喫茶店
「ここはどこだろうか」
「言ったでしょ。喫茶店よ」
喫茶店とはなにかわからなかったが、武宮は喫茶店という名前を学習する。
レンジャー支援ショップを追い出されたあと、首根っこを掴まれて、この場所まで連行されたのだ。
いろいろと聞きたいことがあるようだった。
燐火がドアノブに手をかけて開く。ほとんどが自動ドアになっている現代ではいまどき珍しい手動の出入り口だった。しかも木が貴重になっている2843年に木造である。古い建物なのか。それとも建造に莫大な費用をかけているのか。
どちらにせよ、このような木造建築は珍しかった。
彼女が扉を開くと、ちりんちりんと鈴が鳴る。扉のうえには鈴が付いていて、人が入ったことを音で知らせているらしい。
武宮は店内の空気に困惑気に眉をひそめた。
店内は西洋風のお洒落な雰囲気だったからだ。カウンター席もテーブル席もそうだが、木目のついたアンティーク調の作りである。
武宮は自分には似合わない場所だと思った。西洋風の雰囲気もそうだが、その喫茶店で流れている曲がオシャレだったのだ。まるで春の陽気を思わせる軽快な曲が店内に響いている。武宮の知るところではなかったが、店内で流れていた曲は三拍子で有名なワルツの13番であった。武宮はその曲がどんな意味を持つのかも知らないし、どんな経緯で生まれた曲かもわからないが、自分とは合わないと感じた。
武宮は訝しげな表情をつづける。
「おや、燐火お嬢様。いらっしゃい」
マスターの男がカウンター席の向こうから顔をのぞかせた。
45くらいの男だった。白くなった髪。まばらに生えた白い髭。白くなった毛色は年老いた証であるものの、その顔つきを老人というには若々しい。口角や目元にしわもあるが、年老いたというよりはダンディーになったというほうがしっくりくる。いぶし銀な顔つきで、冷静沈着な瞳をしていたからだ。武宮はソジュンに似ていると思った。縁のない丸い眼鏡は博識っぽさと落ち着いた雰囲気を際立てる。理知的な男性だった。
彼は優しく笑いながら言った。
「そちらの彼は? もしかして彼氏かい?」
「ち、違うわよ! ただのクラスメイトよ!」
燐火は顔を赤くして、音が鳴るくらい必死で顔を横に振って否定する。
彼ははっはっはと大袈裟に笑って見せた。
「若いというのはいいね」
「ち、違いますから! 本当に違うんだからね!」
彼女は「もう、マスターってどうしてこうなのかしら」とぷりぷり怒りながら、「今日はテーブル席にするわ」と大きな窓がある端のテーブル席に腰を掛けた。
「ほら、アンタも座りなさい」と手を伸ばして勧められたので、武宮は向かい合うようにして椅子に座った。
店に流れるワルツの13番が心地良いのもあるのだろう。時間がゆっくりに感じられる。武宮の感覚とは相性が悪いものの、美しい店ならではの空間は、武宮の心を揺さぶった。
「良い雰囲気の店でしょ? アタシ好きなのよ。この店」
武宮は難しい顔をする。
よくわからなかったからだ。
「なによ。その顔。まあ、べつにアンタがどう思うかは勝手だけど、奢ってあげるんだから感謝しなさい」
「奢る?」
「そうよ。アタシが誘ったんだもの。いろいろと聞きたいこともあるしね」
武宮は帰りたかった。
店の空気が肌に合わない。
お洒落な音楽も、西洋チックな雰囲気も、スラムのような環境で育ってきた武宮にとっては水と油。拒絶反応を起こすのだ。
居心地の悪さはそれだけが原因ではない。彼女の目が何かを見定めるようであった。まるで犯人の取り調べをする警察だ。犯罪者の気持ちが少しだけ分かったような気がしたのだ。
「マスター。注文いいかしら」といって、彼女はいろいろと注文していた。なんとかレートなんとかみたいな横文字を喋っていたので、何を言っているのかわからなかった。
意味不明なカタカナを沢山ならべていたのだ。
最後に、彼女は
