第20話:猛獣と魔獣

20××年4月29日(火):桃源郷

            :幸徳井友子視点


「ロッテ、毎日ジャグジーに入りたいんだけど、キャンプ地には王子がいるから、何か仕切りを作って欲しいの」


【友子がジャグジーを使っている間は、セバスとフェルが、王子様が近づかないようにするから、気にしなくてもだいじょうぶよ】


「そんな事は分かっているわ、分かっているけど嫌なの!

 今も、キャンプ地に王子がいると思うだけで、心からくつろげないの。

 こんな気持ちでは、ジャグジーに入っても安らげないの!」


【王子様はそこまで友子の負担になっているの?】


「自分以外の誰かがいるだけで、ここまで神経質になってはいけないと、分かってはいるのだけれど、分かっていてもどうしようもないの。

 出て行かせてとは言わないけれど、安心できるようにして欲しいの。

 少なくとも、ジャグジーと寝室用テントだけは、王子と切り離して欲しいの」


【友子がそこまで言うなら、ススキや材木の端材で、寝室テントやジャグジーを王子様から切り離す塀を作るわ】


「ありがとう、助かるわ」


【急いで作るから、精霊や妖精に手伝ってもらって良い?】


「精霊や妖精が、ススキで塀を作れるの?」


【私たちと同じように、仮の体を与えてあげれば、人間と同じように働けるの】


「あんな素人が作った神棚に、木切れに墨で精霊様妖精様と書いただけの御神体を祀っただけで、そこまでしてもらって良いのかな?」


【精霊や妖精は、お祀りする前から、友子の手助けしていたわ。

 あんなに少ない太陽光パネルで蓄電池に急速充電できるのも、蓄電池の電気がほとんど減らないのも、全部精霊や妖精が手伝ってくれているからよ。

 仮の体を与えてあげたら、嬉々として手伝ってくれるわ」


「……仮の体って……もしかして……」


【友子が思っている通りよ、着ぐるみの寝巻やお面、帽子や手袋や靴は、全部精霊や妖精が中に入って動けるようにするためよ】


「だからあんなに可愛い着ぐるみ寝巻ばかり選んでいたのね!

 ロッテたちが入るのにしては、可愛すぎると思っていたのよ」


【なんだ、仮の体に使うのを予想していたんだ】


「それはそうよ、私が絶対にあんな寝巻を着ないのは知っているでしょう。

 だから、ロッテたちが着るつもりなのだろうとは思っていたの。

 ただ、あんな可愛いのを自分が着るために選ぶ訳がないとも思ったの。

 最終的に、安く仮の体を手に入れるために妥協したのかと思っていたの」


【妥協して使う可能性もあるわよ】


「やっぱり」


【数は力だから、少数精鋭では友子を守れない時があるかもしれないの。

 そんな時の為に、安く数が集められる着ぐるみ寝巻をたくさん買ったの。

 好き嫌いを我慢すれば、甲冑を買うお金で、100着から300着買えるのよね。

 スコップさえ持たせれば、結構戦える兵士になるの】


「そんな事だと思っていたわ。

 精霊や妖精に手伝ってもらうのは良いけれど、洗濯はちゃんとしてよね!

 ロッテたちが使っている甲冑も、臭くなったら近づかさないわよ!」


【分かっているわよ、毎日拭き掃除して、臭くならないようにするわ】


「精霊さん、妖精さん、本当に私の為に塀を作ってくれるのですか?

 無理はしてくださらなくて良いのですよ?

 でも、無理ではなく、私を好きで作ってくださるのなら、とてもうれしいです」


 私がそう言うと、買って来た資材や衣料品を置いてあるテントから、手に鎌や剣鉈を持った着ぐるみ寝巻が、次々とでてきた。


 全員顔の部分にお面をつけている。

 着ぐるみ寝巻には手足の部分がないからだろう、ロングアームカバーとロングソックスの上から軍手と毛糸のソックスをつけている。


 もちろん靴は履いているから、ロングソックスと毛糸のソックスが土に汚れる事はなく、破れて中にいる精霊や妖精が見える事も無い。


 分かっていたし、少しは覚悟していたけれど、いざ実際に精霊や妖精が着ぐるみ寝巻を装備して動き出すと、思わず言葉を失ってしまった。

 茫然自失となって、彼らのする事を黙って見ていた。


 着ぐるみ寝巻を装備しただけの状態なのに、物凄く手際よく、ススキを刈り取っては束にして結び、少し段差をつけて立てにも横にも伸ばしていく。

 

