第28話:捕縛と補殺
20××年5月3日(金):桃源郷キャンプ地
:幸徳井友子(かでいともこ)視点
「貴方たちはここで待つていなさい、ヴィアはこの子たちを守っていて」
「え、僕も手伝う!」
「わたしも戦える」
「ぼくもがんばる」
「わたしは……」
「……」
ヴィアに子供たちを任せて、逃げてくる獣人たちを助けるために走った。
〖貴方たちでは足手まといです。
貴方たちが邪魔になって、お父さんやお母さんが殺されても良いのですか?〗
「そんな、じゃまになんてならない!」
「あしでまといになんてなりません!」
「ぼくは……」
「「……」」
〖貴方たちの所為で、お嬢さまが危険になるようなら、その場で殺しますよ!〗
ヴィアが怖い事を言ってるけれど、止めない。
単なる脅しではなく、本当に危険だと思うから、厳しく言った方が良い。
弱肉強食なのは、既に嫌というほど思い知った。
王子の時も、獣人の子供たちの時も、この世界の汎人族は平気で人を殺す。
ロッテたちも平気で人を殺すけれど、あくまで正当防衛だ。
彼らが襲って来ない限り、こちらから殺す事はない。
【こちらに来て、子供たちがいます!
助けるからこちらに来て、子供たちは助けました】
先を行っていた、ロッテのリソースの一部が操っている動物キャラクター着ぐるみ寝巻が、私たちを見て止まってしまった獣人族たちに言う。
今回の獣人族救出には、多くの妖精族が手を貸してくれている。
動物キャラクターの着ぐるみ寝巻300体が妖精だと聞いている。
もちろんロッテたちがリソースの一部を使って動かしている兵士もいる。
最初に王子を襲っていた農民兵が300余、獣人の子供たちを攫おうとしていた山賊が100余、合わせて400余もの兵士がいる。
更に、私の側を離れない戦国武将鎧武者が4領、西洋風の甲冑が3領、私や獣人族の子供の身の回りの世話をする、着ぐるみ寝巻が20体だ。
それほどの大兵力が前からやってくるのだ。
しかも、この世界には存在しない乗用車とトラックまでやってくるのだ。
山賊に追われている獣人族が止まってしまうのはしかたがない。
【私たちは味方です、こちらに来てください、子供たちがいます!
私たちは味方です、助けるからこちらに来て、子供たちは助けました】
〖私たちは味方です、こちらに来てください、5人の子供を助けました!
私たちは味方です、助けるからこちらに来て、最高神に誓って味方です〗
獣人たちが怖がらないように、女声のロッテとヴィアが呼びかける。
私が聞いた事のない、他の女性の声まで使って呼びかける。
迷いながらも獣人族が再びこちらに走り出した。
だけど、一度完全に止まった事で、山賊に追いつかれそうになる。
獣人の大人たちは、幼い子供を抱えながらも戦おうとしていた。
「俺たちの獲物だ! 横取りするな!」
「違うぞ、ベンの部隊だ!」
「ちっ、子供を捕らえるくらいに、どれだけかかってやがる!」
「おい、他の連中もいるぞ!」
「農民兵だ、農民兵に騎士まで一緒だぞ!」
「獣人族だ、獣人族の援軍がいるぞ!」
私たちを見た200程の山賊は大混乱に陥っていた。
山賊武装のロッテたちを見て味方だと思い、農民兵のロッテたちを見て混乱し、動物キャラクター着ぐるみ寝巻を見て獣人族の援軍だと思った。
「ベンの野郎でも構わない、敵か味方か分からない奴は殺せ、裏切者は殺せ!」
山賊の頭領だと思われる奴が、思い切った事を言った。
先ほどまで味方だった者達も、少しでも疑いを持ったら問答無用で殺す。
それくらいの気持ちでいないと生き残れない世界なのだと痛感した。
《頭を狙え、山賊の頭を狙え、下っ端など無視して頭だけを狙え》
西洋風甲冑を動かしているフェルが命じる。
その言葉を聞いた途端、先ほど偉そうに言っていたボスであろう山賊が、獣人族を追うのを止めてその場に留まった。
「殺せ、騎士を先に殺せば農民兵なんか逃げていく、騎士を先に殺せ!」
ボスは、一緒に止まろうとした配下の山賊たちに命じた。
そのまま先頭を走っていたら、自分だけ狙われて殺されると思ったのだろう。
配下の山賊を盾にして、自分だけ生き延びる気なのかもしれない。
でも、自分だけ安全な場所に止まろうとしたボスに、誰がついて行く?
