第13話 新天地ー3

「おぉぉ……船だぁ」


 船と言えばイメージするのは大型クルーズ船だったりしてしまうのだが、この世界にそんなものがあるわけはなく。

 木造の船は、某海賊映画に出てきそうなパイレーツな感じの少しぼろいが、趣すら感じる実用的な船だった。


 帆を使って進む船、風の向くまま気の向くままでは困るのだが、帆とはすごい発明なのである。

 追い風……つまり後ろからならまっすぐ進むのは直観的でわかるだろう。

 しかし、横風や斜めからでも帆をうまく使うことで、前に進む。

 さらに向かい風でも斜めにジグザクと進むことによって、進めるのだからすごい発明だ。


 同じモノづくりで営んでいた者として素直に尊敬する。


「ノエル様! 積み荷は終わりました! いつでも出発できます!」

「ジャンヌ! ありがとう、ご苦労様!」

「ん? あぁ、そっちはさっきの! 歓迎するぞ、冒険者諸君!」


 レオンハルトは相変わらず元気がいいなと思いながら、アレン達も船に乗り込んだ。

 エメラルド海峡……南の大陸までは、船で大体丸一日はかかるらしい。

 そして僕たちを乗せた船は出向した。


「うーん、波風がきもちいいなぁ、ミレイ」

「はい! 私、憧れだったんですの。船に乗るの! 辺境伯領は内陸部ですから……なんだか……良い日になりそう」

「うん……そうだね。のんびりしていい気持ち」


「魔物がでたぞぉぉ!!」


 即落ち2コマやめろ。

 どうやら船の背後から魔物が襲ってきたらしい。

 

「ミレイはそこにいて!」

「ノエル様! 危険です! ここはジャンヌさんや冒険者に!」

「大丈夫!」

「もう!! もう少し貴族としての自覚をもってください!」

「僕、追放されたし!!」


 ミレイが後ろでわーわー言っているが、魔物だぞ。

 なんなら人生初めての魔物だ! 見なきゃダメでしょ!

 魔石は沢山見てきたが、生きている魔物は初めてだ。


 船の後ろに回ると、ジャンヌが剣を抜いていた。

 

「くっ! 陸上ならば切って捨てるものを!」

「全員、攻撃に備えろ!!」


 直後、僕より大きな水の玉が飛んできた。ウォーターボール。

 水属性の魔術の基本だ。しかし、水と侮ると……痛い目を見る。

 初めて見たがその魔術は、まるで大砲のような一撃だった。

 ジャンヌが刀で水を切り伏せる。

 しかし、直撃すれば骨ぐらい簡単にへし折れる威力だろう。船だって無事じゃすまない。

 

「シーサーペント……Cランクの魔物だ」


 エドガーに勉強させられた魔物図鑑の中にあった。

 大きさは、前世の動物でいえばキリンぐらいか。水色の流線形の体に蛇のように海から顔を出している。

 その顔の周りには、水の玉がいくつか浮いている。水を操る魔物だ。


 しかし、海に出ていきなりCランクの魔物に遭遇するなんて……運がない。陸上ならまだしも、海上ではジャンヌ達も手がでない。

 

「素人さんたちはどいてな。こりゃ、意外と受けて正解の仕事だったか?」

「シーサーペントのお肉は美味しいんだよぉ」

「アレン、油断せずにね」


 するとアレン達、冒険者が前に出てきた。


「ノエル様よ、こういう護衛の時に出た魔物の討伐素材ってのは、基本的に冒険者のもんだ」

「いいよ。Cランクだし、そうだな。銀貨10枚で買い取るよ」

「話が早くて助かる」


 直後、アレンが走り出した。

 短剣を握る。

 ほう……中々の業物に見えるぞ?


「ルキナ!」

「OK!」

「ん?」


 背後を振り向くと、ルキナが詠唱を完了させている。

 これは汎用魔術――術式が解明された魔術を、何度も魂に刻まれるまで練習したものだけが発動できる。

 魔素が収束し、術式……つまり魔法陣が空中に形成された。


加速アクセル!」


 お、アクセルだ。加速魔術と言われるとてもよくつかわれるバフ魔術だ。

 能力は簡単。加速する。アレンの速度が一段階上昇。

 シーサーペントの魔術――ウォーターボールが飛んでくる。しかし、アレンは速度を落とさない。


「うぃっすー」


 オグマが盾を使って、そのウォーターボールを受けきった。

 直撃ではなく、流すように。うん、うまい。あれなら腕を傷めない。


 シーサーペントは、次のウォーターボールを形成しているが、もう間に合わないな。

 既にアレンは目の前だ。

 直後、アレンが持つ短剣が赤く輝く。


「ん? あれって……もしかして……魔剣?」


 ザシュッ!!


