇心と反骨精神までは瓦礫にできない。 我々は、君たちが壊した瓦礫の上に立ち、君たちが隠そうとした闇を、より高くから照らすための足場にするだろう。


 さあ、新しい号の始まりだ。 今週も、王都は欺瞞とスキャンダルに満ちている。 我々には、休んでいる暇などないのだ。


週刊グランドール編集長 バーナード・ケイン

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