三人寄れば、ティーパーティー

「まぁ座って、座って」


 綾香に促されるまま、豆美は室内へと通された。入ってすぐの玄関から、右手のドアを抜けてリビングへ。赤黒のソファに豆美が腰かけて、対面の座椅子に綾香は収まった。室内のインテリアの配置は、豆美の記憶の中と取り立てて変わっているところは見受けられない。


 玄関では左手のドアの向こうから子供たちの声がしていた。もしかしなくても、まだレッスン中だったのかもしれない。


「すみません、まだレッスン途中でしたか?」


「いんや、大丈夫。今は有能なアシスタントさんがいるからね」ひらひらと顔の前で手を振って、綾香は言う。どこか意味深な笑みまで浮かべている。


「……で、今日はどうしたの?また教室通いたいっていうんでもないでしょう?」片手の上に顎を置いて、綾香は豆美のことを真っすぐに見据えてくる。この人の前で、嘘を吐いたとしてもきっとすぐにバレてしまうだろう。豆美は観念して、正直に偶然に渚を見かけたこと、彼女が勉強をほっぽり出してまで何をしているのかつい気になって、隠れてここまで追って来たことを話した。


「ふむ。なるほどね」綾香が低く溜息を吐くのと、ドアの向こうで子どもたちの騒がしい声が大きくなるのとはほとんど同時のことだった。その後、玄関のドアの開け放たれる音が続いた。レッスンは終わったらしい。


 ドアの閉まる音がするまで、二人とも何も言わなかった。言わずとも分かっていたのだ。もうじき、子どもたちを保護者の元へと送り届けた、件のアシスタントがこの部屋に戻ってくるだろう。


「終わったよ」ドアを開けて、部屋に入って来たのは、やはり渚だった。制服姿のままであるけれど、そちらの方が子どもたちにとってはむしろ親しみやすいのかもしれない。


「……お疲れ様。豆美ちゃん、来てるよ。さ、お菓子でも食べようか」渚と豆美の二人が緊張した面持ちでいるのに反比例して、綾香一人だけが子どもみたいに無邪気で楽しそうにしていた。

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