冴えない女の霊会話!?

@LLBe222

第1話

「美咲ちゃん!仕事早いね!これも頼むよ!」


ドンッ


美咲、と呼ばれる彼女のデスクに、追加で資料を置き、

気味の悪い笑みを、浮かべる上司。


「あ、はい……」

またかこいつ。

彼女は、感情を露にし、返答をしてしまうが、上司は構わず話し続ける。


「いやぁ君、何年目だい?なかなか居ないよ!こんなに優秀な子は……!」


「どうも……」


彼女は、目も合わせず、目の前のPCの画面を、ただ真っ直ぐ、見つめていた。


ー残業後ー


「はぁ……」


彼女は、神崎美咲。

25にもなって、浮いた話も、恋愛経験も無い、世間一般でいう「冴えない女」だ。

年齢も年齢だからか「別に恋愛なんて興味無いし」って言い訳がもう通用しない。


仕事帰り、美咲は、愚痴をウダウダ吐きながら、帰っていた。


「禿げたおっさんに下の名前で呼ばれて、マジ意味わかんない……なんなの……。あんなオッサンに、褒められる人生より、イケメンにチヤホヤされたいんだって……まぁ家に帰ったら、推しに会えるからいいんだけど、居なかったら私死んでるからね。まじでさ、ここ安いから契約したけど、駅から予想以上に遠いのほんとに不便すぎるし、駅近って重要な要……は?……誰?」


若い女が家の前座り込み、項垂れている。

金髪、ショートパンツ、オフショルで、ネイルはピンクでバチバチに飾る、そんな女が、項垂れているのだ。


関わりたくない……。と美咲が、感じたのもつかの間、こちらに気づき、いきなりその女が駆け寄ってきた。


「あ!あぁぁあ!ウチが見えるん!?」


美咲は思わず距離を取り、後退したが、慌てたためか、腰を抜かしてしまう。


「ちょちょちょ……!!ストップ!ストップ!!何?何?一旦待って!!!」


倒れつつ、手で精一杯の制止をし、女に語気を強め、美咲は言い放つ。

が、その女は続けて、こう話す。


「見える人にやっと会った!ウチ!ここで殺されたんよ!!」


美咲は幼い頃から、霊の実体が見え、対話ができるのである。

ただ美咲は困惑しつつあった。ここまで干渉してくる霊は始めてだからであり、更に、意に介さず会話を続ける女。この女、バカである。


体制を立て直し、顎に手をやり考え込む美咲。

この女、ここで殺された……?確かにそう言った。

家賃の安さに惹かれて、契約したこの部屋、事故物件。不動産屋からは失踪とは聞かされていたが……。


まさか……と思い、美咲は、絶望感に襲われ、ため息混じりに肩を落とす。


「……だまされた。」


こちらが見えているのか、いないのか、というレベルで

目の前のバカ女は、懇願の姿勢を変えず、手を握って瞳を潤ませている。


「だまされた……?」


そのまま首を傾げて、問いかけてくる女に、嫌悪感を覚え、目も合わせず、美咲は言い放つ。


「……失踪。失踪したって聞いてたんです。第一私、霊が見えるんだから、殺人事件って分かってたら、契約してないです……」


「あー多分、それは……ほら私、自分の身体がまだ……山の中に埋れて……見つかってないから……?ごめんね?」



気まずそうに一瞬目を逸らした後、また、先程のように甘えた顔に戻る女。

例えるなら、一瞬一瞬、適切な顔に切り替える、そう、人気アイドル。

この女、バカではない……?計算高い女なのかもしれない。


まるで未知との邂逅。「冴えない女」として、全く関わってこなかった人間、いや、避けて来た人間との、初めての関わりが、こんな形か。と思わず天を仰いだ後、一呼吸置き、美咲は尋ねる。



「……失踪扱いって事は……事件起きてから少し経って、今現れるんですね」



今度は少し気を落として、再度話し出す女



「犯人を、呪い殺してやろうとずっと追い回してて……顔も素性も、ぜーんぶ知ってるのに、のうのうと……。でも私の声なんて、届かないし…殴れないし、訴えれないし!難しい事はわかんないし!って、時に現れたのがあなたなの!も〜マジ神!ありがとう!助けて!お願い!」



『喜怒哀楽』の『楽』以外が全て詰まった返答に、ドン引きする美咲。

男に懇願してたら、きっと、すぐに引き受けているだろう。と美咲は考えたが、むしろ、この態度は美咲の嫌悪感を助長させた。まともに相手もせず、肩にかけたカバンを整え、ドアに手を手をかける。


