【アドベントカレンダー】禅士院雨息斎のネクロマンシー劇場

尾八原ジュージ

2025/12/01

 その日やってきた女性はまだ若く、黒いロングワンピースの上に白いエプロンをつけ、バレリーナみたいにキチッとお団子にした頭に、何と呼ぶのかわからないが白いヒラヒラを載せていた。言い換えれば、見るからに「メイド」という恰好だった。

 彼女に付き添っていた男性は暗色のスリーピーススーツを着こなし、グレイヘアをオールバックに整え、上品な口ひげを蓄えたうえに、丸眼鏡をかけていた。やはり見るからに「執事」という感じだ。

 応接間に通した途端、メイドさんが「オオオオン」と声を上げて泣き出したので、おれは困惑した。


「大変失礼いたしました。わたくしは御泥御泥四木おどろおどろしき家の使用人の羊田ひつじだ、こちらはメイドの小松貝こまつがいと申します」

 隣のソファに座っていた、いかにも執事っぽいおじさん――つまり羊田さんだが――がそう説明してくれた。

「ご多忙のところ、お時間をいただきありがとうございます」

「いえいえ、お急ぎのようでしたからね」

 彼らの体面に座って鷹揚に応じるのは禅士院雨息斎ぜんしいん うそくさい先生、今巷で話題のイケメン霊能者である。相変わらずの黒っぽい着物で、澄ました顔も平常運転だ。

「実はこの小松貝が、山中家のお嬢様からお伺いしたのですが……」

 山中家のお嬢様には思いっきり心当たりがある。山中春子やまなか はるこ嬢、現役女子大生のゆるふわギャルである。途端にはずかしい思い出がこみ上げてきて叫び出しそうになったので、おれは頬の内側を噛んで堪えた。

 申し遅れたが、おれの名前は柳裕介やなぎ ゆうすけ。禅士院雨息斎先生の助手を務めている。趣味はパルクール、そして霊感はない。

「やっ、山中の春子様がっ、雨息斎先生はっ、ゆ、優秀な霊能力者でっ、おられるとっ」

 小松貝さんがしゃくり上げながら喋りだしたが、あまりにも喋りにくかったのだろう、途中で盛大に鼻をかむと、

「失礼いたしました」

 と頭を下げ、改めて話し始めた。

「春子様によれば、雨息斎先生は以前、降霊術によって殺人事件の犯人を指摘し、見事捕まえられたことがおありだそうで……」

「なるほど、確かにそのようなことがありました」

 雨息斎先生は腕を組み、深くうなずいた。「春子さんもあの場にいらっしゃいましたから、よくご存じだったでしょうね」

「ええ、それはもう、詳細にお教えくださいました……先生! 実はそのお力をわたくしにもお貸し願いたいのです! 先日亡くなられたお嬢様の霊を、降ろしていただきたいのです!」

 そう言うと感極まったのか、小松貝さんはまた泣き始めてしまった。先生は落ち着いたもので、羊田さんと一緒に小松貝さんを宥めながらボックスティッシュを差し出したりしている。


 だが助手であるおれは知っている……この禅士院雨息斎という男、霊能力などかけらもない、インチキ霊能力者なのである!

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