第二話 部活動

今日もまた学校に行く。

いつも朝礼の十分前には席に着く。

朝礼が始まるまで英単語帳に目をやる。

朝の学習はなんでかスッと頭に入る。

ふと思う。

なんだろう、何か忘れている気がする。

さほど重要なことでもないだろうと思って、

再び意識を英単語帳に向ける。

しばらくするとチャイムが鳴って、

朝礼を済ませる。


一限目から移動教室だ。

席から立って、歩き始める。

廊下で男子が話しているのが聞こえる。


「今日から部活動見学か。」


「どこ見に行く?」


一年生の子たちか。

今日から部活動見学か。

と思うのと同時に、

忘れていたことを思い出す。

今日は部活動紹介の日だ。

美術部の部員は私一人だけだから、

当然私が紹介をすることになる。

原稿に何一つ手を付けていなかった。

今日の午後から各部の発表が始まる。

それまでに仕上げなくては。


午前中の授業でこっそり進め、

昼休みにようやく原稿が仕上がる。

読み返すと、定型文を並べただけというような、

何とも言えない内容だったことはここだけの話だ。


体育館に行き、ステージ横に待機する。

しばらく経って、新入生がぞろぞろとやってくる。

前半は運動部、後半が文化部という進行だ。


ようやく始まった。運動部の紹介は、

派手なパフォーマンスが多く、

すごい盛り上がりを見せた。

この学校は、運動部が強いほうなので、

素人の私が見てもうまいと感じるぐらい

どの運動部もうまかった。

私も感心して見ているとあっという間に前半が終わる。

文化部の紹介は美術部から始まる。

新入生が皆、運動部の紹介が終わって、

楽しみなあまり、周りと喋っている中、

私はマイクと原稿を持ってステージの前に立つ。


「こんにちは。美術部です。」


私が話すと同時に静かになる。


「美術部は現在、私一人で活動しています。

 少しでも興味がある方や、絵が描くことが好きな方は、

 ぜひ美術室に立ち寄ってみてください。

 たくさんの入部をお待ちしています。」


そう言って、絵を見せることもなく一礼する。

新入生の拍手が終わるとまた静かな状態に戻る。

私は何もしていないはずなのに、

なぜか罪悪感に覆われる。

穴があったら入りたい。って言葉は、

こういう時に使うんだなあ。なんて、

自分でもよくわからないことを考えながら

ステージ横へと移動する。

例年、新入生の大半が運動部へ入部する。

美術部の見学は昨年度は、私一人だけだった。

卒業した美術部の先輩も、


「この学校の、美術部の部活動見学は、

 だいたい一人来るか来ないかぐらいだよ。」


と言っていたから、例年そのぐらいなのだろう。

そう思っていたから、部活動紹介や歓迎に力を入れよう

なんてことは考えていなかった。

今年はあの反応だと、

誰も美術部の見学には来ないだろう。

そうしてすべての部の紹介が終わる。


今日はどこから色を塗りはじめようか、

そんなことを考えながら、

鍵を取りに行って美術室に向かう。






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