「いやいやいや……めんどいめんどい……てかあなたのこと全然知らないし……」


「会えた感動で忘れてた!うち、愛美で〜え〜っと歳は21で〜ちょ待って!どこ行くの!?」



底抜けのバカに、呼び止められる美咲。



「どこって……家に入るだけですよ、私の家。推しも待ってますし、正味苦手なタイプ。見た目的に、私と相容れないタイプだなって、そっちも分かってるんじゃないんです?」



早口で捲し立て、さっさと終わらせようとする美咲。

ウザイ、消えて欲しい、等の美咲の鬱憤が詰まった言葉だった。



「そうは言っても……!他に頼れるとこがないもん!お願い!ね!私、命はって家賃安くしてあげてるじゃんか!!」



まるで駄々っ子のように、バタバタする愛美。

無視して、家の中に入るつもりが、愛美の言う『命をはって、家賃を安くしている』という文言に引っかかり、思わず返答を、してしまう美咲。



「……まぁ確かに家賃安いのは、ありがたいですが……それとこれとは……」


「えー!お願い!呪い殺しちゃうよ!お願いお願い!」



美咲は、愛美の、冗談か本気か分からない言動の全てに困惑して、気圧されつつあり、

気づけば、面と向かって、会話を続けていた。



「いや、どうして犯人じゃなくて、私が、先に呪い殺されるんですか……?どういう風の吹き回しです?」


「もー!いいじゃんかー!お願いだって〜!本当になんでもする!命かけるって!」



愛美は、早く承諾して!と言わんばかりに、感情をぶつけ話してくる。

化けの皮がもうすぐ剥がれるか……と考えたが、美咲は、ある事に気づく。

そう、今ずっと、このやり取りは、傍から見たら、一人で行っているように見える事に、気がついた。

周りに気づかれたら奇異の目で見られてしまう……。そんな思いに、急かされるかのよう、美咲は嫌々承諾したのだった。



「いや、もう死んでるし……はぁ……もう分かりましたよ……。協力してあげますよ……。やればいいんですよね、や、れ、ば」



周りに悟られぬよう、声量を抑えつつ、怒りを交えて返答する美咲に対し、

愛美はその場で2回ほど飛び上がり、全身で喜びを表現するのだった。



「ありがとう〜!早速相手のやつの素性教えていくから!あ!そうだ!あんたのことなんて呼べばいいの?名前知んないし!」



飼い主を見つけた、ペットのように屈託のない笑顔で、キラキラとした、愛美に少しだけ、美咲は、可愛さを見出してしまっていた。



「神崎美咲。25です。呼び方なんて、なんでもいいです」


「美咲〜!みさきちじゃん!みさきちにしよっ!」


「うっさいですよ。さっさと家に入ってください。こんな所で話してると、奇異の目で見られますし」



少し照れくさくなった美咲は、思い切りドアを閉め、素早く鍵をかけた。



家に入り、とりあえず普段通りの行動をし、

一息つく美咲。



「あの、私が着替えたりしてる最中 話をされても、完全には聞き取れませんが…とりあえず、犯人は金張哲也さんですね?殺されたのは、ここのお風呂場で、山中に遺棄されたと……んで職業 ホスト、割とイケメンで、とか余計な情報入っていますが……面識はあるんです?それと損壊なしで、死体を運ぶとしたら、1人で遺棄を行ったとは考えにくい上、協力者が居そうですね。考えれるとしたら……弱み握らせた後輩とかじゃないですか?」



淡々と、早口で述べていく美咲。



「面識は無い……けど、すごい、みさきち凄くね?冷静にこんなに考えて……怖いと感じたりしないの?」



さっきとは、打って変わって、静かに驚く愛美に、美咲は、呆れつつ返答した。



「別に……昔からこういう話は読んだりしてて慣れてますから。」


「てことはやることは1つ?早速哲也とやらのとこ行こー!」



立ち上がり、玄関の方へ走り、無策で行く愛美を、制止するため、美咲は、急いで話し出す。



「待ってください……!私が、見えない貴方を、連れて行ったところで、誰ですか?状態で、意味わかんないですし、まともに取り合うわけもないですよね。」


「そうか……うち見えないんだった……」



愛美は、興奮状態から、一気に突き落とされ、肩を落としてしまう。

少し、不憫に思った美咲は、間を空け話す。



「……そんなに沈まないでください。ダメ元ですが、警察に行ってみるしかないですね」


「……警察。あんま信用ないけど……」



落ち込んだままの、愛美に

無自覚で偏見を突きつけて、攻撃してしまう美咲。


「あなたみたいな見た目の人って、本当に警察嫌いですね」


「嫌いなもんは嫌いだもん!」



先程までの、態度とは違い、牙を剥いた獣のように、愛美は睨みつけて来たが、なかった事のように美咲は続ける。



「……とりあえず、行くしかないです。……さっきの理由に加えて、犯人に凸して私が殺される可能性もある以上、会いに行くのは愚策ですしね。」


「確かに、みさきちが死んだら、うちのお願いを聞いてくれる人が居なくなるってこと!?それは困るし!ほんとに頭良くね!?」


少し、考えてから

テンションを、尻上がりに上げてくる愛美に、

ここまでバカだとは……と

ほとほと愛想が尽きた、美咲が言い放つ。


「あなたがバカなだけですよ」


「は!?ぶん殴るよ?」


美咲を、またも怒りの表情で、見つめる愛美に、顔も合わせず、放るように、美咲は返答した。


「当たりませんよ」


「マジムカつく!うっざ!」



ー続くー

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