第22話 毒殺の舞台

 竹ノ塚直人と牙城雅紀が刀を構え、緊張感がスタジオ全体を支配する中、

 別のセットで新たな悲劇が待っていた。


 豪華な衣装に身を包み、織田信行役を演じる鴇島慎吾は、控室で水を手に取った。

 その水は、スタッフが「安全」と言っていたはずのものだった。


 だが、口に運んだ瞬間――


「……っ、何だこれ……?」


 鴇島は激しくむせ、顔色がみるみる悪くなる。

 神崎ユウダイが駆け寄る。


「鴇島さん! どうしたんですか!」


 だが、鴇島は倒れ、息を荒げるだけだった。



---


 毒の正体


 スタジオ奥で、黒い影がほくそ笑む。

 竹ノ塚直人や牙城雅紀の混乱を狙い、誰も気づかぬうちに仕掛けられた毒。


 十河監督はカメラを手に笑みを浮かべる。


「これぞ、リアルな歴史の悲劇。

 信行、死す……

 役者も歴史も、誰も安全ではないのだよ」


 神崎は絶望した。


「やめろ……! これはもうドラマじゃない、殺人だ!」


 だが周囲のスタッフも震え、声を出すことすらできない。



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 スタジオの狂気


 竹ノ塚直人は刀を握りしめながらも、鴇島を一瞥する。


「……ふざけんなよ。

 俺たちの舞台で死人が出るとは思わなかった……!」


 一方、牙城雅紀は冷静に鴇島の体に近づき、毒の種類を探るように目を凝らす。


「……なるほど。人為的な毒だな。

 演技と復讐の境界線が、ここで崩れたか」


 スタジオ内の狂気は、さらに極限に達した。



---


 神崎の覚悟


 神崎は拳を握りしめた。


(……もう待っている場合じゃない。

 竹ノ塚も牙城も、十河も、筑前も……

 この狂気を止めるのは俺しかいない……!)


 彼は深呼吸をし、決意した。


「……ここで、時空も歴史も、スタジオも……すべてを元に戻す!」


 だがその瞬間、ライトが激しく点滅し、雨のような音が再びスタジオに降り注ぐ。

 そして、毒に倒れた鴇島の死体が、狂気の舞台装置の一部のように浮かび上がる。



---


 スタジオは完全に**“歴史と現実が交錯する地獄”**と化した。

 竹ノ塚直人、牙城雅紀、そして神崎――誰も安全ではない。


> 死者が増え、俳優たちの復讐心や狂気がさらに加速する中、

 果たして神崎は、歴史と時空の歪みを止めることができるのか――。



 📱 越後と美濃、二つの戦場

​『戦国バトルロワイヤル』:大桑城の戦い

​ 親との「大桑城の戦い」を終えた日、誠は心が空っぽになったような感覚に襲われていた。自宅という「城」の支配権は確保したが、その代償として家族の絆は修復不可能なほどに断絶した。

​ 夜、誠は自分の部屋で、スマートフォンを取り出し、熱中している位置情報ゲーム**『戦国バトルロワイヤル』**を起動した。彼の現在の「領地」は、現実の宇都宮の自宅周辺だ。

​ ゲーム内で誠が選んだ勢力は、皮肉にも、彼が夢で見た斎藤道三が仕えた土岐とき家。道三はもともと土岐家の家臣でありながら、主君を次々と追放・暗殺し、美濃一国を乗っ取った下剋上の象徴である。

​ 誠が挑んでいたのは、史実における道三の冷酷な下剋上の極致、**「大桑城おおがじょうの戦い」**のシミュレーションだった。

​ 

 ミッション:大桑城の戦い

​ 敗北条件:

​ 味方(土岐頼芸)の討死

​ プレイヤーの武将(土岐頼純)の討死

 裏条件(特別設定): 斎藤道三の謀反失敗(道三の武将生命の維持)

​ 誠は驚愕した。

​ これはゲームのアップデートで追加されたばかりの、異様な「裏条件」だ。通常、この戦いは道三が主君の土岐頼純を謀殺し、美濃を掌握するシナリオである。しかし、この設定では、道三を謀反に失敗させ、生き延びさせることが、土岐家(誠の勢力)の勝利条件にすり替わっていた。

