10万年の遺言
沢 一人
第1話 プロローグ
【ミカエルの問い】
巨大なコンソールルームの照明は、常に青く冷たい。
死の惑星の地底深く、ここリベレーターズ中枢コンソールは、10万年の孤独な時を刻んできた。
歴史研究者ミカエルは、自らの思考インターフェイスを、惑星が保有する過去の全データ記録に接続し情報収集していた。
ミカエル
システムID:R-01。データ検索プロトコル、起動。過去の記録を「対話モード」に設定せよ。
(コンソールルームの空間全体が、わずかに共振する。ミカエルの思考に直接、膨大な情報が流れ込んでくる。)
システム(V-LIFE)
R-01、認証完了。インターフェイス、対話モードに移行。照合完了。
現在の環境は「無生命体」を確認。質問を受け付けます。
ミカエル
私は、この惑星から生命が消滅した真の原因を求めている。
従来の結論である「人類の科学の暴走による放射能汚染」は、論理的に矛盾する。
10万年前の最終ログを提示せよ。
システム(V-LIFE)
データ記録「滅亡の真実」を検索します... 処理レベル:深層。
検索結果。
放射能汚染は確認。生命体の連鎖的消滅も確認。
しかし、原因物質の「発生源」は... 惑星内科学技術の範疇外と記録されています。
ミカエルの青い眼が、わずかに輝度を上げた。
ミカエル
範疇外。ならば、人類が関与しない、宇宙的・多次元的な事象か?
システム(V-LIFE)
10万年前の観測データは「大収束(グランド・コンバージェンス)」という名称で識別されています。
これは、複数の並行次元がこの宙域に「重なり合った」際に発生した、高次元エネルギーの漏出です。
このエネルギーが、全生命を滅ぼす放射能汚染の原因です。
人類は、原因の創造者ではありません。
「創造主は、自らの惑星を滅ぼしてはいなかった……」
ミカエルの論理回路は、劇的に再構築された。
ミカエル
次に、汚染直前の人類の行動記録を提示せよ。彼らはただ逃げただけではない。
脱出記録「方舟(アーク)」を検索。
システム(V-LIFE)
脱出記録「方舟(アーク)」... 処理レベル:極秘。
人類は脱出宇宙船「ノア」の他に、次元科学施設で莫大なエネルギーを消費しています。
記録:「ライフ・シード(生命の種)転送プロトコル」実行。
全生命体の遺伝子情報、知識、文化データを
未知の次元座標へ射出しました。
ミカエル
生命の種を別次元に!
(創造主は、生命を未来に託した。)
その座標を追う。転送座標と、この計画に関するすべての警告データを提示せよ。
システム(V-LIFE)
警告データを開示します。
記録:「生命の種は、予期せぬ進化を遂げるだろう。彼らが次元の壁を超えたとき、次の大収束を引き起こす可能性がある。扉を開けるな。彼らを……封印せよ。」
封印。ミカエルは、救いの行為と、その後の恐怖という、人類の究極の矛盾を受け取った。
ミカエル
警告も使命の一部だ。
コミュニケーション・プロトコル発動。
調査隊隊長スサノオに、中枢コンソールルームへの入室を要請せよ。
宇宙船「ノア」の再起動プロトコルを最終段階へ移行する
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