16話 黒服の男

その男はすっと右手を挙げた。その手には謎の水晶玉のようなものが握られている。




「作動」




 そう男が小さく呟くと、水晶玉が光り始めた。その光は膨らんでいっていたが、やがて収束し、そして炸裂した。


 眩い閃光に包まれる校庭。生徒たちは突然の出来事に悲鳴を上げる。




「なに、これ!?」


「何が起きてるんだ!?」




 突然の襲撃者に先生たちも対応することができず、あたふたとしていた。その隙に、男がもっていた水晶玉を先生たちが座っている観客席に向かって投げる。


 水晶玉は先生たちの上空10メートルほどで爆発した。衝撃波が空気を揺らし、更に悲鳴が上がる。




「おいおい...これヤバくね?」


 


 そう呟くのは観客席からレナの魔法戦を見ていた恭平だ。隣にいる琴葉も心配そうな顔をしている。




「私にやらせろ!」


「危ないから下がって!」




 一方で沙也加は自ら黒服の男を倒しに行こうとし、田島先輩に止められていた。飛び出していこうとする沙也加の腕を掴んで必死に止める田島先輩。しかしその頭はジタバタする沙也加の手が当たるせいでたんこぶだらけになっている。




 場面は男に戻る。一回目の爆発が収まったあと、男はポケットから更に2つの水晶玉を取り出すと、またそれを光らせ始めた。


 しかし、ここで流れが変わる。男は2つ同時に水晶玉を光らせたことで、光が溜まるまで時間がかかったのだ。


 その隙を見逃さずに動いたのは緩井さんだ。生徒たちにこっそりとかけていた魔力壁はそのままに、素早く固まっているレナの下へと移動。男に向けて軽く魔力弾を放って牽制しつつ、レナの首根っこを掴んで上空へと撤退。その間わずか3秒だった。




「しっかりしてください、レナ様!何かたまってるんですか!」


「はっ!えっと...とりあえず状況を教えてください...」




 ようやく我に返ったレナは、とりあえず状況を確認しようと緩井さんにそう聞いた。




「黒服の男が突如として陽光学園を襲撃しました。男の目的は不明。謎の爆発する水晶玉を使っており、効果は見ての通りです」


「えっと...冥美ってもってきてますか?」




 緩井さんからの報告を聞いて、レナは地上の状況をちらりと見ると、そう聞いた。




「マスター、冥美はここにいますよ」




 そう機械の合成音声が聞こえたかと思うと、緩井さんのポケットの中から冥美が飛び出してきた。黒い球体のフォルムについた羽をばたつかせながら、レナの横にホバリングする。




「マスターは黒服の男を、緩井様は生徒、教員たちにかけてある防御魔法の強化をお願いします。レナ様はそれを壊さない程度の威力での攻撃を、黒服の男にお願いします。状況が変化した場合、私が伝えますので、マスターと緩井様は戦闘に入ってください」




 冥美は状況を分析すると同時に、レナと緩井さんにそう指示を出した。




「てか、なんでこんな事になってるんですか......」




 もっともな文句を言うレナ。




「そんなことよりさっさと終わらせましょう。トゥエルブ・セインツでしょう」




 緩井さんはそう言うと地上へと降りていった。




「はーい」




 レナもそう言うと、黒服の男の下へと急降下していった。


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