ボタンの掛け違い(第一部) 〜Jealous Guy に寄せて〜

Mulberry Field

〜プロローグ:It’s Only Love〜

1971年春、僕は一年遅れて日本の小学六年に編入された。

木造校舎独特の香りが漂う教室に足を踏み入れると、窓際の隅っこに璃子(りこ)はいた。

海外の大人びた少女と比べ、璃子はまるで摘みたての果実のように幼く、無垢な光を放っている。

真っ赤なランドセルを背負ったミニスカートの後ろ姿は、どことなくワカメちゃんを思わせた。

だが、その愛らしい滑稽さの奥に、どこか目を離せない透明感を宿している。

その小さな背中を見つめ、僕は少しだけ安心したのを覚えている。


かたや姉は、未だにフラワー・ムーブメントの残り香をまとっていた。

Janis Joplinを真似たスエードのフリンジが揺れるたび、ランドセル姿の璃子が一層愛しく思える。


璃子は、僕と同じ郊外の住宅街に住む二人姉妹の妹だった。

透きとおるような白い肌と、整った顔立ちに長い髪が印象的で、誰よりも特別に映る女の子だ。

また璃子は、エレクトーンに夢中で音楽的な素養も豊かだった。

放課後、彼女の家の前を通ると、窓からこぼれる旋律が風に乗って聞こえてくる。

未熟ながらも瑞々しい旋律が、僕にとっては毎日の合図のようで、どこか安らぐ音だった。


   ♫ Why am I so shy when I'm beside you?

その問いかけは、Johnの歌声と共鳴するように、僕自身の心の奥で鳴り響いている。

言葉にならない気持ちを抱きしめたまま、僕はただ、璃子の笑顔だけを見つめていた。

それは拙く、あまりに幼い想いだったが、僕にとっては紛れもない「初恋」だった。

璃子の微笑みと、Johnの澄んだ歌声が重なった、あの静かな瞬間。

それこそが、二人の物語の遠い始まりだった。

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