 細く弱く、垂れ下がっている先の部分まで入れて2メートル弱だったススキを、高さ4メートル横幅4メートル、厚み1メートルの塀にしてくれている。


 私が想像していた塀よりも、ずっと高さも厚みもあって、石塀や木塀ほどではないけれど、安心して中にいられる塀ができていく。


「精霊さん、妖精さん、ありがとうございます。

 お陰様で、安心して眠れますし、ジャグジーでくつろぐことができます。

 お礼がしたいのですが、何をさせていただいたら喜んでくださいますか?」


 私がそう言うと、周囲の空間が一斉に優しく光り出した。

 300着もの着ぐるみ寝巻が働いてくれているけれど、着ぐるみ寝巻を装備した精霊や妖精はごくわすかで、もっと多くの精霊や妖精が側にいてくれた。


 こんなにもたくさんの精霊や妖精に守られている。

 そう思ったら、思わず涙があふれて来た。

 心からの感謝を捧げる以外に、本当の感謝は伝えられないと思った。


 そうは言っても、物や行動で感謝を捧げるのも大切だ。

 何もせず、言葉だけの感謝で済ませる気はない。

 ちゃんと精霊や妖精が喜んでくれる物を捧げるし、行動もとる。


 小説を書くのに、参考に読ませてもらった、たくさんのライトノベル。

 私も書いていたけれど、精霊や妖精へのお礼に魔力を捧げていた。


「私の為に働いてくださった精霊や妖精に魔力を捧げます」


 そう言葉にして、自分の魔力を周囲の精霊や妖精に分け与えるイメージをした。

 ほぼ同時に、優しく光り輝いていた精霊や妖精の光に彩がついた。


 赤白黄色、紫に緑に桃に橙、目を刺すような激しい色ではなく、最初からの灯りのように、優しい光のまま彩がついた。


 次々と作られていくススキの塀で、私の寝室テントと露天ジャグジーが、キャンプ地の中にある守られた場所、聖域になっていく。


 王子を助けた事で、気の休まらない場所になってしまったキャンプ地が、少しだけ休める場所になった。


 以前は、私以外の人間が誰もいない場所だったので、東京のセキュリティーの良いマンションよりもくつろげたけれど、まだそこまでは気が許せていない。


 欲を言えば、どこか遠くに安全なキャンプ地を新たに造り、そこに王子を移住させるのが1番なのだけれど、そこまで冷酷にはなれない。


【魔獣よ、北の森から魔獣がやってきたわ!】


「魔獣? 王子だと絶対に勝てないと言っていた魔獣?」


【そう、地球にはいなかった、魔素によって狂暴化した魔獣よ】


「ロッテたちで何とかできるの? 日本に逃げた方が良いの?」


【私たちだけでも何とかできるけれど、レベル上げする絶好の機会よ】


「別にレベル上げなんてしたくないんだけど」


【危険はないけど、友子が気乗りしないのなら無理にとは言わないわ。

 ただ、魔獣が増えると精霊や妖精が襲われ食べられてしまうの】


「そんな事言われたら、魔獣を退治するしかないじゃない」


【そうね、でも、今言わないで、後で精霊や妖精が魔獣に食べられていたと言ったら、友子は怒るんでしょう?】


「当然よ!」


【助けに行くのよね?】


「当然行くわよ、ただ、万全の準備を整えていきたいわ」


【分かっているわ、完全装備をした戦国武将衆を勢揃いさせるわ】


「それは安心できるけど、王子を狙っている人間の方はだいじょうぶ?」


【南側は、精霊と妖精が見張ってくれるし、ドローンでも見張るわ】


「人間に襲われたら、精霊や妖精が殺されるんじゃない?」


【普通の人間は、精霊や妖精を触れられないわ】


「そっか、だったら安心ね」


【レベル上げに行くわよ!】

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