第19話 三人の放課後
放課後。校門を出ると、俺――春海ユウトは、アカリとユイと一緒に歩いていた。二人とも、微妙な距離感で並ぶ。夕陽は校舎の屋根を赤く染め、長く伸びる影を地面に落とす。三人の間には、昨日よりも複雑で、少し緊張した空気が漂っていた。
「春海くん、なんで昨日のこと、ユイに言っちゃったの?」
アカリが小声で詰め寄る。彼女の瞳は真剣で、でもどこか照れた光も混ざっていた。
「いや、別に……軽く話しただけだよ!」
俺は慌てて答える。声が思わず少し裏返る。心臓が耳まで響くようだ。
ユイは少し目を細めるけれど、表情はいつもの柔らかさを保っている。
「ふーん……でも、私は別に気にしてないよ。ただ、ちょっと寂しかっただけ」
その一言に、俺の胸がぎゅっと締め付けられる。ユイのその小さな感情の揺れが、まるで刺さる針のように心に残る。
アカリは不満そうに唇を尖らせ、ユイの腕を軽くつつく。
「ずるいよ、私たち二人とも春海くんに夢中なのに!」
彼女の声は少し甘えた響きで、でも芯の強さも感じられる。
俺は両手をポケットに突っ込み、深呼吸する。――どうすればこの空気を壊さずに、でも二人を傷つけずに帰れるんだろう。考えれば考えるほど、頭の中がぐるぐる回る。
歩幅をそろえながら、二人を交互に見てみる。ユイは時折、ふっと視線を逸らすけれど、眉のあたりには小さな不安が見える。アカリは腕を組んで、口元に微笑を浮かべながらも、目は俺をじっと追っている。二人とも、こんなに正直で、こんなに自分をさらけ出してくる。
「ねえ、春海くん」
ユイが少し顔を赤らめて話しかける。
「今日、一緒に帰れるの、ちょっと嬉しいな」
アカリはすかさず割り込む。
「私も同じ気持ち! 春海くんと一緒に歩くの、楽しいんだから!」
俺は思わず頭をかく。二人とも本当に正直すぎる。
「あ、ありがとう……でも、二人同時に褒められると、頭がパンクしそうだよ」
ユイは少し笑い、アカリもくすっと笑う。三人の笑い声が、夕暮れの校庭に柔らかく響く。風がそっと髪を揺らし、木々の葉がオレンジ色に光る夕陽の中で、俺たちの影も三つ、ゆらゆら揺れる。
歩きながら、ふと俺は気づく。――このままじゃ、どちらかを選ぶ時が、もっと難しくなる。どちらも大切で、どちらも特別だ。
二人の視線がチラチラと俺を追う。胸の奥が何度も高鳴り、呼吸が少し速くなる。――高校生活はまだまだカオスだ。予測不能で、心臓を揺さぶるような日々が続く。でも、それでも、この夕陽の中で三人で歩く時間だけは、特別で、温かい。
俺は心の中でそっと思った。――この一瞬の温かさ、忘れたくない。何が起ころうとも、この夕陽の中での三人の時間だけは、ずっと大切にしたい、と。
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