「アンタも普通のコーヒーでいいわよね?」
と聞いてきた。
「コーヒーとはなんだ?」
武宮はコーヒーなる飲み物を知らなかった。
はじめて聞く単語だったのだ。教科書で見かけたことがない。パシリで買い出しさせられたこともない。
彼女は顔を引きつらせる。
「ヨーロッパ育ちとしては許しがたい発言なのだけれども」
ヨーロッパは知っていた。地理で学習していたからだ。
「コーヒーはヨーロッパなのか?」
「欧米とヨーロッパで愛されている飲み物よ! ほ、本当に何も知らないのね」
「面白い子が彼氏になったね」
マスターがメニュー表を片付けながら苦笑した。
「彼氏じゃありません!!」
燐火は必死で否定していた。
どう勘違いされようが武宮にとってはどうでもよかった。
とにかくコーヒーなる飲み物が気になっていたのだ。
学校の授業では教わっていない単語だったからだ。
「コーヒーというのはどんな飲み物なんだ?」
武宮が質問する。
彼女の代わりにマスターの男が答えた。
「コーヒーは少し苦みのある飲み物だね。独特な風味と少しの酸味が特徴かな。酸味や苦みは物によって変わってくるところではあるけど」
「苦いのに美味しいのか?」
苦いと美味しいは矛盾しているように思える。
「あんた、いまコーヒー好きを全員敵に回したわよ」
「慣れれば美味しいけど、はじめてならミルクと砂糖を入れたほうがいいかもしれない」
「ここのコーヒーはブラックのほうが美味しいんだけど」
「ブラックとはなんだ。どういう意味だ?」
「飲んでみたほうが早いわ。マスター。お手数だけど2人分のコーヒーお願いできるかしら?」
「わかったよ。あとはチョコレートケーキがふたつだったね」
そういって、マスターの男はカウンターの方に戻っていく。
喫茶店というのも初めて来たから、武宮はカウンターで調理? する彼を観察していた。豆のようなものに、水をかけている。なにが起きているのかわからなかった。まるで薬品を調合しているようだったのだ。
コーヒーなるものは泥のような色合いをしていた。
豆のような黒い粒から泥水のようなものが出てくるのだ。
もしかしたら、泥を飲まされるのではないか。そんな警戒心が武宮のなかで湧いて出てくる。
「で、アンタにいろいろと聞きたいことがあるんだけど」
彼女はおもむろに話題を切り出した。
言いずらそうに、目線を横にずらして、途切れ途切れで言った。
「その、大丈夫なのかしら。右目」
「右目?」
一瞬、なにを気にしているのか分からなかったが、彼女の目線ですぐに理解する。右目というのは、蛇神雄介に潰された件だろう。
「ああ、義眼の事か。絶好調と言ってもいいな。知りあいのマッドサイエン……科学者につけてもらったんだ。見えるようにはなっているし問題ない」
「見える義眼? それって高額じゃないかしら? アンタの親ってアンタにはお金を使わないタイプでしょ。それで払えたわけ?」
「…………親が俺に金を使わない? なぜ俺の家庭事情を知っているんだ?」
武宮は奇妙なものを感じた。
学校ではいじめられていて、誰かに家庭事情を話したことはなかったからだ。親から虐待を受けていることは、クラスメイトは誰も知らないはずだった。
なぜか彼女が知っている。
まるで筋が通らない。引っ掛かりのようなものがあった。
彼女は一瞬だけ目が点になったかと思ったら、瞬きを二回。
頬を少しだけ赤らめて、
「う、噂で聞いたのよ! 異能ランクFの扱いは巷でも有名になっているのよ!?」
彼女の弁明はそんなものだった。
武宮はたしかに、と納得する。
関東地区で異能ランクFは武宮1人だ。そのほかの人間は最低Eランク。近所でも武宮は避けられていたから噂になっている。武宮玄は差別対象である、という一般的認識は広まっているようだった。
彼女の論調は筋が通っているのだ。
「そ、それで、どうして義眼なんて買えたのよ」