少し時間があれば、暴力によって思い通りにさせる事はできるだろう。
だけど、ボスが恐怖を感じて止まれば、一緒に止まってしまうのが人情だ。
もう少しで獣人族に手が届くと言う所で、山賊たちは立ち止まってしまった。
「何をしてやがる、さっさと騎士を殺してこい!
グズグズしてやがると、これで脳天カチ割るぞ!」
「「「「「ヒッ!」」」」」」
山賊のボスは、これまで何度も配下の頭をカチ割ってきたのかもしれない。
いかつい武器、大きな斧を振り回して言う。
一度は立ち止まった山賊たちが、再び走り出した。
だが、一度立ち止まった代償はとてつもなく大きい。
女と幼子が主体の獣人族に追いつけなくなっただけでなく、ロッテたちが操る山賊や農民兵に襲われる事になった。
「死にさらせ!」
「裏切者が、死ね!」
「農民ごときにやられる俺様じゃねぇ!」
「しね、しね、しね、死にさらせ!」
「「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
ロッテたちが操る山賊や農民兵は全く逃げなかった。
操っている数が多いので、回避や防御にまでリソースを使えないと言っていた。
敵の攻撃を防御せず、身体中を槍で貫かれ、剣で斬り裂かれても気にしない。
何の痛みも感じないから、そのまま敵を槍で貫き剣鉈で斬る。
「「「「「ギャアアアアア!」」」」」
ロッテたちを貫き斬り裂いて、勝利を確信した山賊たちは、一瞬後に激烈な痛みと恐怖に絶望の悲鳴をあげる。
ロッテたちをどれほど貫き斬っても血の一滴も出ない。
それどころか何も感じないように槍を突き出し剣を振う。
この世界にいるのか知らないけれど、アンデットと戦っているようだろう。
無傷の農民兵が残った山賊に襲い掛かるだけではない。
胸や腹に槍を突き立てられ、肩や頭に剣を受けた状態の、普通なら絶対に死んでいるはずの農民兵が、山賊たちに迫っていくのだ。
「「「「「うわぁあああああ!」」」」」」
「ばけものだ、化け物が出た!」
「アンデットだ、俺たちが殺した奴らが復讐に来た!」
「逃げるな! 逃げた奴は頭カチ割るぞ!」
山賊のボスが声を枯らして配下を引き留めようとするが、もうボスよりもロッテたちの方が恐ろしいのだろう、止まる事なく逃げようとする。
だが、こちらの方が圧倒的に数が多いのだ、当然先回りしている。
【これだけ脅かしておけば、もう逆らう事ないでしょう、眠らせて】
「スリープ」
20××年5月3日(金):桃源郷キャンプ地
:ロッテことロッテンマイヤー:幸徳井栄子(かでいえいこ)視点
友子が眠りの魔術を使った。
最初から全員眠らせてもよかったのだけど、それでは友子が決断できない。
友子が仏心を出さないように、一度は獣人族や私たちを殺そうとする場面を見せて、厳しい罰を与えるように誘導した。
その気になれば、最初から山賊を全員生きたまま捕らえる事ができた。
だがそれでは、友子が人殺しを決断できなくなる。
友子にこの世界の厳しさを見せつけるために、ギリギリの状態にした。
生死の境、修羅場になれていない友子は、今こうしてスリープを使った後でも、最初からスリープを使っていれば、誰も殺さずに済んだと理解できないでいる。
のちに思い至るかもしれないが、少なくとも今は分かっていない。
ただの山賊は、討伐依頼を受けていない限り、殺しても生け捕りにしても賞金は出ないが、有名なボスや幹部は賞金が出る。
正確には、被害者や領主が賞金を懸けた奴しか金にならない。
なにより、今回の獣人族襲撃がただの奴隷狩りなのか、誰かに命じられた陰謀なのかは、ボスや幹部クラスしか知らないだろう。
今後の事もあるから、この世界の情報はできるだけ多く集めないといけない。
これまでは友子の安全を最優先にして、守りに戦力を集中していたけれど、そろそろ密偵を送って情報収集に力を入れないといけない。
「残った方々を助けに行きます。
一緒に助けに行きたい方は私について来てください。
子供達を安全な場所に隠したい方は、この者達の後について行ってください」
友子にしては攻めた決断をしたようね。
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