第29話 静かなる活動


 - ガラス庭園


 秘密基地へと急いでいこうとすると、微かな物音と人の気配がする。香か東雲のどちらかだろうか。

 音の方へ近づくと花房先輩が椅子に座って本を読んでいた。無視しようかと思ったが、気づいたのにスルーするのはいかがなものかと思い直し挨拶だけしようと近づいた。

 一応ローリエの集のグループにガラス庭園に花房先輩がいることと、挨拶だけしていくとメッセージをした。


「花房先輩?」

「ん、こーくんどうしてここに?」

「ちょっと待ち合わせが……」

「へぇー。もしかして地下の秘密基地?」

「え、いや……違いますよ。」

「こーくん嘘つくの下手だね笑」

「……そうですよ。秘密基地です。なんで知ってるんですか?」

「僕も前は園芸部だったしね。それに香や蒼也が入っていくのみたことあるし。」

「そうなんですね。」

(前に隆弘先輩がいたのもわからなかったし、花房兄弟は隠密が得意なんだな。)


「もしかして奏多先輩が来たことに関係あるの?」

「あれ?入れ替わってることに気づいてたんですか?」

「さすがにあんなにキャラが濃い人そうそういないよ。たぶん生徒会メンバーは全員気づいてるよ。」

「そうなんですね。」

「うん。だから会長も特別席に座らせたんじゃないかな。」

「……会長はあの奏多……先輩のこと好きなんでしょうか。」

「ん?いやたぶん前会長のことを慕ってるから、その恋人の奏多先輩のことを無下に扱えないだけだと思うよ。たぶん今日こーくんたちを下がらせたのも奏多先輩が暴れないようにしただけだと思うし。」

「へぇー、そうだったんですね。」

(さすがに生徒会メンバーは気づいてたのか。会長もバカなのかと軽蔑しそうだったが、意外と考えてたんだ。帰り際に睨んじゃったし悪いことしたな。)


「ねぇ暇だから秘密基地についてってもいい?」

「えっ!?……ちょっと確認します。」


(花房先輩は奏多を特別扱いしてない気がするし、味方のような気もするけど俺は判断できない。メッセージで2人に確認しよう。)


『花房先輩が一緒に秘密基地で話したいっていうんだけど、どう思う?』

『俺は藤岡がいいと思うなら大丈夫だと思うぞ』

『えっ!難しいこと言うなー。香は?』

『大丈夫!連れてきていいよ!』

『判断基準は?』

『勘!』

『おっけー!つれてくわ!』


 俺は香の勘は当たると思ってるし、東雲も反対しなかったため花房先輩を秘密基地に連れていくことにした。


「すみません!お待たせしました!大丈夫みたいなのでお連れしますね!」

「うん。」


 花房先輩は読んでいた本を畳んで、立ち上がった。


「そういえば兄さんのこと下の名前で呼んでる?」

「あっ!はい!……やめた方が良かったですか?」

「ううん。僕の方がこーくんと仲が良いと思ってたのにな?」

「……立夏先輩って呼んでもいいですか。」

「もちろん。可愛い後輩だからね。」


 下の名前で呼ぶと立夏先輩は嬉しそうに笑った。



 ピピピ……ガチャ

 俺が秘密基地の扉を開けようとすると、その前に立夏先輩がすばやくロックを解除してしまった。


「立夏先輩開けられるんですね。」

「うん。まさかロックの仕方を変えてないとは思わなかったけど。」

「こーくん!花房様!……こーくん今立夏先輩って言った?」

「僕がそう呼ぶようにって言ったの。香も蒼也も下の名前で呼んでね?」

「「え」」

「はい、どうぞ。」

「……立夏様」

「……立夏先輩」

「よろしい。」


 立夏先輩は香と東雲にも圧をかけて、下の名前呼びにさせていた。

(下の名前で呼ばれる方が好きなのかな?)


