第32話:合流
20××年5月4日(土):桃源郷キャンプ地
:ロッテことロッテンマイヤー:幸徳井栄子(かでいえいこ)視点
また友子に嘘をついてしまった。
私たちが祖父母の幽霊だと打ち明けられないから仕方ないけれど、あまりの罪悪感に消えてなくなりたいと思う。
でも、今はまだ成仏する事も地獄に落ちる事もできない。
まして消えてなくなるなんて、絶対にできない。
友子が生涯の伴侶を見つけて子供を授かり幸せになるまでは、この世に存在し続けなければならない。
何より、真実を打ち明けて友子が自殺するような事だけは、あってはならない。
この世に大した未練の無い友子は、私たちと一緒にいられると思ったら、簡単に自殺してしまうかもしれない。
友子を騙し続けられるように、小道具を買いそろえないといけない。
多くのパソコンが必要だと言ってあるから、キャンプ地に戻ったら直ぐに日本に行けるように、商品を予約しておかないと!
「狼煙を見て駆けつけた。
ここの我らの同族がいるはずだ、会わせてくれ」
夜明けまで後2時間の時刻に、輝くような銀の毛並みの狼獣人が、傷だらけの獣人たちを率いて現れた。
【助けた獣人たちは中央に集まっているわ。
会わせるのは構わないけど、疲れ切って泥のように眠っている者が多いの。
リーダーの赤毛の狼獣人を連れて来るから、それまで中に入って待っていて。
確かめてくれたらわかると思うけれど、この塀には結界が施してあるわ。
私たちを信じてくれるなら、中に入った方が安全よ】
「お気遣いは感謝するが、汎人族の卑劣な罠で村が壊滅したばかりだ。
仲間たちが助けてもらったのか、奴隷にするために捕らえられたのか、貴殿の言葉だけでは判断できない、ここで待たせてもらう」
【その話だと、今回の獣人族襲撃は、汎人族の奴隷狩りという事かい?】
「ああ、どうやったか分からないが、魔獣を操って村を襲い、戦士全員が戦うしかないようにして、村から避難する女子供をさらう手筈になっていた」
【その話に間違いはないんだね?】
「ない、途中で捕らえた賊の頭から聞き出したから間違いない」
【証人にできる族の頭は確保しているのかい?】
「そんな必要はない、証人など不要、報復に汎人族を殺すだけだ」
【そんな状態で汎人族を襲ったら、獣人族から攻撃を始めた事にされるよ。
証人がいても、獣人族が悪事を働いた事にする権力者が多いと思うけど】
「そんな心配は不要、余計なお世話だ。
冤罪をかけられて悪人にされても構わない。
何も知らない者を殺す気はない、命じた権力者だけを狙う」
【悪党ほど慎重で警戒心が強いから、多くの護衛に守られているし、悪知恵も働くから、貴方たちの正統な報復も獣人との全面戦争に利用されるわよ】
「汎人族との全面戦争が危険な事は分かっている。
だが何もしなければ、同じ事を仕掛けられて死に絶えるのが目に見えている。
勝ち目が薄くても、僅かな希望に賭けるしかない」
【そこまで分かっていて、覚悟も決まっているなら、悪事の大本を狙いつつ、獣人族が安心して暮らせる隠れ家を探さない?】
「我々が安心して暮らせる隠れ家だと?」
【私たちはこの辺りを開拓しているんだけど、もう少し人手が欲しかったの。
安全な土地を提供するから、開拓を手伝ってくれない?】
「我ら誇り高い獣人族に、汎人族の犬になれと言うのか?!」
【違う違う、家臣成れとも雇うとも言っていないでしょう?