武宮は表情には出さないものの、内心では迷っていた。
素直に裏世界のことを話すわけにもいかない。口止めされているわけではないが、彼らは表にバレることを嫌がっているようだった。世間にバレず、着々と事を進める必要があるような言い回しだった。
彼らのことを考えると、嘘を吐く必要がある。
どんな嘘をつくか。
武宮は嘘をつくのが苦手だった
知の英雄の言葉を思い出す。
ある日のこと、秘薬を受け取ったときのことだ。
『武宮さん。貴方は少し正直者すぎるように思う』
『それは、悪いことなのだろうか?』
『悪いことじゃありませんよ。素直な正直者は好かれますし、一般的には愛されます』
『だったら素直でいいのではないか?』
『そうとは限りませんよ。嘘で乗り切れる場面というのもある』
彼は眼鏡をくいっと上げて、静かに言った。
『真実に嘘を混ぜる。よく言われる手法を使いましょう』
『……どういうことだ』
武宮は理解できなかった。
真実に嘘を混ぜるというのは混乱するように思えたのだ。
『単純な話です。では果物で例えてみましょうか』
そう言って、彼は真っ赤なリンゴを取り出した。
昨日、創良が裏ダンジョンの研究施設から持ってきたりんごだった。
『では武宮さん。このリンゴは何色ですか』
『……赤いな』
『はい。では、りんごの中身は何色だと思いますか?』
『それは白か黄色だろ? この間、りんごをはじめて食べたからわかるぞ』
『いろいろとツッコミどころが多いですが違います。このりんごの中身は黒です。なぜなら、創良・フランチェスコが遊び半分で実験したからですよ。ほら、昨日、こちらに創良・フランチェスコが来ていたでしょう?』
『たしかに』
『創良・フランチェスコは実験好きですからね』
ソジュンはりんごをかじり、断面を見せる。
りんごは白だった。
『これが上手い嘘のつき方です。相手にとって未知の情報を隠すときは、相手にとって既知の情報で覆い隠す。既知の情報の流れで嘘を混ぜこむ。これが真実と嘘を混ぜるということですよ。創良・フランチェスコが昨日来たのは武宮さんの義眼についての相談を受けていただけです。しかし、創良・フランチェスコならやりかねない。そう思った時点で嘘を吐くことに成功しています』
『嘘だけで成立させるな。真実をベースに嘘を吐くということだな』
『とっさに嘘をつくときは相手にとっての既知情報を考えなさい』
回想終了。
回想の時間は約3秒。
武宮の思考はさらに回る。
秘匿するべき情報は裏世界関連だろう。
この場合の燐火にとっての既知情報は、武宮は親に金を出してもらえないということである。逆に考えてみる。親に出してもらえないということは、武宮は自分で金を稼いでいるということ。進学費用を自費で賄っているということだ。
つまり、金の出所としていえるのは一点しかない。
さらにいえば、彼女から見えている情報を織り交ぜる。
「進学用の費用を義眼に回したんだ」
「進学費用で足りないと思うのだけど?」
「たしかに義眼は高い。が、安く済んだのは色の指定がなかったからだな。そのせいでオッドアイのようになった」
武宮はオッドアイを嘘に混ぜ込んだ。
進学用の費用を自分で集めているのは事実であり、武宮が高校に通えていることが証明していた。彼女の目からオッドアイであるということはわかる。視界的な情報を混ぜたのだ。
そういうと彼女は目を細めた。なにかを探るような瞳である。
彼女は数秒間、疑ってきたが、すぐに肩を竦める。
「まあいいわ。そういうことにしといてあげる。で、本当に目は大丈夫なんでしょうね」
「心配してくれているのか?」
「べ、べつに心配なんてしてないから! 気になっただけよ!!」
燐火はそっぽを向いて、ふん、と鼻を鳴らした。
心配してくれている。
その優しさはありがたいが、武宮はより一層、彼女に警戒心のようなものを抱く。
