異世界インバウンドパトロール〜観光客がご迷惑をおかけしています〜

開拓

第1話 アルティ王国の悲劇 1話

荘厳な魔王城の大広間で、バーベキューをしてるパリピがいる。


コースターにされた魔導書、トングにされる魔法の杖。


舞い上がる煙で視界は悪く、パリピ達の奇声で室内は満ちていた。


本来なら勇者と戦うはずの魔王の部下たちが「あの、ここ室内なので……あの杖にタレが……やめて」困惑している。


「寝室に小さな子もおりますので、もう少しお声控えていただいて……ゴホッ」と煙にむせている者もいた。


「こちらブーロンの丸焼きです……」と謎のお肉を切り分ける魔王様。


パリピ集団はわきあいあい、


「ブーロンてなんよ?タカヒロくん?」

「知らね。豚の仲間じゃね?」

「タカヒロマジ物知りじゃん」

「ヤバいべ、来てよかったべ」


とても楽しそう。


「見てください幸道ゆきみちくん!パリピ、魔王こき使ってます!」


「世界観とか考えろよパリピ。美春みはる、あいつら放置で帰ろう」


「ダメですよ!アルティ王国の秩序が」


「アルティ王国さんには悪いけど、あのおバカ達は俺らの国でも持て余す」


屈強な身体をおりまげ、「すいません、気が利かなくて……」と魔王様。


忙しなく食材を運ぶ幹部らしき魔物達。


パリピのリーダー的な男が、「おつじゃね?」と幹部に酒を注がせている。


ばえる〜、とパリピギャルがカメラのフラッシュをたくたび、魔王の部下は「なんだこの光は」と腰を抜かしていた。


「幸道殿……なんですかこの様は」


剣を構えたこの世界の勇者様クロウドさんが、刃の行方を失って立ち尽くしていた。


「よし。いっそ切ってやりましょう」


「幸道殿?誰をですか」


「え、パリピを」


「そ、そんな!国際問題です!異世界からのお客様を傷つけるなど」


正義を守るものとしてそんなことは出来ません!と勇者様は立派に語る。


「いやもうね、異世界から来た俺らも困ってるわけですわ」


「存じております。異世界パトロール?でしたか」


「はい。ああいう輩は害獣駆除的な感じでザックリいっちゃったほうがいいんです」


事故で片付けるので、と言う俺に、「マジかよヤベェな異世界人」という畏怖を感じた目で応える勇者様。


まあ、どうせ異世界人のあいつらは『この世界』では死なないし、と思う。


パリピタカヒロの叫び声が響く。


「異世界サイコー!」


何とかしてください幸道殿!と勇者様が焦る。


あいつら自由すぎですー、とオロオロする美春。


旅行者の秩序の乱れは想定以上だなぁ、と呆れ返る俺。


パリピの宴はまだ続く。


こんな光景が、各異世界で広がっている。


由々しき事態だ。


『うつるんですくん』という異世界転移機能付き旅行キットが流行したせいで、安易な異世界旅行が可能となった。


手のひらサイズの球体型デバイスで任意の世界へ飛べてしまう。


ルールでがんじがらめの現実旅行に飽きた人類が、異世界旅行を始めたまではまあ良かった。


行儀良く旅行してくれてれば良かった。


ガシャん!と大きな音をたて肉皿が床に落ちる。


「異世界人め!もう許せん。覚悟!」


魔王軍幹部らしき長身のメガネがパリピリーダーに拳を振り下ろす。


「ちょ、なんすか」


パリピリーダータカヒロがそれを払いのけると、長身メガネは吹き飛ばされた。


壁に垂直に突き刺さる長身メガネ。


震え上がる魔王軍。


「急にヤバくね?ウケんだけど」


とパリピリーダータカヒロが笑うと、それにならって爆笑する仲間たち。


「タカヒロくん半端ねぇー」

「物知りなうえにめちゃ強とか」

「こいつらが貧弱なだけっしょ!つか踊るべ!」

「タカヒロくんパねぇ!」


奇怪な踊りを繰り出すパリピタカヒロに、魔王様は、「新技か!皆のもの!警戒!」と臨戦態勢である。


「幸道殿……」


「クロウドさん。あれが『うつるんですくん』の力です。申し訳ない」


「あの奇怪な踊りが発動陣ですかな?」


「違います。あれは、その……パリピの発作みたいなもので」


なんと恐ろしい力か……と勇者クロウドがおののいている。


美春がクロウドに改めて説明する。


「転生旅行者は転生先の『最強』能力をトレースできるんです。『うつるんですくん』は場所の移動だけじゃなく、能力の移動までできちゃうんですよ」


『うつるんですくん』は異世界に移動するたび、各世界を支配できるほどの力を与えてしまう。


