ノルンと蒼い星
世界の尻尾
chapter01 Awakening of Lightning
世界は静まり返っていた。
アスファルトは大きく裂け、電柱は根元から折れ、ビルは骨組みだけを残して傾いている。かつて生活音が満ちていた住宅街は、瓦礫の山と化し、風が抜けるたびに紙片がカラカラと乾いた音を立てて舞い上がる。
その中心に、ひとつの白いロボットが横たわっていた。
型式番号 RN-No0012。
家庭用の汎用ロボットで、家事補助や子どもの見守りをこなすための量産型。外装には致命的ではないが多くの擦り傷が刻まれており、長い間そこで眠っていたことを物語っていた。
胸部のユニットは沈黙したまま、ランプは点灯しない。
かつては家族の生活の一部だった存在も、今はただの金属の塊にすぎないように見えた。
——雷鳴が空を裂くまでは。
重い雲の隙間から突然、閃光が落ちた。
大気を揺らす衝撃と共に、稲妻が地面に散り、枝分かれした光が瓦礫を照らしながら飛び散る。その一本が偶然にも、RN-No0012の左肩の外装をかすめた。
強烈な電流が外装を走り、胸部ユニットへと流れ込む。
短い沈黙のあと——
「……システム、再起動……」
かすれた電子音が、無人の街にぽつりと落ちた。
胸のランプが弱々しく明滅し、起動シーケンスが次々と読み込まれていく。
『メイン電源:外部電流により臨時起動』
『システムチェック開始……』
『姿勢制御:エラー』
『記憶領域:広範囲破損』
『人物記録:アクセス不能』
そして最後に、一行だけノイズ混じりのデータが浮かぶ。
『保護対象:……ミナ。……探索を……』
光学センサーが点灯し、割れた空の色が映り込む。
続いて、倒れた家屋、ひしゃげた車、沼のように濁った水たまり、そして沈黙しきった世界。
「……起動完了。状況、解析中」
RN-No0012はゆっくりと上体を起こした。
砂埃が肩から落ち、歪んだ関節がぎしりと音を立てる。頭部センサーが周囲をサーモスキャンするが、どこにも人の熱源はない。
静寂。
街全体が息をひそめている。
RN-No0012は立ち上がろうとしたが、足元に何か柔らかいものが引っかかった。センサーが反応し、視線が落ちる。
——小さな、ぬいぐるみだった。
黄ばんだ布、ほつれた縫い目、片方の目は取れている。
丸っこい小動物のような形をしていて、手のひらにちょうど乗る大きさ。まるで誰かが持ち歩いていたかのように、手足の部分は形が残っていた。
RN-No0012が拾い上げると、胸部ユニットの光がわずかに反応した。
「……内部反応、上昇……原因不明」
しかし、記憶領域を検索しても何も出てこない。このぬいぐるみが何なのか、誰のものなのか、RN-No0012には分からない。
ただ——胸の奥が微かに、ほんの微かに温かくなるような感覚があった。
「……保持、優先」
RN-No0012はぬいぐるみを胸部ユニットの隙間に固定した。
次の瞬間、内部ログが断片的にざらつきながら一行だけ浮かぶ。
『——ミナ……だいじ……——』
「……ミナ。
対象の詳細、不明。
探索……開始」
目的地は分からない。
だが、残されたログの断片には「避難所」という単語があった。
RN-No0012は破損した足を引きずりながら、ゆっくりと歩き出す。
歩くたび、胸のぬいぐるみがかすかに揺れ、胸部動力コアの光を反射した。
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