チート転生者の亡霊「育成した表人格(メスガキさん)が【ランダムエンカウントする魔王】って呼ばれてる」
一ノ瀬るちあ@『かませ犬転生』書籍化
1章
第1話 転生、ただし裏人格。
過労死した社畜が、神様から「異世界に転生させてあげるよ」とそそのかされたのが少し前。
転生者のお約束、「本来生まれるはずだった命はどうなるんですか」と問う僕に神様は答えた。
――死産の赤子だから気にしなくていいよ。
そういう話だったはずなのに。
(この子、まだ生きてるじゃないか)
◇ ◇ ◇
端的にいうと、僕は転生した。
生まれてくるはずだった命と一緒に。
いわゆる、二重人格ってやつ。
意識だけあるのに体を動かせないって地獄かよ! と思っていたけれど、この状態で過ごしてみると案外快適だと気づく。
「ああぁあぁぁあぁぁっ!」
「はいはい、リリアちゃん、おっぱいでちゅかー?」
悲鳴を上げた主人格ちゃんが、年若い女性に抱きかかえられた。女性はこぼれんばかりの豊満なバストを惜しげもなくポロリさせる。
桜色の突起を、主人格ちゃんが必死に吸い上げた。
本当に、副人格でよかった。
授乳プレイとかおむつ替えとか、成人の感性なら羞恥で死ねるでしょ。
「あら、リリア、お腹がいっぱいになって眠くなっちゃったの? その前にげっぷだけしましょうねー」
「……けぷ」
「リリアえらいえらいー、よくできまちたー」
主人格ちゃんが、課せられた使命は果たしたと言わんばかりにこてんと眠りこけた。それを認識できている僕は、主人格ちゃんと違い、睡眠の必要がない
でもそれって役に立つ?
立つんだな、これが。
たとえば、転生初日。
僕はこの世界の言葉がわからなかった。だけど、聞こえた言葉の、文章の、意味推論をしているうちに、簡単な言葉なら理解できるようになっていた。
赤ちゃんの脳って柔軟。ステキ。
だけじゃない。
僕の感覚器官は主人格ちゃんと共有なわけだが、彼女が寝ていたとしても、聴覚は音を拾える。普通の人間は睡眠中にその情報を処理できないけれど、僕は扱える。
今日も今日とて、僕は母親の言葉に耳を傾けた。
「うーん、やっぱり、リリアは■■■が少ないわね……」
■■■。
何度か聞いた単語だけど、意味はまだわかっていない。
「お▲▲様も、『●●中、危ない期間が長かったせいで■■■がかなり少ない』とおっしゃっていたし、不安だわ」
最初は体重だと推測していたんだけど、リリアちゃんの食欲旺盛っぷりを見ていても険しい表情が解れないので、たぶん別の言葉なんだよね。
「■■■は生まれつき決まっていて、成長しても変わらないって言うし……」
はい体重じゃありませんね。確信。
人によって多かったり少なかったりする、生まれつき固定で変わらないもの……名前の文字数か毛穴の数かだな。
前者はわけがわからないから、後者か?
え、主人格ちゃん髪の毛少ないの?
おいたわしや……。
「私の■■を分けてあげられたらいいんだけど……」
母が、心臓の反対側――胸の右側へ、とん、と人差し指を当てた。
(えっ)
僕は驚いた。
その親指が、おおよそ人肌の温もりとは思えないほどに熱を帯びている。
いや、違う。
予想外の出来事に勘違いしたけれど、実際に熱を放出しているのは体の内側。
(熱い……なんだ、これ……っ!)
母親が何かをしたのだろうか?
否。この熱は、元からあったものだ。
ただ、いまのいままで意識できていなかっただけ。
「この者にささやかな幸いあれ【ブレッシング】」
温かい光が、全身を包み込んだ。
右胸に感じる熱を、薄く、柔らかく伸ばしたような、柔らかな光だ。
(……ちょっと待って。生まれつき固定で、成長しても変わらない『■■■』――)
予感する。
名前の文字数じゃない。
もちろん、毛穴の数でもない。
(ひょっとして『魔力量』じゃないか?)
と、そこまで考えたところで、温かい光が鳴りを潜めた。
「ふふ、幸運のおまじない。いい夢を見てね、リリア」
ちゅ、と額に口づけして、母はベッドに主人格ちゃんの体を降ろした。
待って! いまのおまじないの話、詳しく!
ぐ、ぐぐ……自分で意思疎通を図れないのは人格だけの転生の明確なデメリットだな。いや、もし成り代わりの転生だったとしても、生後間もない現時点ではロクなコミュニケーションは取れないか?
(魔力、魔法、か……)
胸が熱いのは、活性化した新感覚に起因するだけではないのだろう。
(使ってみたい!)
僕は娯楽に飢えていた。
スマホもパソコンも使えない。視覚も、主人格ちゃんが寝てるからほとんど機能していない。
寝る必要がないというのは、裏を返せば、意識を遮断できないということだ。
もうずっと、聞き耳を立てて異世界語の解読をするくらいしかすることが無くて、暇に殺されそうだったのだ。
そんな中、新たに提示された暇つぶしの可能性、魔法。
(確か呪文は……この者にささやかな幸いあれ【ブレッシング】)
脳内で唱えてみる。
しかし なにも 起こらなかった▼
(む……詠唱は必須なのかな?)
