第16話 私が死んだら、おにぃは助かる!?
その夜、男が言うようにおにぃは高熱を出した。解熱剤を飲んでも39度から下がらない。顔色の悪いその端正な顔にうっすらと無精ひげが生えている。
「ジーン……」
そう呼んでもいいんだよね?
私たちは兄妹じゃないんだよね?
側にいてもいいんだよね?
……好きでいてもいいんだよね?
兄妹じゃないと聞いた時は戸惑いの方が大きかったけど、今はようやく実感できてきて、嬉しくてたまらない。
「でも……」
側にいたら、おにぃは私を守るために追手と戦い続ける。
今回は肩を撃たれただけだから、助かったけれど……
もし心臓を撃たれたら…
もし頭を撃たれたら…
おにぃが死んじゃうことを考えると怖くて仕方ない。
いつまで、異世界人は追いかけてくるんだろうか、どうやったら諦めてくれるんだろう。
立ち上がって、黒いリュックを開ける。
そこには【聖女殺しの剣】……
「私が死んだら、おにぃは助かる!?」
追手のターゲットは私だけだ。
私がいなくなれば、おにぃはこのまま日本で生きていけるだろう。
でも、自殺する度胸なんて……
「それが、【聖女殺しの剣】?」
「え?」
病室を開けて入ってきたのは……
「氷室まさみ……」
おにぃと楽屋でキスしてた女優の氷室まさみだ!
「小娘に呼び捨てされる、いわれはないんだけど」
「す…すいません。氷室まさみ…さん」
灯りを絞った病室にそぐわない明るい色のワンピースを着て、芸能人オーラ全開でこっちに近づいて来る。
「何ですか。ど、どうしてここへ」
「ここの院長の息子と知り合いでね。ジーンがここに入院したって聞いたの。で、来てみたら、ヘンな服を着た男たちと●クザが殺し合いをしてるじゃない。ケガをしてるヘンな服の男を助けおこしたら、『ジーンとあんたは異世界人で、あんたをその【聖女殺しの剣】で殺してくれたら、ジーンは私にくれる』って言うのよ」
「……」
「そんなバカみたいな話、信じられないし、ジーンは欲しいけど、犯罪者にはなりたくないから断ったんだけど、『殺せば死体は異世界に引き戻されるから大丈夫。完全犯罪だ』って。だから隠れて見てたのよ。そうしたら、●クザに殺されたそいつの死体、本当に消えちゃった! ねえ、あなた達、本当に異世界人なの?」
「そ、そんな訳…きゃっ!」
氷室まさみは私の手から剣を取り上げ、鞘を抜く。
「すごい光ってるじゃない。SF映画みたい。」
青白く光る刀身を彼女はうっとりと見つめる。
「異世界人かどうかなんてどうでもいいわ。もし死体が消えなくても何とかしてくれるから……。ふふっ院長の息子ね、私に夢中なのよ。それにこの病院にはバックに●クザがついてるから上手く処理してくれるの。今までも色々お世話になったのよ」
【聖女殺しの剣】を突き付けられ徐々に後ろに下がる。
「あたしは欲しい物をあきらめたことはないの。仕事も男も……邪魔者は全部排除してきたわ。だからジーンとあたしのために死んで、ね?」
ジリジリと間合いを詰め、おにぃの枕もとまで私を追いつめられたところで、彼女が剣を振りかぶる。
何よこのアタオカ女! あんたなんかおにぃの趣味じゃないわよ!
こんなメンヘラ悪女に殺られてたまるかと、その腹に蹴りを入れるため構えたところで……
バキィ!
突然おにぃが起き上がり、彼女を殴りつける。
その力は全く容赦のないもので……総合格闘技王者に思いっきり殴られ、悲鳴も上げれず倒れた氷室まさみの身体は、ピクピクと痙攣し、顔面は血まみれで下半分がへしゃげていた。
「死んだかな? まあ、いい。この病院には●クザがついてるから上手く処理してくれる」
「お、おにぃ! 良かった! 目を覚ました!」
思わず抱き着くと、うめき声をあげる。
「ぐぅう」
「ごめん! ……あ、血が…」
「あぁ、今ので傷が開いたか」
巻かれた包帯からみるみる血がにじんでくる。
「大丈夫!? おにぃ! おにぃ!」
おにぃは荒い息を吐き、ベッドに身体を横たえた。
「ごめんね。私をかばったから……私のせいだ」
安堵と後悔で涙が止まらない。
「ほら泣くな。大丈夫だから、それより【聖女殺しの剣】を拾ってくれ」
剣は弾き飛ばされ、部屋の隅に転がっていた。
鞘も拾って納める。
「……これは私を殺す特別な剣なんだよね? これで私が死んだらどうなるの?」
「違う。これはお前を殺す剣じゃない」
「え?」
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