彼女の心が理解できなかったからだ。
燐火・スカーレットは何を考えて、武宮と接触しているのか。蛇神雄介という幼馴染にどんな感情を抱いているのか。なぜ心配するような素振りを見せているのか。
過去に『武宮を無能のクズ』呼ばわりしていた彼女の面影がない。
これが演技なのか。それともこれが素なのか。不思議なことにいまの彼女から悪意のようなものを感じなかった。
「そうだな」
「な、なによ」
「気にすることでもないと思ってな」
どうだっていいことだと、武宮玄は思考を切って捨てる。
これが演技だろうと、素だろうと、武宮玄にとっては関係のない人間なのだ。所詮は異能ランクSと異能ランクFの間柄だ。こうやって面を合わせて座っているのも数奇な偶然だろう。それが武宮玄の結論であった。
オーナーがマグカップをふたつ、お菓子のようなものをふたつ持ってきた。
「燐火お嬢様。盛り上がってるところ悪いけど、コーヒーとケーキだよ」
「も、盛り上がってないわよ!?」
彼女のツッコミはさておいて、テーブルに置かれたのは黒い水だった。
武宮玄はその黒い水に視線が吸い込まれる。
幼い頃にすすっていた泥水よりも黒かったからだ。マグカップの底すら見えないのだ。
深い黒は武宮の警戒心を強める。
「これがコーヒーというのか。黒いな」
「横にあるミルクと砂糖を入れて飲みなさい。美味しいわよ?」
そう言って、彼女は何も入れずに飲んだ。
真っ黒のまま飲んだのだ。
「同じものではないのか?」
「そうだけど、アタシはブラック派なのよ」
「?」
「なにも入れずに飲むことよ」
「なにも入れずに飲めるのか。それは気になるな」
どうやら彼女が最初に言った通り二種類の飲み方があるらしい。
武宮は顎に手を当てて考える。
ブラックが気になるのだ。ブラックからミルク入りには変化できても、ブラックに戻れない。不可逆的なものであるならば、ブラックから飲んでみよう。
武宮は彼女の真似をして、ブラック? の状態で口に含んでみた。
ブラックコーヒーが口いっぱいに広がる。
「……アンタ、凄い顔しているわよ?」
彼女はそう言って、小馬鹿にするように笑った。
武宮は苦虫を嚙み潰したような顔で、口を逆三角形にしたのだ。
「苦い」
泥水ほどではないがマズかった。
武宮にとっては衝撃的な苦さであった。
「だから言ったじゃない。アンタってやっぱりバカでしょ」
彼女は呆れたように、だけれども楽しそうに笑った。
彼女は前のめりになって、武宮のミルクと砂糖を奪い取る。そのミルクと砂糖を勝手に武宮のコーヒーに入れたのだ。
「ほら、ミルクを入れてあげたから飲んでみなさいよ」
勝手にミルクと砂糖を入れられた。
お節介にもほどがあると思いつつも、苦くて飲めたものではなかったので、本心ではありがたかった。
武宮はマグカップを持ち上げて、口元でその手が止まる。
苦みの恐怖がトラウマになりかけていたのだ。
苦みの耐性を得ようかと思ったが(そもそも得られるのか不明だが)、それは負けた気がするので、意を決して飲んでみる。
口にコーヒーを含み、三秒。
武宮は目を見開いた。
「……美味しい、かもしれない」
苦みが完全に消えたわけじゃない。
多少苦みは残っている。しかし、ミルクと砂糖の甘さがその苦みを緩和していたのだ。旨味というものが、口の中に広がっていくのを感じる。
碌なものを飲んでこなかった武宮だからこそ、その旨味が彼の脳神経を焼いた。
「よかったわ。ほら、チョコレートケーキと一緒に飲みなさいよ。相性が抜群なんだから」
「……チョコレートケーキ? この黒い物体が? ケーキとは白いものではないのか?」
「アンタ、それすら知らないの?」
武宮は真っ黒のケーキを見る。
理解できないものだった。
ケーキは白いものというイメージが彼のなかで定着されていたからだ。
「チョコレートは知ってるでしょ?」