対等な相手として手伝って欲しいと言っているのよ】
「汎人族の言う事など信じられん」
【信じるかどうかは、私たちが助けた獣人から話を聞いてから決めて】
銀毛の狼獣人の話が終わるころを見計らって連絡した、赤毛の狼獣人が満面の笑顔を浮かべてやって来た。
「銀、よく無事だったな!」
「赤こそよく皆を守り抜いてくれた」
「いや、情けない話だが、入れ代わり立ち代わり現れる魔獣に全滅寸前だった。
この方々が助けてくれていなかったら、戦える者は全滅していただろうし、戦えない者は山賊に捕らえられて奴隷にされていた」
「その件だが、黒幕は汎人族の貴族と商人のようだ」
【赤殿、大切な話なのは分かるが、銀殿たちも疲れ切っている。
食料を運ばせたから、食べながら話してはどうか?】
「それは助かるが、中に入れてはもらえないのか?」
【銀殿が警戒しておられるのだ。
汎人族の謀略で襲われた直後だからしかたがないと思う。
自分たちまで結界の中に入ったら、何かあった時に赤殿たちを助けられない。
そう思っておられるのだろう】
「心配いらない、この人たちは我らの命の恩人だ。
私がそう言っても、銀は警戒を解かないだろう、判っている。
食料も毒や眠り薬を警戒して食べないつもりだろうが、だいじょうぶだ。
すでに我らが食べて何の問題も無かった。
私が銀の立場であっても警戒するから、中に入れとは言わないが、せめて食事だけはしないか、食べていないといざという時に戦えないぞ」
「そのいざという時が今で、食べるのはとてつもなく危険だぞ!」
「しかたないな、だったら、この方々が別けてくれた食料ではなく、私たちが狩った山犬魔獣の肉と、残っていた携帯食料を持って来るから食べないか?」
「赤たちの食料を別けてもらえたら正直助かる。
魔獣との戦いの連続で、多くの者が携帯食料を失い、残った食料も使い切り、気力だけで戦っていたのだ」
【私たちがいたら、気兼ねなく話せないだでしょう、少し離れているわ。
ここの見張りは任せます、頼みましたよ】
獣人たちと自分が操る布鎧兵に話しかけてその場から立ち去った。
「すまない、助かる」
「同族を助けてくれた事には感謝する」
夜が明ける頃には獣人たちの話し合いも結論が出ていた。
結論を話すのに、獣人族全員が集められた。
赤と銀のリーダーがそろった事で、獣人族は歓喜につつまれた。
既に確認していた事だが、獣人族は2つに別れる事になった。
私たちを信用して、開拓に協力するグループ。
この夜営地に残って、襲撃の黒幕に復讐するグループ。
私たちに協力する者たちは、大半が戦えない者たちだ。
幼い子供がいる者、草食系で戦闘力の弱い者が大半だ。
戦えるのは、リーダーの赤と幼い子供を持つ肉食系獣人の母親だけ。
この夜営地に残るのは、銀をリーダーとする最後に加わった戦士が大半だった。
少数は妻と幼い子供の為に開拓地に向かうが、大半は残って復讐をする。
ただ、私たちの事を信用していない銀は、キャンプ地までついて来る。
赤たちが暮らす場所を確かめておかないと、何かあった時に困る。
何度も繰り返す事になるが、私たちのことを信じていないのだ。
「ボリス?!」
朝食を終えて、全員でキャンプ地に向かおうとした時、森の奥から傷だらけの獣人たちがボロボロの状態で現れた!
その姿は、凄惨な戦いを繰り広げた敗残兵としか言えない。
片足を失って、戦友の肩を借りてようやく歩いている者。
肩を貸している戦友も片腕を失ってフラフラになっている。
両眼を失った戦友に導いている者は、お腹から腸が飛び出している。
「肉屋はいるか?! 急いで腹を縫ってやってくれ!」
言葉から判断すると、獣人族の村には医師も薬師もいないのだろう。
薬師はいるかもしれないが、破れた腹を縫うのは肉屋と言われる者の役目なのだ。
獣人族だから、汎人族とは比べ物にならない回復力なのだろうが……
【友子、獣人族の治療が不安だったら、治癒魔術を使ってあげる?】
友子が肌身離さず持っている、スマホの中から聞いてみた。
「当然よ、彼女たちのやり方を否定したりはしないけれど、少しでも助かる確率が高いのなら、恨まれる事になっても治癒魔術を使うわ」
友子は良く分かっていないが、この世界に残されている治癒魔術は貧弱だ。
精霊や妖精から嫌われた事で、魔術の威力が格段に落ちている。
強引に魔素を集める方法を使えば、限られた魔術だけは、ある程度の威力で発現できるが、治癒魔術に限ってはほぼ使えなくなっている。
「私に治療させてもらえませんか?」
破れて腸が飛び出した腹を縫うだけ。
腹の傷だけでなく、手足や目を失った傷口にも、刻んだ薬草を塗ってボロ布を巻くだけという治療を見ていた友子が、ガマンできずに言った。
「精霊や妖精の力を借りた治療をしてもらえるなら助かる!
頼む、治療をしてやってくれ!」
赤毛の狼獣人が先に頭を下げて言ったので、何か言いかけていた銀毛の狼獣人は自分の言葉を飲み込んでいた。
「精霊さん、妖精さん、この世界の神様。
どうかここにいる人たちのケガを治してあげてください。
失った手足、目を元通りにしてあげてください。
私の魔力を全て捧げます、元通りに治してあげてください!
パーフェクヒール!」
「「「「「な?!」」」」」
「すごい、すごい、すごい、もとどおりになった!」
「てもあしももとどおりにはえてきた!」
「トモコのいったとおり、もとどおりになおった!」
大人たちが絶句し、最初に助けて子供たちが、喜びのあまり小躍りしている。
「女神様よ、やっぱり女神様よ」
「そうよ、私たちを救いに女神様が降臨してくださったのよ」
「同胞を救ってくださった女神様に我が忠誠と命を捧げます」
銀毛の狼獣人が膝をつきこうべをたれ、永遠の忠誠を誓っている。
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