第37話:黒き災厄、その核心へ


**ズガアアアァァン!!**


ドラゴンの尾が薙ぎ払われるたび、大地がえぐれ、大木が吹き飛ぶ。

俺たちが作った要塞の防壁も、半分以上が瓦礫の山と化していた。


「怯むな! 撃ち続けろぉぉ!!」


ゴブ郎が叫ぶ。

ゴブリン弓兵部隊が、指から血が出る勢いで「鉄蜘蛛の剛弓」を引き絞り、ミスリルの矢を雨のように降らせる。

同時に、ドワーフ製のバリスタから放たれた巨大な杭が、ドラゴンの鱗に突き刺さった。


『……鬱陶シイ』


ドラゴンは気怠げに身を震わせた。

ただそれだけで、突き刺さった矢や杭が弾き飛ばされる。

傷口からドス黒い瘴気が噴き出し、瞬く間に傷を塞いでいく。


「再生速度が速すぎる……!」


空中でカブトムシ(ドーザー)に乗ったクラウディアが歯噛みする。

彼女の『聖光斬』で翼膜を切り裂いても、数秒後には元通りだ。

これではジリ貧だ。


「主! 下がれ! ブレスが来るぞ!」


ヴァイスの警告と同時に、ドラゴンの喉が赤熱した。


『消エロ』


**ゴオオオオオオッ!!**


極太の瘴気ブレスが、直線状に放たれる。

直撃すれば村ごと消滅する威力だ。


「防壁班、全力だ!!」


俺はライターの火力を最大にし、煙の防壁を展開する。

シルヴィも《魔糸防壁》を何重にも重ね、さらにドワーフたちが作ったミスリルの盾を構えたホブゴブリンたちが最前線で踏ん張る。


**ドッゴォォォォン……!!**


視界が紫と黒に染まる。

熱と衝撃で体が浮き上がるが、なんとか耐え切った。


「ぜぇ、はぁ……。冗談きついぜ、あの火力」


俺は冷や汗を拭った。

こちらの攻撃は通じず、向こうの一撃は即死級。

生物としての格が違いすぎる。


「……解析完了だ」


その時、ヴァイスが冷静な声を上げた。

彼は激戦の最中も、常に冷静にドラゴンの動きと魔力の流れを観察(解析)していたのだ。


「奴の不死性は、周囲の森から吸い上げる『瘴気』によるものだ。外部からの攻撃では、どれだけ傷つけても無尽蔵に再生される」

「じゃあどうすんだよ。お手上げか?」

「いや……核(コア)がある」


ヴァイスが指差した先。

それはドラゴンの胸部。分厚い鱗と、渦巻く瘴気に守られた一点。**「逆鱗」**の奥だ。


「あの奥に、異常なほど高密度の瘴気反応がある。奴の生命維持機関であり、この森を汚染している元凶……**『瘴気の心臓(コア)』**だ。あれを破壊、あるいは浄化しない限り、奴は不死身だ」


「心臓、か……」


遠い。

あそこはドラゴンの懐、最も危険な場所だ。

遠距離攻撃じゃ届かない。誰かが肉薄して、一撃必殺の技を叩き込む必要がある。


「……俺が行く」


俺は静かに言った。


「タケル様!?」

「俺のライターと、浄化の煙なら、あの瘴気を焼き払える。……いや、俺にしかできない」


シルヴィやクラウディアの攻撃力は高いが、相手は「瘴気の塊」だ。物理や魔法で吹き飛ばしても再生される可能性がある。

概念的に「浄化」し、「焼き尽くす」ことができるのは、神様から貰ったこの道具だけだ。


「……勝算は?」

ヴァイスが問う。


「五分五分……いや、お前らが道を切り開いてくれるなら、100%だ」


俺の言葉に、全員の顔つきが変わった。

迷いは消えた。


「承知いたしました」

シルヴィが優雅に一礼し、背中の蜘蛛脚を全開にする。


「主様をあそこまで送り届ければよいのですね? ……私の全てを賭けて、道を作ります」

「我輩たちが盾になります! 主様は前だけを見てください!」

ゴブ郎が胸を叩く。


「風は、俺が送る」

クロウが低く唸り、全身に風を纏う。


作戦は決まった。

一点突破。総員による特攻でドラゴンの守りをこじ開け、俺が心臓(コア)を撃ち抜く。


「よし……行くぞ!!」


俺はドーザーの背中に飛び乗った。

最後の突撃だ。


「総員、かかれぇぇぇ!!!」


俺の号令と共に、タケル・ファミリー全員が、死を恐れずに巨大な古龍へと雪崩れ込んだ。


(第37話 完)

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