第10話:路地裏での救出劇のはずが……
リーズの悲鳴が聞こえた裏路地に急ぐと、そこには3人のごろつきが気絶したリーズを肩にかついで攫おうとするところだった。
「こいつで王族から身代金をたっぷりふんだくってやれるってことっすね、アニキ」
「へっへっへ、剣聖の嫁がさらわれたとあっちゃあ払わないわけにはいくめえ。しかも今日はセレモニー当日だ。ケチはつけたくないだろうぜ」
「さっすがアニキ! あったまいいぜ!」
全員アイパッチにハゲ頭でもはや見て目では区別がつかない。
顔は違うんだけどな? テンプレごろつきすぎて区別する気にもならないというかね。
「そいつはもうオレの嫁じゃないぞ」
オレはすらりと剣を抜き、のんびりと声をかける。
「ああん? 誰だおめえ」
「げっ!? 剣聖!!?」
「なに!?」
「間違いないっす! 凱旋パレードで見ました! いやあ、魔族を倒すところ、かっこよかったなあ」
「呑気なこと言ってる場合か! 逃げるぞ!」
「でもこいつは嫁じゃないって……」
「バカやろう! 見逃してもらうためのウソに決まってんだろ!」
「さっすがアニキ!」
「へへっ、そう褒めるなよ」
うーん、仲良さそうで何よりなんだが、このままリーズを連れ去られるのは面倒だ。
オレは彼らの方へと無造作に歩いていく。
その距離3メートルほど。
「お、おい! 近づくんじゃねえ! こいつがどうなってもいいのか!」
ごろつきの一人が気絶したままのリーズの首筋にナイフを突きつけた。
――キンッ。
ナイフの切っ先がリーズに触れるより早く、その刃は半ばから斬れ、地面に落ちた。
「は?」
「おいおい安物を使うからだ」
「いやいやだからって急に……ええ……?」
ごろつきは握ったナイフを眺め、困惑顔だ。
「オレが斬ったんだよ」
彼らには見えない速度で剣を振り、真空の刃でナイフを斬ったのだ。
「バカいえ! 一流の剣士は真空の刃を飛ばせるって聞いたことがあるが、それならこの女まで真っ二つだ!」
リーズを傷つけないように射程距離を調整するのはなかなかに難易度が高かったが、相手が止まってくれていたので助かった。
「別に信じなくていいさ」
オレはふらりと一歩を踏み出した――だけのように彼らには見えただろう。
その瞬間、オレはすでに彼らの背後にいた。
ごろつきを一人、剣の柄頭で首筋を殴って気絶させる。
どさり。
その男が倒れる音がしたときには、もう1人もオレの手刀で昏倒した後だった。
意外だったのは、最後の一人はオレの手刀を振り向かずに前に倒れ込みながら避けたことだ。
「おっと……」
オレはリーズが気絶したごろつきの肩から落ちないよう、剣を鞘に収めつつ彼女を抱きとめた。
「くっ……! さすが剣聖! だが女を抱えたままじゃあまともに動けねえだろ!」
ごろつきがショートソードをオレに突き出してきた。
なかなかしっかりした太刀筋だ。
もしかすると騎士崩れかもしれない。
だからと言って、オレに通じるなどと思わないことだ。
オレは迫りくる剣の刃の腹をとんっと手刀で払い、軌道を逸らす。
「ちッ!」
体勢を崩さないのはさすが!
だがオレは一歩踏み込み、ごろつきのアゴに拳を叩き込む。
「ぐっ……」
のけぞるごろつきの手をひねるようにして剣を奪い、仰向けに倒れた男の喉にその剣を突き刺した。
剣は喉を貫通し、石畳の地面に突き刺さる。
まるで墓標のように。
尋問は二人いれば十分だろうし、多少の腕があるとなれば手加減は危険だ。
情などかけず、速やかに殺すにかぎる。
「こっちだ! 全く! 護衛ならちゃんと仕事をしろ!」
全てが片付いたところにやってきたのがガイだ。
軽装鎧で武装した男を2人連れている。
身なりからして、村から連れてきた私兵だろう。
「ラディウス! 貴様が黒幕だったのか!」
あーもう、勘違いも甚だしいんだよなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます