第2話「有志の軌跡、そして画像検索」

 今回のネタは有志による捜索が続いている。

 現況を知るにはロストメディアwikiを訪れるのが手っ取り早い。

 wikiの当該ページを開いた。


〜〜〜


 ・世界一イケメンな探索者とは

 あるダンジョン探索者の遺体の写真として知られる画像である。

 血管の走る白い肌、剥き出しの歯茎、血だらけの口内がドアップの顔写真で非常にショッキング。顔のパーツはどこからか取り寄せたコラージュのようだ。


〇画像。閲覧注意!


 一時期は「イケメン 探索者」、酷い時には「探索者」だけでも検索欄にヒットしていた。

 非常に有名な画像で、古くより掲示板、びっくり系フラッシュ、個人サイトなどに潜みネット民を震撼させてきた。

 それほどの知名度を誇りながら、加工元やコラ元も判明していない。


 2003年頃にはチェーンメールで出回っていたようだ。その時の画像には、顔の下に「この画像を24時間以内に友人に送信してください。さもなければ年末に恐ろしい事が起こります」と書かれている。


〇チェンメ版画像。閲覧注意!


 名前の由来は2005年9月1日に3chに立てられた「こいつを世界一イケメンな探索者にして欲しい」というスレッド。上記の画像を加工していくという楽しげ(で不謹慎極まりない)内容である。

 このスレッドをきっかけに、これといった名称のなかったこの画像は「世界一イケメンな探索者」と呼ばれるようになった。

 ただしスレ主はスレタイでこの画像を「探索者」と呼び、最初のレスでも「探索者さんの死体らしい」と書き込んでいたことから、当時から探索者のうわさが付随していたと考えられる。


 海外のオカルト創作コミュニティ「Gloomy pasta(グルーミー・パスタ)」では「Villan The Steve(ヴィラン・ザ・スティーブ)」と呼ばれ、この画像についての物語が作られている。

 それによれば、彼はスティーブという青年で、借金生活に喘ぐ家族のためにダンジョンを探索して一攫千金を狙っていた。

 だがついぞ夢は叶わず、死を迎えたのちヴィランとして蘇り、借金取りに復讐を始めた、とされている。


 さて、原型となる画像の出所は不明だが、流布のルートある程度までを辿れている。

 意外なことに、最初の目撃例はチェーンメール版だった。2003年3月7日に日本の画像投稿サイト「Myfear」に掲載されている。

 その後2003年5月12日に個人ブログで文字なし版が掲載されていたが、ブログ主曰く転載とのこと。

 チェーンメール版が先に広まっていたのは、例の文言が素早く拡散を促したと考えられ――


〜〜〜


「うーむ」


 引用の先も読んでみたが、最古の掲載例と有力情報の列挙で終わっている。

 まあそんなもんだ。ここからが本番だぜ。

 まず画像検索だ。







第2話

「有志の軌跡、そして画像検索」






 まずチェンメ版ではない画像を保存し、Ggooleの画像検索にアップした。

 画面には「イケメン」がずらり。良い気分はしない。

 検索結果をしらみ潰しに確認したが、出てくるのは新しいページばかりだ。

 次はYahaa。PC版はキーワード検索のみだが、スマホ版なら画像を長押しして検索できる。

「世界一イケメンな探索者」で検索し、文字なし版から辿ってみたが、これも新しいページばかり。


(まあいつものことだな)


 これらのブラウザは新しいページを優先して表示する傾向がある。網羅はしてくれるが古いサイトは沈みがちだ。

 より精度の高い検索をするには、より精度の高いブラウザに頼る必要がある。

 そこで「Ving」だ。日付順に並び替えて検索できる。ここから大元を辿れた画像もある。

 かけるのはもちろん「古い順」。


「お」


 トップの検索結果には、wikiにあった通り2003年5月12日のブログが見つかった。「今日はホワイトメイク!」という記事だ。

 ブログ主はこの日、友人と遊びに行くらしい。その日のメイクの顔写真を公開するとのこと。

 少しスクロールし、そして出てきた。

 画像の下にさらに文章が綴られている。

 遊びに行く予定は嘘で、今日は風邪で寝込んでいるらしい。

 画像は拾った……と。この画像を面白おかしく貼るとは肝が据わった女子高生だ。読者が減るぞ。


 チェンメ版もVingにかけた。するとこれもwikiの通り、恐怖画像をまとめるサイトで2003年3月7日に掲載されていた。

 ということでチェンメ版が先に掲載されていたことがわかった。


(とりあえずwikiの記述と現況に相違なしか)


 ひとまず言えることがある。先にメインで広まったのはチェンメ版だろう。あの文言はの拡散がある。

 これがオリジナルではないと言えるのは、加工の難しさだ。

 文字を消して背景や顔と同じ色合いに馴染ませるのは至難の業だし、跡が残る。有志もそれを指摘するだろう。なので先に存在したのは文字なし版のはずだ。

 ただしそちらの流布がチェンメ版に遅れを取ったのは、画像の掲載がまだ始まったばかりでネットユーザー間の知名度が低かったためだろう。そもそもチェンメ版が時系列的に先に出ることを考えると、この文字なし版を最初に掲載していたサイトが削除されていると見るのが自然だ。