 シーサーペントの首が、焼けこげたように切り裂かれる。

 断末魔をあげながらシーサーペントはゆっくりと倒れた。


「オグマ!」

「あいよ!」


 すかさずオグマが縄をなげて、沈む前にアレンがシーサーペントに縄をかける。

 鮮やか。流れるような連携で、シーサーペントを倒してしまった。

 一流だと自分で言うだけはあるな。


「どうやら、ノエル様の眼は確かなようですな」

「元々見つけてきたのはエドガーでしょ。それより! アレン! それって魔剣?」

「あぁ? そうだが?」


 登ってきたアレンに詰め寄って、無理やり短剣を見せてもらう。

 ほぉ、なるほど。確かに短剣もいいな。これなら魔鋼の使う量も抑えられるし。

 話を聞くと、Dランクのフレイムラビットという角が赤く光る魔物の魔石を使った魔剣らしい。

 

 攻撃時に、熱ダメージを追加できる代物だと。

 装飾は最低限の量産品だが、それでも魔剣だ。へぇ……いいな。これならいつでも携帯できるし。

 そうなると色んな短剣型の魔剣をもてば……おぉ、面白そうだな。それで……あれで……。

 

「もういいか? おい……聞いてるか、ノエル様よ」

「こうなると長いので、しばらく貸していただけると助かります。こちら、シーサーペントの買取費用の銀貨十枚です」

「なんだ、魔剣が好きなのか? ノエル様は」

「三度の飯よりも」

「はは、つくづく変な貴族様だ」


 

 夜。


「お、お疲れ様でーす」

「やっと俺の魔剣が帰ってきやがった」


 あれからインスピレーションが湧きまくって色々、船内で紙に書きとめていたら気づけば夜でした。

 商売道具なのにずっと借りててごめんね? お詫びといってはなんだけど。


「シーサーペントのBBQ食べ放題の権利をあげます。エドガーが腕によりをかけて作ってくれてるよ」

「そりゃ、ありがてぇ」

「頂きますね」

「お腹ぺこぺこだぁ」


 そして僕はお詫びもかねて、アレン達をご招待。

 エドガーは料理もできる完璧執事なので、船上に突如バイキングが誕生した。


 よーし! 食うぞ!! うん、うまい! なんだろう……この肉は……クジラに近いかな。

 脂身は少なく引き締まっていて、あっさりしているのに濃厚。


「ねぇ、アレン。ノエル様って変よね。辺境伯って王様の次ぐらい偉い家でしょ? しかも、あまりに普通に話ちゃうけど八歳であれは異常よ?」

「確かに。なんだか子供として見れないというか。全然、対等に話せちゃうね」

「…………ただのガキだろ。それに貴族なんて……碌な奴はいねぇ。まぁ……」


「アレン!! アレン達が倒してくれたシーサーペント! めちゃくちゃ美味しいね!!」


「ちったぁ、マシな貴族もいるってことだろ。おい、俺達の分はちゃんと残してあるんだろうな!!」


 それから夜通しのどんちゃん騒ぎ。お酒だけはさすがに解禁されなかったが、なんだか冒険って感じがしてとても楽しかった。

 そして、シーサーペントの襲撃はあったものの、航海は順調に進み、夜が明けた。


 朝。


「ノエル様! ノエル様! 見てください! あれ!!」 

「はわわ……眠いなぁ……ん? あれが南の大陸? なんだか思ってたよりも」


 僕たちは南の大陸に到着した。

 人が住んでいない大陸。なんだか勝手な想像で悪いが荒廃しているというか、荒れ果てた大地を想像していたんだが。


「南国?」


 エメラルド海峡の由来となったであろうエメラルドグリーンの透き通った美しい海。

 ゴミ一つない真っ白な砂浜はまるでキャンパスのように純白だ。

 まるでヤシの木のような木々が生え、オーシャンビューと自然豊かな森が広がる。


 めちゃくちゃに常夏って感じだった。

 アロハシャツが着たくなる。ここはリゾート地か?

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