第32話 世界が震える日(現実世界)

——その日の午後。


「え、まただ……」

「揺れてる……?」


学校の廊下で、ざわめきが広がった。


ドン……ッ

ドン……ッ


地震ではない。

上下にも横にも揺れない。

ただ、脈を打つように“鼓動”だけが足元から響いてくる。


(……これ、さっきより強い……?)


誰かがつぶやいたとき、

スマホのアラームがいっせいに鳴り響いた。


【臨時ニュース:気象庁緊急会見 午後2時開始】


周囲がざわつく。


「こんな短時間で会見……?」

「地震じゃないなら何……?」


教室のモニターに映った会場には、

明らかに緊張した表情の職員たちが並んでいた。


アナウンサーが早口で読み上げる。


『本日午前より関東広域で観測されている “周期的な揺れ” について、

気象庁は “地震ではない” と断定しました』


『同時に、地下深部より確認された

異常な “周期性の振動音” を公開します』


会見場がざわめいた。


画面が切り替わり、

地中マイクから収録された音が流れる。


ゴゥ……ゴォン……

 ……ドン……ッ

ゴ……ゴ……

 ……ドン……ッ ドン……ッ


それはまるで——

巨大な何かが深い場所で**脈打っている**ような音だった。


アナウンサーの声が震える。


『現在、振動の原因は不明です。

火山活動・断層活動・人工振動の可能性も低いとされています』


『同現象は、関東だけでなく

北海道・東北・中部・四国の一部でも発生を確認』


全国地図に赤い点滅が広がっている。


SNSでは、もう大パニックだ。


<#大地の鼓動> が急上昇トレンド1位

<地下の心臓>

<終わりの足音>

<幽霊地震>

<見えない何かが動いてる>


ニュースの音声が続く。


『気象庁は、本揺れを “地質現象の枠を超えた異常” と判断。

原因は現在調査中ですが……』


アナウンサーが一瞬ためらい、

次の言葉を慎重に口にした。


『——感知した周期が “一定のリズム” を保っている点が

極めて異例だと述べています』


一定のリズム。

つまり“自然ではない揺れ”。


ドン……ッ

 ドン……ッ

   ドン……ッ


その瞬間、

瑞葉の胸がまたじん……と痛んだ。


(……あの子……)


さっきまで重なっていた“影の少女の脈動”と、

世界の揺れのリズムがまったく同じだと気づいた。


教室の外では誰かが叫ぶ。


「見て!外の雲……おかしい!!」


窓の向こうでは、

雲がゆっくり——まるで呼吸するように波打っていた。


生きているみたいに。


アナウンサーの声が震える。


『——繰り返します。

この現象は地震ではありません。

しかし現在、日本列島は大規模な“未知の揺れ”に包まれています……』


世界がざわめいていた。


現実世界が、何かを訴えている。


気づいているのは少数。


けれど——


瑞葉にはわかっていた。


(……あの子の泣き声が……世界を震わせてる……)

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