 なんにせよ流通の時系列を探っても意味はない。私が探したいのは原型となる画像だ。


 なら、日付検索ができて類似結果も出してくれるブラウザが良い。「DinEye」が最適だ。

 wikiの記事曰く、最古の掲載がいずれも日本発祥なので、海外サイトを優先して表示するこのブラウザは後回しにしていた。

 早速それを開き、それぞれを検索にかける。

 だが文字なし版から出た最古の類似画像はチェンメ版で、逆も然りだった。原型画像はない。


「っふー」


 なるほど手強い。原型画像は相当にいじられているな。

 顔のパーツもコラだし。というか顔のパーツもどこから拾ってきたのやら。これも解き明かすのか? ならまともな手がかりくらい寄越して欲しいもんだが。


 私は、過去に真相を解明できた画像たちを思い出していた。

 まず幽霊の写る、恐怖画像として知られていた集合写真だ。

 これは制服や生徒の付けていたバッジのデザインから特定ができた。結局、写真はある学校のホームページに掲載されていたが、そこに幽霊らしきものが写っていると気付いた何者かがそれを怖い画像スレに転載し、画像が広まったようだ。


 馬の顔がコラージュされた女の子の画像も、背景に見える建物の情報から特定できた。

 出所はある主婦のブログ。家族、特に娘の成長の様子を記事にしていた。

 それが何をしてくれたのか。何者かが女の子の写真をまとめているいかがわしいサイトに転載したらしい。

 それが何をしてくれたのか。その写真にどういうわけか馬の頭がコラージュされ、これまたどういうわけか動物の顔をコラージュする趣味の海外の掲示板に貼られ、その後面白画像として流布したようだ。

 ちなみに馬のほうは、ヤマダノチカラが2016年にD1桜花賞で3着を取った時の写真であることがわかった。


 だが「イケメン」はどうか。手掛かりらしい手掛かりは背景と肌の質感くらいか?


(あんまり間近で見たくないが……)


 まず背景は暗いがボコボコしている。石のように見える。ダンジョンで見つけた遺体を撮ったという話には、多少信憑性があるのか?

 肌は皮膚が裂け、水膨れもあり、かなり荒れている。

 何かの病気にかかっていたなら、そこから症状を割り出せるかもしれない。私に医学知識がないのが悔やまれるところだ。


 こうなったら、いつも通り集合知に任せる。

 しばらく画面に張り付いていたので体が痺れた。椅子を回し、腰を深く掛けて手足と肩を伸ばす。

 それからまた画面に向き合った。


「うっし」


 まずEXエックスで情報を募る。


〜〜〜


この画像についての情報を求めています。「世界一イケメンな探索者」と呼ばれる画像です。


(センシティブ画像)


名前は2005年の3chに立てられた「こいつを世界一イケメンな探索者にして欲しい」というスレッドが由来です。

ただしこのスレッド内でも「探索者」と呼ばれており、探索者のうわさはこの時点でもそれなりに広まっていたと考えられます。

最古の例は個人ブログですが、記事曰く画像は転載であるとのこと。


チェーンメール版も存在し、その時の画像には「この画像を24時間以内に友人に送信してください。さもなければ年末に恐ろしい事が起こります」とあります。


(センシティブ画像:チェーンメール版)


ですが意外にも最古の掲載はこちらであり、2003年3月7日に「Myfear」という画像サイトに掲載されていました。チェーンメール版はその文言に拡散性があったことから、広く流布したと考えられます。

ただし文字をわざわざ消して加工したとは考えづらく、最初に掲載した画像が原型でしょう。


なおどちらも日付かつ類似画像で検索をかけましたが、原型の画像は発見できませんでした。そこから考えると、原型の画像はかなりの加工を受けていると考えられます。


手掛かりは背景や肌の質感です。

背景は一見するとただの石ですが、ある地域でしか見られないものなら、その種類から地域を割り出せるかもしれません。

肌は著しく荒れており、何らかの病気を患っているようにも見えます。同じように、そこからおおまかな当たりをつけられそうです。

些細なことでも構いません。情報をお寄せください。よろしくお願いします。


〜〜〜


「こんなとこか」


 EXだけでは心許ない。Ledditレディットでも情報を集めよう。

 Ledditはトーラ合衆国の投稿式ソーシャルニュースサイトだ。文字や画像を投稿してユーザー間でやり取りができる。

 早速訪れ、EXの呼びかけ文を貼り付けて投稿した。

 オカルト界隈でもある程度名が知れている(と勝手に思っている)ため、数時間で情報は集まるだろう。

 その間にペットの犬のマッコイと散歩に行こう。



【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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