第8話:これ...本物いる?

 黒い四天王をドングリで消し炭にしてしまった翌日。

 俺たちは早朝から森の外れで訓練を再開していた。


「今日は二人同時に動きを見る。

 本体は通常の剣技、コピーは……まあ、自分の得意な動きを探れ」


 本物ヴァリシアが淡々と指示を出す。


「はーい……がんばる……」


 コピーの方は相変わらずふにゃふにゃしている。

 本物と比べて圧倒的に柔らかい雰囲気だ。


「よっしゃ今日も頑張ろうぜアレク!」

「うん、まあ……ドングリは今日は控えめにね」

「無理だと思う。俺も怖い」


 そんな会話をしていると――


ズズゥゥ……


 またもや、森の影が揺れた。


「……おい、あれ……敵だよな?」


 地面の裂け目から出てきたのは、謎の円筒型の黒い物体。

 目はなく、口もなく、ただ角柱のように立っている。


「今日の敵……なんか形状がおかしくない?」

「感情移入できないタイプのモンスターだにゃ……こわいにゃ……」


 すると本体ヴァリシアが前に出る。


「よし、まずは私が様子を見る」


 その時だった。


ズッッ!!


 黒い柱が突然高速で伸び、蛇のようにしなる。


「速い……!」

「ヴァリシア危な――」


 俺が言うより早く。


「えいっ」


 コピーのヴァリシアが、

 片手に持っていた木の枝を軽く振った。


 軽く。

 本当に軽く。


 すると――


ドガアァァァァァンッ!!


 黒い柱の敵が、

 **一撃で粉砕**された。


「…………」


 全員固まった。


「……え?」


 本物ヴァリシアが硬直する。


「……え?」


 俺たちも硬直する。


「……あれ? やっちゃった……?」


 コピーがぽかんとした顔で首を傾げる。


 粉々になった黒い敵は跡形もなく消えた。


「あの……今の……本気?」

「いや、全然……? ただ、叩いた……」


 サクマが震える声で言う。


「アレク……もしかして……

 コピーの方が……強くね……?」


「いやいやいやいや! そんなわけ――」


 本物ヴァリシアが慌てて割り込む。


「違う。今のは相手の素材が脆かっただけだ。

 コピーが強いわけでは――」


 しかし。


「じゃあ本体もやってみてよ」


 サクマが黒い柱の残骸の前に指を差す。


 本物ヴァリシアは無言で剣を構え、

 砕け残った小片に斬りかかった。


 ――コン。


 一応斬れたものの、

 コピーのように「一撃で粉砕」とはいかなかった。


「……………………」


「……………………」


 全員、本体の方を見る。


 本物ヴァリシアがゆっくり後ずさる。


「ちょ、ちょっと待て。

 私の方が強いに決まって――」


 コピーがのんびり言う。


「……わたし……強いのかな……?」


「お前それ自覚するな!!!」

 本物の方が焦り出す。


 ネコが謎の分析を始めた。


「にゃ……コピーは“精神抽出型”。

 本体から“軽量化された無駄のない戦闘本能”だけが抽出され……

 本体より純粋な戦闘性能を持っている可能性があるにゃ……」


「え、それ本物より強いってことじゃん!!」


 サクマが言い、俺も震える。


「ヴァリシア……

 もしかして……コピーに負けたりする……?」


「負けん!!!」


 本物ヴァリシアが全力で否定。


 しかしコピーは


「うーん……戦うの……めんどい……」


 と言いながらも、

 枝を軽く振っただけで周囲の木が揺れる。


「……いや強いだろ完全に!!」


 本物ヴァリシアの表情が曇る。


「おかしい……私は鍛錬も修行も重ねているのに……

 なぜ……“私のコピー”がそんな……」


 コピーがボソッと言った。


「……本物……ちょっと不器用だから……?」


「言うなぁぁぁぁぁぁ!!!」


 本物の絶叫が森に響いた。


 俺たちは思った。


**――本物ヴァリシア、実はけっこう繊細。**


 そして同時にこうも確信した。


**――コピーの方が強い説、濃厚である。**



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