第2話 入れ替わりの朝

鳥の声が響く。


宗介は、線路の冷たさを背中に感じながら目を開けた。


そこは──無人駅のホーム。

昨夜の闇も電車も消えて、朝の光が差し込んでいる。


「……戻ってきた、のか?」


体を起こす。痛みはない。けれど、違和感があった。

視界が低い。髪が……長い?


「……え、髪……長っ……?」

手に触れた黒髪を見つめ、宗介の顔が引きつる。

「ちょ、これ……蓮の髪じゃん!?」


声を出した瞬間、さらにパニック。

高い。細い。軽い。

「うわっ!? まじかよ!? 俺、蓮になってるっ!?」


ホームにこだまする悲鳴。


その横で、てんがむくりと起き上がる。

自分の腕を眺め、眉を上げた。


「……ん? なんか背が高い?」

ぴょん、と飛び跳ねて笑う。

「わぁ! 見える景色が違う! しかも腕、筋肉ついてるっ!」


「おいそれ俺の体だって!」

宗介(蓮体)が慌てて叫ぶ。


そして、蓮(てん体)が静かに立ち上がる。

冷静な口調で淡々と呟いた。


「……魂の位置が入れ替わった。

たぶん、てんちゃんの術が発動した瞬間に、電車の呪いも同時に動いたんだ。

その発動のズレで、魂が行き場を見失った。

一瞬だけ空間が反転して、そのまま別の器に戻ったんだと思う」


宗介が呆然と口を開ける。

「て、てんが……賢くなってる……」


てん(宗介体)は胸を張る。

「えへへっ、ぼく天才だからねっ」


「あれはてんじゃなくて、中身は蓮だからな!」


しばらくドタバタしたのち、三人はようやく息を整えた。

線路の上には電車の影もない。

風が吹くたび、夏草がざわめく。


「……で、これ……なんでこうなったんだ?」と

宗介(蓮体)が呟く。


蓮(てん体)が肩をすくめて苦笑する。

「完全に事故だね。てんちゃんの解除がもう少し早ければ、僕たちは普通に戻ってた。でも、あの一瞬のタイミングで、呪いの流れとぶつかった」


 てん(宗介体)はうーんと唸りながら、少し誇らしげに言った。

「でもさっ、助かったんだよね! ぼくが解除しなかったら三人とも消えてたかも!」


宗介(蓮体)は苦笑しながら頷く。

「……まぁ、それは間違いねぇな。助かったのは確かだ」


静けさが訪れた。

風が吹き抜けるホーム。

遠くで踏切の音が一度だけ鳴った。


「……けどさ」

宗介が呟く。

「電車、結局なんだったんだ?」


蓮が静かに目を細める。

「無人駅の電車に乗ると、帰れなくなる……って噂。多分、まだ終わってないよ」


空気が少しだけ冷たくなった。

てん(宗介体)が不安そうに辺りを見回す。

朝の光は確かに差しているのに、どこか世界が静かすぎた。


――奇妙な朝が、始まった。

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