1話完結型を目指して短編練習ホラー👻
空海エアン
短編練習① 『ドライブ』ホラー
その日は良い日だった。車の点検も行けて冬用タイヤに交換もできたし、代車はちょっと良いセダン。せっかく外に出るからと家族も誘って外食し、買い物もした。
「やれること全部やったわぁ」
「いやほんとな。あとは時間忘れず車取りに行けよ~」
「わかってるって」
代車はいつの時も緊張するもので、初めて運転する車で1人は寂しいと言ったら、暇だったらしい姉が着いてきてくれた。さすがに、返しに行くときまでは来てくれないようだが。
「お腹いっぱいだし帰ったら寝そう」
「時間になっても起きなかったら踏んづける」
「ヤメテ!」
2人でケラケラ笑いながら、代車はある交差点に差し掛かった。帰りに必ず通らねばならない、見通しの悪い交差点だ。
「ここって、事故たくさん起きそうなもんなのに平和だよね。誰かが事故ってるの見たことない」
「あー…あの石材店の守り神みたいな仏像のお陰じゃん?皆言ってる」
姉が指すのは、自分達がうんと小さい頃からある石材店の、その前に佇む石像。ゆうに3メートルはあるそれは、菩薩様を形取っている。定期的に磨かれているのか、今日も美しく白い。
「確かに言えてる」
「拝んどこ」
「ウケる」
姉が手を合わせて菩薩様に頭を下げたのを見て笑ってしまう。と同時に、信号が青になった。
「てか、ここに限らずこの辺しばらく見通し悪いのに事故とか見たことないよね」
「まあ、田舎だから事故るほど車いないでしょ」
「それはそうだけど」
ゆっくりと車を発信させ、進んだ先にはまたすぐに信号。それを超えると踏切だ。
姉は携帯を弄っていて眠そうである。
「誰か死んだりしてたとしたらどの辺なんだろね」
「いや、やめんかい」
ただの興味で発した疑問は、姉に軽く叱られて終わる。と思っていた。
突然、ナビもつけていないのに、ポーン、と機会音が鳴った。
『この先です』
空気が一瞬にして妙なものになり、2人とも静かになった。ナビが、急に喋った。音楽もラジオもつけていなかったし、聞き間違えはない。
「…え、この先ですってなに?」
「あ、やっぱそう言ったのこれ?」
意図せず声が震えてしまうが、姉は平然としていた。普段、山岳救助隊として活躍する姉にとってはなんてことないのかもしれない。
「いやいや…なにこれ…」
普通、この先○○です、など、目的地を言うものなのに、こいつはただこの先に何かがあることだけを示唆してきたのだ。
だんだんと疑問が恐怖に変わっていく中、姉だけは相変わらずケロっとしているようだった。とにかく運転に集中しようと思うのに、無機質な声が頭に巡る。
「この先って…小学校前じゃん…」
「そこで死んだとか?」
さっきはこっちを叱ってきた癖にやめろよ、と姉を恨みつつ、いつもよりも慎重に踏切を越える。
手に変な汗をかいてきた。
「ま、どこでだってどんな時代だってなにかしら誰かしら死んでんだ。お前だけじゃない、安心しろ!」
姉が手を叩いてあっけらかんと言ったのは、完全に恐怖に飲まれながらも小学校前に差し掛かった時だった。
「いや…誰に言ってるのさ」
「なびー」
「ふ、はは…やだなも~。笑わせないでよ」
小学校前でなにか起きたらどうしよう、という不安が、姉の適当過ぎる対応で一気に散っていく。
代車は小学校前を通りすぎたが、なにもなかった。
「死んだ人間が生きた人間に干渉するなんて図々しい」
本来なら怖い話でしかないのに、姉が強すぎた。
「お願い!返すのも着いてきて!」
「晩飯も奢りね」
「く…っ」
しかし怖いものは怖いので、代車の返却も結局姉に着いてきてもらったし、そのお陰なのその後も何もおかしなことは起こらず。
「財布痛すぎ」
「ごち!」
ただただ財布から点検とタイヤ交換代、2人分の昼と夜ご飯代が消えていっただけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます