第2話 街中デーツ

「それじゃあ行こうか」


「待て待て待て待て!!」


 今日は二人でデートの日。


 ウッキウキ気分のバルツは、妻であるレイナによってストップをかけられた。


「何、どうしたのレイナ」


「どうしたの、ではない!! なんだこの格好は!!」


 レイナが今来ているのは、バルツが用意して着させた服だ。


 もちろん、可愛さ全振りのやつを選んで。


 今日のコーデは頭から足のつま先までピンク一色、リボンいっぱいである。


 まず、髪型はツンデレ特有、レイナにぴったりな二つ結び。でも今回は緩く結んでいて、まるで垂れた耳のようだ。もちろん、髪留めにもピンクのリボンを採用している。


 次に服装。ふんわりとしつつも落ち着いた形のドレスに、袖や足元、腰など、ありとあらゆるポイントにピンクのリボンがついている。なんなら腰のリボンはとても大きめだ。


 最後に足。ピンク色のタイツに、ピンク色の靴。靴にはリボンの他に、真っ白な花型の飾りまでご丁寧についている。タイツにも白い植物の刺繍がしてあるが、ドレスに隠れてあまり見えないのが残念である。


「ああ、今日もかわいいよ、レイナ」


「別に褒めて欲しくて注目させたわけではない!!」


 今日もレイナのツッコミはキレッキレだ。


「ほ、ほ、本当にこの格好で街に出るのか!?」


「ああ」


「正気か貴様ー!?」


「大丈夫だって。街にも同じような人いっぱいいるから」


「あっ、ちょ!!」


 そう言って無理やり手を引っ張り、街へと連れ出すのだった。


◇◆◇


 しばらく歩いて街を散策した頃。


「じゃあそろそろ手でも繋ごうか」


「て!?!? 待て待て待て!!」


 バルツが握ったレイナの手を、レイナは振り解いた。


「なんで嫌がるのさー」


「て、て、てて、てをつ、繋ぐなんてゴニョゴニョ……」


 要するに、恥ずかしがっている。


 そんなレイナもかわいいと、バルツは思った。


「いーい? 俺たちは夫婦なの。夫婦なら手を繋ぐ、ましてや恋人繋ぎするなんて普通のことなの!」


「恋人繋ぎぃ!?!?」


「ほら、騒いでるから街行く人がこっち見てる。変な人だと思われる前に繋いじゃおう」


「だ、だが」


「負けたレイナさん」


「ぐっ……しょ、しょうがない」


 バルツがレイナの手に触れようとすると、レイナはびっくりしたように少し手を震わせる。


 だが次にバルツが手を握ると、レイナの手は抵抗することなくバルツの手の中におさまった。


 もちろん恋人繋ぎである。


 レイナの手は、騎士として剣を握っている者の特徴がある、少し硬い手であった。


 だが指は細くしなやかで、バルツの手の中にすっぽり収まってしまうほど小さな手。


「ふふ」


「な、何を笑っている!!」


「いや、嬉しくて。行こうか」


「……ふ、ふん!」


 そうして、レイナはバルツから顔を背けたまま、二人は歩き出した。


◇◆◇


「な、なぁ。私、変な目で見られてないか?」


「もう家を出てから三十分も経つのにまだそんなことを気にしているのか? 変な目は俺だけで十分だっての」


「そんなことを堂々と言うな!!」


 ピンク一色のかわいい服を、レイナはまだ気にしているらしい。


 それを気にするより、お洒落なカフェでの食事を楽しんでほしい。


「ほら、このケーキ美味しいぞ」


「むっ、確かにうまい……ではなく!!」


「おっ、『特別! あなただけのケーキお作りします♡』ってのがあるぞ。やるか!」


「話を聞けぇ!!」


 しばらくレイナがバルツに対して文句を言っていたが、ひたすら頷くことでその場をやり過ごしたバルツ。


 そうして、特別ケーキが運ばれてきた。


「なっ、ななな……」


 そのケーキはショートケーキのクリーム部分がピンクになっていて、ピンクのリボン型チョコレートが二つ、乗っていた。


「こちら、お嬢様のかわいらしいお姿をイメージしました、特別ケーキになっております」


「イメージしなくていいんだが!?」


「すっごい、レイナにピッタリ〜」


「ピッタリではない!!」


「お客様、お気に召しませんでしたか……?」


「うっ……」


 店員さんの悲しそうな顔に、勢いが削がれるレイナ。


「くっ……いや、そういうわけでは……」


 店員は目をうるうるとさせて、レイナを見つめる。


「……っ、す、すごく、私にピッタリで……気に入った」


「「それはよかった!」」


 食い気味に、店員とバルツが答えた。


「なんで貴様が反応するのだ!!」


 こうして、楽しくてかわいい街中デートは、続いて行くのだった。

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