「しかも、〝バカ〟と〝アホ〟ほど強くなる傾向があるんですよ、クロウドさん」


「幸道殿、それはどういう?」


「バカな旅行者は何も考えてないので、力の使い方がわかってません。というか、なんかみんな従ってくれるな、最高だな、くらいの感覚で旅行してます」


あんな感じで、とバーベキューパリピを指差す。


「力の使い方を知らぬ阿呆ですか……」


「ヤバいでしょ?だから害獣駆除」


ですが、と剣を持つ手が震えているクロウド。


「魔王に次ぐ力を持つフィーリウスがあのような……」


フィーリウスさんは壁に突き刺ささったままぴくりとも動かない。


「あれ、クロウドさんの力だからね」

と美春が言う。


「私の力?」


「そう。だってここで一番強いのクロウドさんでしょ?」


「私が、あれを……」


まるで自分が手を汚したかのように顔を歪めるクロウドさん。正義の人って感じ。


諭すように俺は、

「いいですか、クロウドさん。『うつるんですくん』がある限り、あのパリピはダメージを受けません。あなた方の力は奴らに無効化されてしまいます」

と告げた。


「なんと……それでは無敵ではありませんか、幸道殿」


「そうなんです。だから僕ら『異世界治安維持局』があなた方の国と協力し、この状態を打破しに来たわけです」


魔王様が立派なツノをパリピタカヒロに捕まれて「勘弁して」と泣いている。


魔王様を放せ!と部下たちがパリピ集団に立ち向かうが、『うつるんですくん』を持った奴らには敵わない。


「幸道くん、『うつるんですくん』が『能力移送』完了したみたいです」

と美春が言う。


「了解。じゃあ展開して」


「……ほんとにいいんですか?」

と美春。


「テンションあげあげパリピを説得できると思うか美春」


う、ぇーーーい!と謎のダンスを踊るパリピたち。


その不可測な動きに魔王軍は「……殺される」といった絶望感満載の顔をしている。


「話は……無理かもです」


「だろ?」


「でも、おっきい武器持ってきたらまたお姉ちゃんに怒られます」


「大丈夫だ。俺が許可する」


「知りませんからね」


美春の手のひらに乗った『うつるんですくん』が眩い光を放つ。


「眩き光……幸道殿、なんですかそれは」


「移動できるのは身体だけじゃなく能力もです」


「それは先ほど聞きましたが……」


「別の異世界から、能力をお借りすることもできます」


美春がうつるんですくん展開!と叫ぶ。


手のひらサイズだった美春のうつるんですくんが、大型のレールガンに変化した。


「なんと面妖な……」


アルティ王国には存在しない技術に腰を抜かすクロウドさん。


「よし。ぶちかませ美春」


「了解っ」


レールガンが轟音とともに発射された。


ぶち抜かれる魔王城と魔王たち。


パリピたちは、「え?眩しっ」と笑っている。


「あ。ヤバいかも」


「どうした美春?」


焼き払われる魔王城。

魔王軍は逃げ回り、パリピたちは「痛ぁ、なんなんこれ」とオロオロしている。


「痛いって言ってるぞあいつら」


「なんかですね、このレールガン出力ヤバくて」


「どこから持ってきた」


「魔導破壊都市アルカディア」


魔王城は消し炭になっていく。


命かながら逃げ出した魔王様が、「悪魔の所業……」と涙を流す。


魔王の部下たちは、各々子どもらしきものの名前を呼んで泣き崩れていた。


「アルカディアってあれか、魔法無効化の武器作ってる都市」


「そうなんです。隣の幻想都市クラウディアのほうが良かったですかね?あそこなら魔法といい勝負って感じだし……」


「アルティ王国の魔法レベル低めだからなぁ。パリピたちもちょっとケガしちゃうかぁ」


やっちまったなぁ、と腕を組む俺たちを見てクロウドさんが、


「なぜ……」


「どうしましたクロウドさん?」


クロウドさんが立ち上がり、叫ぶ。


「なぜあなた方はそんなに冷静なのですか!」

と剣を構えるクロウドさん。


「異世界人、悪魔だ……」

どうしよう。


別に俺たちはあの剣で傷つかないし、あとで俺たちの上司が『時を戻して』状態回復してくれるんですよ、とどう説明したらいいのか。


「異世界悪魔め!この剣を受けよ!」


と剣を振り下ろすクロウドさん。


異世界とのコミュニケーションはとても難しく、秩序は全然守れていない。

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