「あれだな。カカオを潰して作った菓子のことだろう。蛇神の買い出しで買ったことがあるから覚えている」
「そ、そうね。イメージがあれだけど」
燐火は少し口角をピクピクさせながら、言った。
「で、そのチョコレートをケーキに混ぜ込んだのよ。ほら、食べてみなさい」
「ふむ」
武宮はフォークを使って、チョコレートケーキを一口サイズに切ってみる。
そして、口に運んだ。
そのとき、武宮のなかに衝撃が走る。甘味の暴力が武宮を襲ったのだ。時間が停止したように動きを止め、フリーズバグのような状態になる。
「アンタ、大丈夫?」
「こ」
「こ?」
「こんなに美味いものがこの世界にあったのか」
武宮のなかでは衝撃だった。
人生で食べたどんなものよりもおいしかったからだ。
「ありえない。生クリームの殴打。チョコレートの惨劇。なにをとっても味覚の暴力戦士だ」
「比喩がいろいろとバイオレンスなのは置いといて、喜んでもらえたようでよかったわ」
バイオレンスな比喩はシャルロッテに借りたコミックの影響だった。
「し、しかし、こんな美味いもの、一体、何十万するというんだ」
「数百円だけど。ふたり合わせても1000円超えるくらいかしら」
「馬鹿な。世界はここまで進化していたのか」
「何世紀前には終わってる進化よね。それ」
燐火は呆れ顔をする
武宮は一つ息をついた。
ソジュンの教え。
『いいですか。どんな時でも義理は果たしなさい』
シャルロッテの教え。
『尊重と感謝だ』
二人の教えが刻まれている武宮は目をつぶり、シニカルに笑った。
特に意味のない笑顔だが、シャルロッテの教えに誠実だった。
「こんなに美味いものと出会わせてくれてありがとう。どんな質問にも答えよう。ここに連れてこられたときは犯罪者の気分だったが、いまは忠犬の気分だ」
「そこまで言われると気持ち悪いわ」
「そうか」
武宮の心は少しだけ傷ついた。
不貞腐れたような顔になる。
「はあ、いろいろと聞きたかったのに。どうやってそんな鍛えたのか、とか、雰囲気が変わった理由とか気になってなんだけど、なんかどうでもよくなってきたわ。今のアンタを見てたら」
「なぜだ」
「なんででしょうね。アンタがおかしすぎるから今さらな気がしたのよ」
すべて裏世界が関わっているため、聞かれたら困っていた。
助かったと思いつつも、今度は武宮のなかに靄がかかる。
その靄の正体は義理が果たせないことについて。チョコレートケーキとコーヒーという恩を受けっぱなしというのはソジュンの教えに反しているのだ。
「しかし、それだと貰いっぱなしの俺の気が晴れん。何か返す方法がないものか」
武宮が本気で迷っていると、燐火はじい、というジト目を向けてくる。
人間の本質を探るような目だ。
「アンタってやっぱ変な奴よね。気にしなくていいのに」
「そうはいかない。何かしらの形で恩は返させてくれ」
武宮は感謝していた。
形にして返したい。
ダンジョンで助けられたことにいたいして、何も返せていないのに、さらなる恩を受け取ってしまったように思うのだ。
「だったら、そうね。ちょっとした愚痴につきあいさない」
そう言って、彼女は目線を窓ガラスのほうに向けた。
その目はまるでここではないどこか遠くを見ているようだった。彼女の目線の先に何があるのか。
窓ガラスの外はロボットが街を巡回している。ビルとビルの間を宙に浮く球体のようなロボットや円盤のようなロボットが地面を駆け抜けている。AIが秩序を守っているのだ。
"東京都区域の中心には天を突きさすような巨大な監視塔"が怪しい赤い光を放っている。塔の一番上で目玉のようなライトがくるくると回っている。
「くだらない愚痴だけどね」
そう言って、彼女は語り出す。
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