妖刀奇譚―妖刀と成り上がる学園生活―
ちぃあ
第1話 霊の流れる学園で
神楽院の朝は、静かで鋭い。山の麓に広がる学園には、霊力が川のように流れており、その気配が空気を薄く震わせていた。
深呼吸すると、冷たい金属の匂いとともに澄んだ“霊の気配”が鼻腔を抜けていく。
まだ日が昇りきる前だというのに、鍛錬場には木刀の打ち合う音が響いていた。刀を帯びる学生たちの姿も珍しくない。
ここは武士階級が現代まで生き続けた日本。刀は武器であり、礼儀であり、霊力を扱うための媒介器具でもある。
鏡龍馬は、その一本を帯びる者のひとりだった。
寮を出ると、早朝の冷気が頬を撫でる。龍馬は荷物を肩に掛け、ゆっくりと石畳の道を歩く。
(今日も実技か。はあ、苦手なんだよな)
ため息をついた瞬間。
「龍ちゃーん、待って」
柔らかく澄んだ声が背後から飛んできた。
振り向く前に誰だか分かる。
東堂さなえ。
ゆるく巻かれた茶色のロングヘアが朝日に溶けるように輝きながら、軽く息を弾ませて駆けてくる。
「おはよう、龍ちゃん。寝癖、ついてるよ」
さなえは指先でそっと龍馬の前髪を整えた。 その距離感が近くて優しくて、龍馬は少しだけ背筋が伸びる。
「今日も早いね、さなえ姉」
「龍ちゃんのことは、ほっとけなくて」
にこり、と微笑むさなえ。 朝の冷たさが嘘みたいになくなる。
だが、周囲の視線はすぐに刺さる。
「まただよ」
「金バッジの先輩と“印なし”が並んで歩いてるの、マジで場違いじゃね?」
上位勢の男子生徒がひそひそと呟いた。
さなえの襟には“金バッジ”。学年10位以内の証。
一方で、龍馬の襟には何もない。
“印なし”──学年251位以下の生徒につく烙印だ。
(ほんと、情けないよな)
そう思った瞬間、さなえが龍馬の袖を優しく引いた。
「ね?気にしないで行こ」
(強い人だよな……本当に)
二人は昇降口へと並んで入った。
────────────────────
龍馬の教室に入ると、一番奥で黒髪の少女が静かに
読書していた。
蘇芳桔梗。
名家・蘇芳家の令嬢であり、学年20位の実力者。
桔梗はページをめくりながら、視線だけ龍馬に向けた。淡々としている。 けれど、その瞳にはかすかな興味の色があった。
(また東堂先輩と一緒にいたわね。あの人、ほんとに下位勢なの?)
問いかけるような眼差し。
隣で彼女の友人・紫音がにやにやしながら肘で桔梗をつつく。
「桔梗、また鏡くん見てるよ?」
「見てません。ただ……確認しただけです」
「ふーん?ならいいけど?」
紫音は楽しそうに笑う。
桔梗は無表情を保つが、視線は龍馬が席につくまで離れなかった。
────────────────────
HRが始まる寸前──
廊下側から勢いのある声が飛んだ。
「龍馬先輩っ!」
小柄な少女が手を振っている。
小鳥遊水織。
明るくて人懐っこい一年生。中等部の頃に龍馬に助けられて以来、距離が一気に縮まった。
教師が困った顔で言う。
「小鳥遊、廊下から大声出すな。着席時間だ」
「ご、ごめんなさーい!龍馬先輩、あとでまた!」
水織はぴょこんと頭を下げて駆けていく。
「ほんと、元気だよな」
龍馬が苦笑すると、桔梗がじっとその表情を見つめた。
(あの後輩……鏡くんに近い距離なのね)
紫音がひそひそ声で囁く。
「桔梗、ちょっとムッとしてない?」
「してません」
「ほんとに〜?」
桔梗は表情ひとつ変えないが、視線だけは何度も龍馬へ戻っていた。
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午前の授業は歴史と霊術基礎。
歴史教師・黒野が黒羽織を翻しながら教壇に立った。
「今日の講義は、現代武士制度の成立についてだ」
黒野は資料を映し出しながら、淡々と話す。
「古代から霊力は存在していたが、明治期に国家的研究が進み、刀が“霊力の媒介器具”として正式に運用されるようになった。その結果、武士階級は霊術の専門家として国に残り、現代まで続く制度が生まれた」
窓の外を眺めながら、龍馬はぼんやりと聞く。
(俺も一応武士の家だけど、霊力量は平均以下なんだよな)
黒野の講義は続く。
「第二次世界大戦中には“妖魔大規模出現”が発生し、日米は講和。そこから国際的な妖魔対策組織が形成された。神楽院もその流れで創立された学校だ」
桔梗は真面目にメモを取りながら、ふと教室の霊気に違和感を覚えた。
(校舎の霊気、少し揺れてる。季節の変わり目にしても……妙ね)
龍馬はまったく気づかない。その差が、霊力の資質の差でもあった。
────────────────────
昼休み。
食堂のざわめきの中、水織が笑顔で駆け寄ってきた。
「龍馬先輩!一緒に食べませんか!」
「あ、うん。いいよ」
さなえが少し離れた場所で手を振る。
「龍ちゃん、あとで合流してもいい?」
「もちろん」
その瞬間、水織の笑顔が一瞬だけ固まった。
(やっぱり、敵わないなぁ。龍馬先輩にとっては特別なんだろうなぁ)
彼女はすぐに元気に戻ったが、胸の奥に沈む気持ちは消えない。
一方で桔梗は、遠い席で弁当を開きながらじっと二人のやり取りを見つめていた。
(鏡くん、あの後輩とよく話すわね。東堂先輩とも距離が近いし)
紫音が肘でつつく。
「桔梗、また見てる」
「見てません」
「ふーん?」
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放課後。
昇降口で靴を履き替えていると、さなえが優しく声をかけてきた。
「龍ちゃん、今日はもう帰る?」
「うん。実技でちょっと疲れてて」
「なら、気をつけて帰ってね。また明日……」
さなえは柔らかく微笑み、静かに手を振った。
その背中を見送りながら、龍馬は胸の奥に小さな温かさを感じていた。
(さなえ姉には、ずっと助けられてるな)
そう思った瞬間──
「龍馬先輩!」
また水織が駆け寄ってきた。
「明日の実技、応援してます!ちょっとだけ、昨日より頑張って欲しいです!」
「え、あ、ありがとう」
近すぎる距離に戸惑いながらも、龍馬は笑った。
桔梗は遠巻きにその光景を見つめる。
(ほんとに距離が近い子ね……)
「桔梗、ため息出てるよ?」
「出てません、紫音」
この日、龍馬はまだ知らない。
幼なじみの優しさが、 後輩の想いが、 名家の少女の静かな興味が、すでに彼の背中をそっと押し始めていることを。
そして──
その未来が、妖魔という影と共に大きく揺れ始める運命にあることも。
──────────────────────
あとがき
お初にお目にかかります。
私“ちぃあ”
と申します。
この作品は10年程前にプロットだけ作ってあった作品のリブート作品になります。
Web小説は初めて投稿しますので、至らない点があれば是非コメント等にて指摘していただければ幸いです。
この作品が面白い。続きが見たい。
と思っていただくだけでも嬉しいのですが
差し出がましいようですが★やフォローして頂ければ、形として目に見えて、やる気にも繋がりますので、是非よろしくお願いいたします!
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