叩いたら出てきた言葉

葛葉理一

ひとつめ 「隣のあの子」

 あのね、ある本で昔、読んだんだ。

 世界には、銃を握る子がいるんだって。

 僕はせいぜいカッターなのに。

 人を傷つけなきゃ生きてけない、

 そんな人もいるんだって。


 あのね、テレビで昨日、聞いたんだ。

 日本には、腹ペコな子がいるんだって。

 僕は残して怒られるのに。

 いつも一人で空腹に耐える、

 そんな人もいるんだって。


 あのね、教室で今、知ったんだ。

 隣の席の子は、大学に行けないんだって。

 お前は頭が悪いから、

 上に兄姉がいるから、

 って親に言われたんだって。

 

 僕はびっくりした。

 僕の親は、行きたいなら行きなさい、

 やりたいならやりなさいって言うだろう。

 僕は当たり前に大学に行こうとしていたのに。

 親に進路を阻まれる、

 そんな人もいるんだって。

 

 僕は知らなかった。

 僕は恵まれている。

 脅かされることなく『僕』として生きている。


 あと、どれだけあるんだろう。

 僕が気づいていないことが。

 どれだけ世界に溢れているんだろう。

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