第6話:なんでそうなる
ブラックスライムEをラーメンに変えて撃退した翌日。
「おまえら、今日も実戦訓練だ」
ヴァリシアが当たり前のように言う。
「いや昨日ラーメンになった敵なんですけど!?」
「今日のは別種だ。昨日のとは違う」
俺とサクマ・ドングリロード(第二段階)は、もはや慣れきった諦め顔で着いていくしかない。
「今日の相手は“グレイ・ペースト”だ」
「また粘性!?」
「スライム系多くね!? この森スライム祭りなの!?」
ネコが小さく震えながら説明する。
「にゃ……森のエラーが増えすぎて、粘性の敵ばかり……にゃああ……嫌な予感しかしない……」
嫌な予感しかしないのは全員一致だったが――それでも行くしかなかった。
森の奥に入ってすぐ、それは現れた。
ズリュァァァァアアア……
前回よりも濃厚で、ねっとりとした灰色の塊。
“グレイ・ペースト”と名乗るだけあって、スライムよりも“液体コンクリート”みたいな質感だ。
「動きが……重そうだな」
「いや逆に怖いだろアイツ!! 絶対まとわりついてくるタイプだ!!」
その瞬間――
ズドン!!
グレイ・ペーストが弾丸みたいな速度で跳んだ。
「速ッ!?!?!?」
「嘘だろ!? あの粘度でそんなスピード出る!?」
そして。
――ヴァリシアに激突。
「ぐっ……!?」
そのまま彼女を覆い、身体を拘束していく。
「またかよ!!」
「昨日と同じパターン!!」
ヴァリシアが必死にもがくが、相手は粘度が高すぎる。
前回のブラックスライム以上に動きを封じるタイプだ。
「アレク!! どうする!?」
「いやどうするもこうするも……またドングリしか……!!」
佐久間がポーチから“今日のドングリ”を取り出した。
「今日は……“ランダム属性ドングリ・改”!」
「いや絶対危険なやつ!!」
「でもやるしかないだろ!!」
グレイ・ペーストはすでにヴァリシアを胸元まで拘束し、息苦しそうだ。
「アレク!! 狙って!!」
「任せろ!!」
俺はドングリを構え、
「ヴァリシアぁぁあ!!
今助けるぞぉぉぉお!!」
思い切り投げた。
――ポシュッ。
相変わらず弱そうな音。
だが、グレイ・ペーストに触れた瞬間、
ブシュウウウウウウッッ!!
灰色の粘液が一気に盛り上がり――
どかぁぁぁん!!!
派手な光を放って爆ぜた。
「うわああああ!?」
「派手になってる!!」
煙が晴れる。
俺と佐久間は目を疑った。
「……え?」
ヴァリシアが――
二人いた。
「おい……アレク……」
「うん……見えてる……二人いる……」
一人目のヴァリシアはいつも通りの鋭い目つきで立っている。
二人目のヴァリシアは、少しぽけ〜っとした顔で立っている。
「……コピー……?」
「いやいやいやいやいやいや!!!」
ネコが口を開く。
「にゃ……“分裂属性ドングリ”が発動したようですね……」
「分裂属性って何!?」
「昨日料理属性、今日分裂属性!? ドングリ万能すぎだろ!!」
佐久間は自分の背中を見て震えていた。
「俺……どこまで行くの……?」
ヴァリシア(本体)が深いため息をつく。
「……また厄介なことをしてくれたな……」
一方、増えたヴァリシア(コピー)は、
「……おなかすいた……」
と言った。
「え!? 可愛い!?」
「なんか本体より柔らかい雰囲気だぞ!?」
本体ヴァリシアがこめかみを押さえながら言う。
「……これは単純コピーではなく、精神の一部を抜き出した“軽量版コピー”だ」
「軽量版!?」
「つまり元々ヴァリシアの中に“こんな性格の成分”があったということ?」
本体は明らかに気まずそうに顔を背ける。
「……まあ……否定は……できん……」
「ヴァリシアって……実は……抜けてたりしない?」
「言うな!!」
ヴァリシアが怒ると同時に、コピーが
「怒らないで……こわい……」
と縮こまる。
「いやギャップ!! ギャップがすげえ!!」
他にも発覚した事実がある。
コピーヴァリシアは――
・剣を持つと逆向きに構える
・足元の石につまずく
・ちょっとした音でビクッとする
・でも魔力量だけは本体並み
「……完全に“本体の抜けてる部分抽出版”じゃん!!」
サクマが震えながら言った。
「アレク……俺……ドングリの力……いよいよ危険じゃない……?」
「前から危険だった!!
今日は特に危険なだけ!!」
本体ヴァリシアはコピーの頭をぽんと叩いて言う。
「……まあ、害はなさそうだ。
それに――私の弱点部分を可視化するいい機会かもしれん」
「いや素直〜〜〜!!!」
こうしてヴァリシア二人体制の奇妙なパーティが誕生した。
俺と佐久間は確信した。
**――ドングリの恐怖は、まだ序章にすぎない……。**
そして同時にこうも思った。
**――ヴァリシア、実はけっこう抜けてるのでは?**
その日以来、俺たちの旅はさらにカオス度を増していくのだった。
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