​「道三を倒さないと……父が死ぬ?」

​ 誠は背筋が凍りついた。昨夜の夢、そして今日の現実の父との対峙。その記憶がゲームの画面に強くフィードバックされた。ゲームの裏条件が、彼の潜在意識の叫びを形にしているかのようだった。

​ 誠(土岐頼純)は、道三の裏切りに気づき、彼を討つというシナリオでプレイを開始した。

​ しかし、道三の知略値は異常に高かった。誠が道三の軍勢を叩き潰そうとすると、画面にシステムメッセージが飛び出た。

​「道三の知略により、味方武将『稲葉一鉄』の忠誠度が低下しました。敵に内通の気配」

「道三は、プレイヤーの行動を予測済みです。罠が発動!部隊の移動速度が低下します」

​ 道三の容赦ない知略が、誠の軍を翻弄する。

​「まるで、**『設計図』**のようだ……父さんが、僕の行動を全て見透かしていたように」

​ 道三は、誠の現実の父と同じく、完璧な「設計者」だった。この「設計図」を打ち破らなければ、誠の勝利はありえない。

​ 誠は、道三の動きを逆に利用することを決めた。道三が罠を仕掛けた場所へわざと少数部隊を送り込み、その隙に、道三の本隊が最も手薄になるであろうルートへ主力部隊を迂回させた。

​ それは、自分の収入を無視してまで家を大きくしようとした父の「見栄」という弱点を突き、**「破産」**という最終手段で勝利した、現実の戦い方と同じだった。

​ ゲームのBGMが激しくなる中、誠の主力部隊が道三の本陣に迫る。

​「斎藤道三に大打撃!重傷を負いました!」

「ミッション成功条件達成:斎藤道三の武将生命を維持しました」

「土岐頼純の勝利!美濃の支配権を回復!」

​ 誠は静かに息を吐いた。勝った。道三(支配者)を討ち取らず、かといって許さず、その力を借りずとも、自らが勝利するという、**「第三の道」**を見つけた。

​ その瞬間、画面の隅に小さな通知が表示された。

​「特別報酬:越後の地勢図(暗号化) を獲得しました」

​ なぜ、美濃の戦いで越後の地勢図が? 誠は首を傾げた。

 苗場との符合

​ 親との戦いに勝利し、ゲームでも「支配者」からの自立を達成した誠は、再び苗場へと戻る。彼は、この二ヶ月間で得た冷徹な「覚悟」を、そのまま職場に持ち込んだ。

​ そして、苗場の山で目撃した黒塗りヘリと、地中探査の「特別な客」の秘密が、ゲームから得た**「越後の地勢図(暗号化)」**と、奇妙に結びつき始める。

​ 12月16日深夜。誠は、黒塗りヘリが着陸した第3ロマンスリフト付近で、重機による掘削の音を聞いた。

 ​彼は雪に伏せ、カメラを構えながら、昨夜のゲームで獲得した**「越後の地勢図」を思い出していた。それは、ただの地形図ではなく、特定の座標に、古代の文字のような奇妙なマークが記されていた。その一つが、なんと第3ロマンスリフトの山頂駅近く**を指していたのだ。

​ 誠は急いでスマホを取り出し、ゲームの地勢図の座標を、現実のGPS情報と照らし合わせた。

​間違いない。この座標、この場所に、あの黒塗りのヘリコプターが降り、**地下の「匂い」**を探る作業をしている。

​「これは、偶然じゃない……」

​ あのヘリコプターが投下した円筒形の装置は、単なる観測機ではなく、地下深くの**「何か」を正確に探知するための、軍事的な精度を持つ機器に違いない。そして、彼らが探しているものは、もしかしたらこのゲームの地勢図が示している「古代の遺構」や「埋蔵物」**ではないか?

​ 誠の目の前に広がる苗場の雪原は、親の支配下にあった自宅のように、外部の巨大な権力と利権によって、静かに侵略されていた。

​ 彼は、カメラのファインダー越しに、作業服の男たちが掘削している現場をズームした。

​「親父を打ち破った『覚悟』は、この山を守るために使う」

​ 誠は、**シャッターを切った。**それは、彼が「特別な客」と、その背後にいる藤田部長に対し、宣戦布告をした瞬間だった。



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