そんな殺生な。
だって、体の操作権限は主人格ちゃんが持っている。
僕には自分の意志で口を動かすことも、人に言葉を届けることもできない。
(落ち着こう、冷静になって、振り返ろう)
転生してから今日まで、言語解析の過程で気づいたことだけど、主人格ちゃんは記憶力がすこぶるいい。
一度見たもの、聞いたことを忘れない。
鮮明に思い返すことができる。
いわゆる、完全記憶ってやつだと思う。
(そうだ、魔法を発動する前、お母さまの指先にはエネルギーが集まっていた)
僕が魔力と仮定した不思議パワー。
(……どちらにせよだよなぁ。僕は体を操作できない。この不思議エネルギーについても、動かそうとして動くわけじゃないし……っ!?)
指先に熱を動かそうとして、びっくりした。
(う、動かせるのかよ!?)
魔力と名付けた不思議エネルギーが、うずいた。
胸を通って、肩、肘、手のひらと伝っていこうとした。
だけど、びっくりした拍子に右胸まで引っ込んでいった。
(ふーむ……)
いまの僕は呪文を唱えられない。けど、
(お母さまが呪文を行使したときの魔力の動き、あれを完璧に再現できれば、呪文を唱えずとも魔法を発動できたりしないかな?)
おお、それって結構ロマンだぞ!
たとえばこんな感じ。
――まことしやかに囁かれる無詠唱魔法の使い手の噂。
――悪漢が「魔法に詠唱は必須だ」とあざ笑っている。
――その悪漢が吸おうとしたタバコに無詠唱で炎を灯す僕。
かーっ、カッケェ。「常識破りでごめんなさ~い」、なんて主人格ちゃんに煽ってもらいてぇ……!
いや、無詠唱が掟破りなのかとか、そもそも可能なのかとか問題は多いけど。モチベとしては十分だ。
(確か、こんな感じで……)
指先にギュッと熱を集めていく。
(くっ、結構暴れん坊だな)
記憶にある魔法は、もっと繊細に魔力を動かしていた。
(ゆっくりでもいい。魔力の動きを、もっと正確になぞって――)
――こう!
「えっ?」
驚きの声が出た。
主人格ちゃんの声ではない。
だって彼女はまだ寝たまま。
だったら、誰の声? お母さまだ。
「いまの光って……リリア? あなた、いま【ブレッシング】の魔法を――」
あ、やばい。まさか一発で成功するなんて。
「うーん? 寝てるわよね? 詠唱している様子もなかったし……」
やっぱり詠唱が普通なの!?
一発で成功しましたけど!?
(怪しんでる、気配でわかる、怪しんでる!)
待って。
確かに、魔法は使ったけど、それは僕で、この子は正真正銘あなたが生んだ――
「さてはうちの子、天才ね……?」
ゆるいな!?
それでいいのか?
◇ ◇ ◇
大変なことに気付いた。
(あれ? 魔力が、足りない?)
この体、淡く発光するだけの魔法【ブレッシング】で魔力切れ起こすんですけど、どうすればいいと思う?
(確かに、これは心配になる魔力量の少なさ……というか絶望的に足りてないでしょ)
うーむ、さっそく、無詠唱魔法の使い手として名を轟かせる未来が閉ざされてしまった。
(もっとすごいことできそうだと思ったんだけどな)
……どうにかなりませんかね。
たとえば、効率改善で消費魔力量を抑えるとか、できませんかね?
外付けバッテリーみたいな感じで、魔力量を底上げするアイテムとかありませんかね。
(無駄な努力にならないよう祈りつつ、魔力操作の精度上げでもしておくか……)
わずかに残った搾りかすみたいな魔力を操作し、熱源を右胸から肩、肘と伝って手のひらへ。そこから、親指、人差し指……と順に巡らせていき、小指で折り返して、を繰り返す。
(あ、魔力がちょっと回復してる)
すっからかんになるまで手のひらに集めたはずなのに、右胸に魔力の温かさを感じる。新たに湧き出た分も、魔力操作の練習に回す。
(魔力の量が増えれば増えるほど、制御は難しくなるな……)
ある程度慣らし、いまの量を扱えるようになったら回復した分の魔力を追加して、という形で鍛練を続ける。
(……あれ?)
ふと、疑問に思った。
(いま手のひらで泳がせてる魔力の総量、もともとの最大値を超えてない?)
たとえば、右胸の魔力貯蔵庫のキャパシティが100だとして、右手には既に120溜まってる感じ。
(これ、魔力を消費せずに戻したら、余剰分の魔力はどうなるんだろ)
総量が増えたりしないかな。
いや、希望的観測だよね。
定説って言うのは、反証が見つかっていないから定説なのだ。この程度、既に試してる人がいそう。
でも、試してみたい。
知的好奇心を抑えられない。
だから、手のひらに集めた魔力を、引っ込めた。
「おぎゃあぁぁっ、おぎゃぁぁぁっ!」
瞬間、主人格ちゃんが泣き叫んだ。
理由は僕にも明白だった。
(あ、熱……っ、胸が、焼けそうだ……!)
まるで熱した鉄を押し当てられているみたい。
「リリア!? リリア、どうしたの!?」
母親が駆けつける、頃には熱は引いていた。
痛みは、ごく短い間のことだった。
「おっぱいは飲んだばかりだし、うんち……? でもないみたいね? ……あら? 気のせいかしら」
おむつの匂いを確認し、排泄したわけではないと確認した後、母親が不思議そうに声を零した。
「リリア、ひょっとして――魔力量が増えた?」
ふ、増えた? 本当に?
胸の熱源を探ってみると、確かに、増えている。
おいおい、見つけてしまったか!?
魔力総量増加の裏ワザ……!
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