「ちなみに気に入ってる人にしか呼ばせてないから。」

「え、じゃあ奏多……先輩も?」

「違うよ。あの人は勝手に呼んでくる。」

「ん?奏多先輩って誰?」

「あれだよ、偽転校生。」

「なるほどね!」

「あの偽転校生、去年もいなかったか?」

「蒼也、正解。」

「え?そーくん知ってるの?」

「香覚えてないのか?去年大暴れしてたろ。結局親衛隊と殴り合いになったとか噂されてたぞ。」

「んー……あー!いたいた。ムカつきすぎて記憶の彼方に放り投げてた笑」

「去年からあれってことはずっと敵作ってるんだな。」

「そうだよー!でもなんか刺さる人には刺さるみたい。」

「前会長とかね。」

「そいつが今さら戻ってきて何のようなんだ?」

「立夏先輩知ってますか?」

「いや僕もよく知らない。けど涼宮先輩と一緒にやってる事業がなんとか……って話してたな。」

「前会長と?」

「うん。興味なくてあんまり聞いてなかったけど。」

「雪城が行方不明になったのがその事業に関係あるかもな。」


 そういえば雫の行方不明について、大事なことを東金先輩から聞いたんだった。みんなに話さないと。


「そういえばここに来る前に東金先輩に会って、雫の行方についてほのめかされたんだ。」

「えっ!?ほんとに!?」

「うん。北原さんのどれかの別荘にいるかもって。」

「北原さんってあれだよね、この間の夏休みに会った。」

「そう!」

「ちょっと待ってくれ、俺らにも情報共有してくれ。」


 香と2人で話し込んでしまっていた。とりあえず立夏先輩に雫の事情から話し、夏休みに起こったことについて立夏先輩と東雲に話した。


「へぇー。あのモジャモジャの転校生、こーくんの彼女なんだ。」

「立夏様!しーちゃん本当はすごく美人さんなんですよ!ね!そーくん?」

「まぁ美人だと思います。なんで俺に振るんだ。藤岡に聞けよ。」

「こーくんに振ったら、惚気が止まらなくなるでしょ!」

「なるほどな。」


(別に俺に振られたところで事実しか話さないから惚気ではない気がするが。)


「そうなんだ。こーくんラブラブなんだね。会長とか可哀想だね。」

「会長?別に人として応援してますよ?」

「……」

「立夏様すみません。こーくん鈍感なんです。」

「なるほどね。ますます可哀想笑」


(よくわからないが、香と立夏先輩が共感している。なんで鈍感?)


「それで話戻すが、東金先輩が雪城の居場所は別荘だって言ったんだな?」

「うん。でも信用できるかどうかは……」

「信用していい情報じゃないかな?東金先輩は歴史館の鍵を持ってたぐらいだし、この事件に関係ある人物ではあると思う。味方かどうかは別にしてもね。」

「東金くんは僕もよく知らないけど、去年よく奏多先輩とバトルしてたから完全な敵じゃないかも。」

「なるほど……」

「そういえば歴史館の隠しカメラ回収してきたんだが見るか?」

「「「見よう!」」」



 カメラをモニターに繋いで、皆で覗き込む。俺たちが侵入してからその後に誰かあの部屋に入ったのだろうか。

 しばらくモニターが映っているだけの変わらない映像が続く。仕掛けてから何日か経ったとき、部屋にやってくる人物がいた。あの島の別荘にいた北原 きたはら みなとさんと見知らぬ男性だ。男性の方も北原さんと同じくらいの年齢に見える。2人は話しながら入ってきたと思えば、いくつかモニターを操作しだした。何かを探しているようだ。あいにく場所が遠いのか声が小さいのか、2人の声は入っていない。何枚か写真を撮って2人は出ていった。

 また別日、今度は北原さん奏多が入ってきた。ある1つのモニターの映像を止めて、北原さんが指を指している。映像に映っているのは雫(変装姿)だ。そのまま何事か話しながら2人は出ていった。


「これって……なんかしーちゃんが狙われたってことだよね。」

「あぁわざわざ映像を何個も確認しているしな。」

「……雫は連れ去られたってことか。」

「こーくん……」

「僕は生徒会メンバーだし、奏多先輩捕まえてこようか?」

「立夏先輩ありがとうございます。でも実は奏多……先輩に邪魔したら雫に何が起きるかわからないよって言われたんです。」

「な!あいつ!卑怯すぎるよ!」

「じゃあバレないように救出するしかないってことか。」

「あぁ……危険かもしれないけど協力してほしい!」


 相手がどんな手段を使ってくるかわからない以上、危険であるとわかっている。だがどうしても雫や響を救いたくて、みんなに頭を下げた。


「「こーくん」」

「藤岡」

「「「顔あげて」」」

「!」

「ここまで協力してきたんだから、これからも協力するに決まってるじゃん!」

「友達のことを見捨てるなんて男らしくないだろ?」

「大切な後輩の頼みを断るわけないじゃん。」

「……みんなありがとう。」


 思わず目頭が熱くなり、目の前が歪む。


「ローリエの集として学園の闇を暴いて、みんなを救出するぞー!」

「「おー!」」

「ローリエの集って言うの?」

「はい!」

「じゃあ僕も一員にさせてね。」

「「もちろんです!」」

「では4人でローリエの集の救出作戦開始ー!」


 立夏先輩も加わり、頼もしい仲間で救出へと動き出した。


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