陰陽師の国守

佐藤ゆう

第1話 転生 安倍 晴明


 ――西暦20✕✕年――。

 疫病が蔓延し、飢餓による世界恐慌が訪れた 最悪の無の年に、運命の赤子が、この常世に産まれ堕ちる。


 ◆発命天神社◆

 八百万の神を拝める古風な神社。

 千年以上前から変わらず この地にある 古の神社に、元気な赤子の泣き声が響き渡った。


 真夜中――。雷轟が吹き荒れるなか、社内には、泣き喚く赤子を囲うように3人の人物が……。


「……恐ろしかぁ……恐ろしかぁ……」


「……あの『忌み子』が生まれてしまうとは……末代までの恥……先祖に顔向けできん……」

 

 爺(じじ)と婆(ばば)は天を仰ぎ、神罰は与えた仏に慈悲を祈った。


「……封印しなくてはならない……。この子が、この『国を滅ぼす』前に………」


 ◆◆◆


 ――時が経ち、十六年後――。


 晴れた陽射しのなか、小鳥の鳴き声が、この『三天万高校』の裏庭に響く。


 『車椅子』に座り少年【安倍 無明】は、静かに蒼空を見上げていた。

 肩には小鳥が留まりくつろでいる。


「オッス、『無明』!」


 元気な声で『少年の名』が呼ばれ、肩に留まる小鳥がバサバサと飛び立っていった。


「どうした、暗いぞ?」


 赤毛の少女『黒河 伊佐美』は、友人の座る車椅子のハンドルを後ろから掴んだ。

 濡れる瞳をゴシゴシとぬぐい。


「……じいちゃんとばあちゃんが……この前、亡くなったんだ……ぐすっ……」


 落ち込む無名の頭を乱雑に撫でる。


「泣くな、男でしょ。あたしは子供の頃、あんたの じいさんとばあさんに頼まれたんだ。あんたを頼むって」


 車椅子に座る無名の前に立ち、明るい笑顔をきらめかせる。


「あんたには、あたしが付いてるからさ」


 胸を打つ言葉に、心が救われた想いに満たされた。


 ―――その時――――


 《 ――ここだ―― 》  


 《 ――ここにいる―― 》


 頭の中に、知らない《男の声》が流れてきた。


「――ぐっ!」


 痛みと共に、ボヤけた少女の顔が脳裏に浮かんだ。


( この子は、たしか――? )


「――どうしたの?」

 

 友人の変化に気づき心配そうに屈み込んだ。


( 脚が……うずく……)


 動かない脚に違和感を感じ――。


「……なんでもない………恐らく……」


 胸騒ぎをかき消し、共に教室に戻っていった。

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