第10話 売られたケンカは買う その10

 胡蝶と別れた後…恋人繋ぎをしようとする鈴と、それを躱し続ける菜緒。

 二人は横に並んで歩いていた。


「ん?」

 ふと、菜緒が立ち止まり、辺りを見渡す。


『荒いけど…《詳細探知》の結界かな?』

 周囲に張られた霊力による結界。菜緒にしたら下手すぎて、効果の判別が難しかった。


 一応…警戒を強め、鈴を守れる体勢を取ろうと…

「鈴ちゃ…」

「ガンッ!」

 鈴の姿が消え、代わりにナニカの物体が現れ落ちた。


「ピーーーー」

「っ!?」


「ドーン!!!!」

 菜緒の至近距離でその物体が爆発した…



 * * *



 菜緒は無傷だった。

 爆弾は爆発したが、菜緒が瞬時に張ったバランスボール大の結界内に抑え込んだ、が…


 左手で顔を押さえ、息が荒くなる。

『鈴ちゃんが連れ去られた………誘拐目的じゃ無かったら、今頃殺されて…』


 ズシャッ

 …菜緒の左足が内側から裂けた。

 左足がダメになり、バランスを崩して左手を地面につく。


 菜緒が鈴にかけた呪いの効果…鈴が受けた傷は直ぐに治り、菜緒に傷が移る。即死しなければ死なない。

 


 ブチンっと、菜緒の中で何かが切れた。

 …鈴が拐われただけでなく、傷つけられた。傷は治っても痛みはある。

 菜緒が、怒りを我慢できるハズがなかった。


 瞳が濁り、殺気が漏れていく

 左足の傷が一気に治っていき、ゆらりと立ち上がる。



 舐めていた


 驕っていた

 

 気を抜いていた


 手加減しすぎていた…


 誰も菜緒を倒せない、殺せない。本気を出す必要が無い、いつの間にか力を抑える癖がついていた…。



『蘭…死んでも鈴ちゃんを守れ』

 鈴が身につけている式神に心の中から、指示を送る。


 頭の中に一言、返答が来た。

『り。』

 時間を…菜緒に返答を伝えることに使うよりも、命令を果たすことに使おうと、一文字になった。


『さっきの《詳細探知》、それに《置換》の術式を重ねて………鈴ちゃんを物扱いした?』

 鈴を攫った方法を、菜緒なりに考察しようとしたが…怒りに思考を塗りつぶされていく。


『術式を弄った?……鈴ちゃんを物に誤認させた?』


「…どうでも良いか」


 周囲の結界を《支配》、強制解除。

《詳細探知》の結界を強引に壊した。


「チッ、結界がやられたか…だが殺人姫は右腕を失って弱っている。今なら殺れるぞ!」

 竜宮院家の人間達が菜緒を取り囲む

 竜宮院 尊が喫茶店を出た後に向かわせた、菜緒を足止めさせるための駒。


 数を揃えれば勝てると思い込んだ、雑魚共は…


 蟻が龍に挑むがごとき、圧倒的な力の差を理解していなかった。


 …右腕を失っている位で、覆る差ではないというのに。

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