第27話 14.山羊に魅入られしもの 香久山ゆみ様
企画にご参加ありがとうございます。
ベストオブヤギにまっすぐな瞳!
♢
▶︎「何描いてんの。ここ、ヤギしかいないじゃん」
小説も絵も信仰も、まずは「何を」が大事ですね。
▶︎黒水晶のような瞳に吸い込まれそうだった。
ですよね!
▶︎絶対にコンクールの金賞を獲ると思ったシロの絵は、しかし教室の隅に皆と一緒に貼られてそれでおしまいだった。学校代表には、ごちゃごちゃと色を散りばめた絵が選出されて、入選しましたと全体朝礼で校長から表彰されていた。
ね。そういう制度なのです。
▶︎俺は行き場のなくなったまっさらな色鉛筆を学校の焼却炉にばらばらと投げ込んだ。カラフルな煙でも出るかと思ったけど、煙突からはもくもくと黒い煙が出るばかりで、用務員のおじさんに見つからないうちに逃げ出した。なぜか、黒と白の鉛筆だけは燃やさずにポケットに入れていた。
いいですね。
▶︎「色鉛筆、ほしい?」
目の前の才能を開花させるには、明らかに道具が足りない。
好意と物で人を動かそうとする無意識の動きがいいですね。
▶︎「ヤギのまねしろよ。そしたら、クリスマス会の時に持ってってやる」
小さな要求から飲ませるやつですね。
▶︎その時、自分の中にぞくぞくと電気が走った。周りに人がいないのを確認して、俺はさらに言った。
「鳴き声だけじゃまねにならない。ちゃんとヤギの格好をして」
足元で四つん這いになって動きも真似るよう指示した。
今度は、一瞬の逡巡の後、それでも素直にシロは四つん這いになった。周囲の視線を確認することもせず。ただ、自分自身の才能だけを信じているのだ。
「お前の目、ヤギに似てる」
目の前の絵描きに言う。四つん這いの彼がその双眸でこちらを見上げる。
「ヤギの目、好きだよ。いつも笑ってるみたいで」
「悪魔の目だろ」
吐き捨てるように言ってやったのに、小さな絵描きは目を細めて笑った。本当に、悪魔と契約して好きなだけ絵を描ければいいのに、と。
自分だって、小学校に上がる前から地域のサッカークラブに入っている。サッカーは好きだ。幼稚園の卒園文集には将来の夢『サッカーせんしゅ』と書いた。けど、俺の夢と、シロの夢は、決定的に何かが違う。小器用な自分は、いつしか与えられた「分」というものをわきまえていた。けど、シロはどこまでも貪欲に天から与えられた「才能」を信じて究めようとしている。
なんでも適当に要領よくこなしていたのに、こんな屈折した感情が芽生えたのは、シロのせいだ。だから、その贖いを求めるように、俺はシロを見下ろしてさらに指示を出した。
結局、そのことを怒られた記憶はないから、動物園の片隅でひっそりと行われた光景は、誰に見られることもなかったのだろう。
けれど、俺の中の何かを決定的に変えてしまった。それが性癖というものだと理解したのはずいぶん後になってからだ。
24色の色鉛筆を贈ることで、自分とシロの関係は決定的になるはずだった。
けれど、シロは来なかった。
クリスマス会は冬休みに入ってすぐだった。本当に夜逃げのせいで来なかったのかどうか、俺は知らない。
その時ポケットに突っ込んだ黒と白の鉛筆は、今も実家の学習机の引き出しの奥に眠っているだろう。
この辺りだけであと2000字追加してほしいですね。非常においしい感じがしました。
▶︎結婚して、娘が生まれて、休日には家族で動物園に遊びにくる。仕事も順調だ。申し分のない幸せだ。けれど、いつも何かが足りないような不安がつきまとう。気のせいだと払拭するように、筋トレに励み、無駄に筋肉は付いた。子どもの運動会でたまに活躍する以外は、何の役にも立たない。ただただ筋肉の鎧を重ねていく。向かう先も分からないまま。
主人公は見抜く力がありながら、一般的な生き方を選んだのかなと。気付く不幸みたいなところがありますね。
♢
シロもミステリアスすぎず、りくろうも性癖開花の片鱗が見られますが堕ち切らず(?)。
それがリアルだと思いました。
みんな人間の皮を被って生きている。
自分の正体を知ったら戻れない気がする。
しかし、もしかしたらその戻れない場所にこそ生まれてきた意味があるかもしれません。
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