絃ノ匣

しじま

第1話 いい日和

どうも、こんにちは。いい日和ですね。

そちらではこんばんはでしょうか。それとも、おはようございます?

何れにしても、はじめまして。


今日は秋らしい、澄んだ空気です。

庭の若木は先日まで青く茂っていたのに、もう黄色が混じって赤みを帯びています。手入れの行き届いていない庭なのですが、紅葉のおかげでずいぶん華やかに見えるものですね。池では魚が跳ねる音がして、冷たい水面に波が揺れます。


こうしてお庭を眺めながらお茶を飲めるなんて、幸せなことです。


さて――

そろそろ、私の話を始めましょうか。


私、気がついたら子どもでした。

気がついたら知らない母がいて、知らない父がいて。

新しい家族ができた……というよりも、


気がついたら異世界でした。


おかしいですよね。

頭は正常だと思いたいのですが。


に来る前、私はごく普通に生活していたはずなんです。

それが気づけば、赤子として見知らぬ土地に生まれていて。

まあ、そのあたりは赤子に必要な諸々(母乳とか、排泄とか)を経て。


そして気がつけば、私はやんごとなき身分というものになっていました。


いつも誰かしらが傍に控えていること。

年上の方々までが私に頭を下げてくださること。

着物がびっくりするほど高価そうなこと。


どれもこれも不思議で、落ち着きませんでした。

結局、今は小さな華模様の落ち着いた色の着物に落ち着きましたが、

それまでに母や乳母にどれだけ怒られたことか。


……そう、私はに住んでいるのです。

広い日本屋敷。庭付き。現役。


で、ここはどこなのかと言いますと。

名前を知らないので、私はと呼んでいます。

周囲を理解するのに時間がかかりましたが、

どうやら私がいた日本の田舎町とは違うようです。


とはいえ、日本語を話し、漢字・カタカナ・ひらがなの文化はあります。

時代劇を想像していただければ、近いと思います。


そう、どちらかというと


江戸時代みたいな場所。


ただし、それはですけれど。



「邪魔するぜ」



――来た。

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