僕の彼女はいつからシフト制に?~最愛の彼女と絶縁されていた幼馴染みが入れ替わった~
行木カナデ
第1章 プロローグ 入れ替わりの始まり
第1話 プロローグ
-男は女に変わらないことを望み、女は男に変わることを望む―
かの偉大な物理学者アインシュタインはそう言っていたそうだ。
アインシュタインも大学の同級生と結婚したけど、従兄弟でもある愛人もいて三角関係に苦しむなど、女性関係では苦労したらしい。
最終的には、ノーベル賞の賞金を離婚の慰謝料にしたとも聞いている。
この点は似たような三角関係で苦労をしている僕にとって少し親近感が持てる。僕の場合はもっと特殊なんだけど・・・。
僕の相手は、幼馴染みと大学の同級生。だけど、その両方の愛に応えても、誰に咎められる心配もない。
他の人から見たら、僕の境遇は夢のように思えるかもしれない。
だけど現実はそんなに甘美なものじゃない。
一方と楽しい時間を過ごす時は、いつももう一方に対する罪悪感に苦しむことになる。
そもそも僕は、恋人を二人も欲しいわけじゃない。一人だけをずっと愛したい。
それなのに・・・なんで勝手に僕の恋人の座を交替制にしてるんだ!?
――
クリスマスイブの夜、僕は駅に設けられた小ぶりなイルミネーションの前で恋人の冬香を待っていた。
冬香と付き合い始めてから最初のクリスマス、ずっと前から予約していた肉料理が評判のイタリアンバルと、吟味を重ねたプレゼントに、愛しい冬香が目を丸くして喜ぶ姿が今から目に浮かび、期待で胸が膨らむ。
だけど一つだけ不安がある。
まさか今日に限ってあいつが来たりはしないだろうか・・・。
その時、駅の改札の方から、小さく手を振りながら冬香が小走りにやってくる様子が見えた。
丸顔に黒く長い髪。
白色のダウンコートにピンク色のロングスカート。
遠目には走っているように見えるけど、実際は普通の人が歩くよりも遅い移動速度。
そんなおっとりしたところが冬香らしくて微笑ましい。
僕は安堵して胸を撫でおろした。
今日はちゃんと冬香が来てくれたみたいだ・・・。
「ごめん。お待たせしちゃった・・・。」
「ううん、今来たとこ。じゃあ行こっか。肉料理がおいしいイタリアンバルの店を予約してるから。」
「うん。」
目を細め、優しく微笑みながら両手で小さくガッツポーズする姿もかわいい。その姿に思わず僕の頬も緩む。
自然な感じで手を繋ぎ、冬香のゆっくりとした歩調に合わせながらお店に向かう。手からじんわり幸せが伝わってくる気がする・・・。
◇
「お料理おいしいね・・・。」
「気に入ってもらえてよかった。次はお待ちかねの肉料理みたいだよ。」
目を細めて優しく笑いながら、いつものゆっくりした口調で控えめにしゃべる冬香を見ていると、愛おしくてたまらなくなる。
こんな素敵な人に出会えて、しかも恋人になることができたなんて僕は何て幸せ者なんだろう。
不意に胸にこみあげてきた想いを素直に言葉にして伝えたい。
「冬香・・・今年の4月に大学のクラスで冬香に出会えて、それから仲良くなって、付き合うことができて、本当に僕は幸せだと思う。僕と一緒にいてくれてありがとう。冬香、大好き。愛してる。これからも一緒にいてください。」
「ありがとう・・・フフッ・・・。」
冬香の口元がほころび、微笑みが漏れた。喜んでくれてる。
嬉しい。僕も思わず頬が緩んでしまう。
「・・・・ハハッ、アハハッ!!何言ってんのよ!!栄斗のくせに!!」
しかし冬香は吹き出し、歯を見せて笑い、それから・・・膝を叩いて爆笑し始めた。
「えっ・・・?」
冬香の突然の豹変に驚き、言葉に詰まる。もしかして・・・。
「ハハッ!残念でした~。実は夏奈で~す!『僕は幸せ者だ。大好き。愛してる』って?ハハハッ!!なにそのくさいセリフ、めっちゃ笑えるんだけど~!!」
完全に腹を抱えて笑う、冬香こと夏奈に怒りを覚え、血の気が引いてきた。
「ちょっと!!今日はクリスマスイブだから絶対に入れ替わらないでってお願いしてたじゃん。なんで夏奈が出てくるの?ほんとに最悪なんだけど・・・。」
「そんな勝手なこと言われても困るって。バイトのシフトじゃないんだよ。私もいつ入れ替わるかわかんないし~。今日は愛しの夏奈とのデートってことで嬉しいでしょ?わ~っ、肉の盛り合わせ来た~!!おいしそ~!!役得だな~!!」
「それ冬香に食べてもらいたかったんだだけどな・・・。」
「しょうがないじゃん。この料理は夏奈がおいしくいただいて、冬香さんの巨乳の一部になるってことで・・・。」
夏奈はケケケッと笑いながら、スペアリブに豪快にかぶりついている。
冬香と夏奈は双子なわけではない。外見もまったく似ていない。
しかし、どういうわけか、数か月前から、冬香の外見そのままに、中身だけが、たびたび幼馴染みである夏奈に入れ替わるようになった。
しかも最近では開き直った夏奈が悪ノリして、今日みたいに入れ替わりを隠して冬香のフリをするようになったからタチが悪い・・・。
頭を抱える僕を尻目に、冬香の見た目をした夏奈は、「うまいな、これ~」とか言いながらスペアリブをむしゃむしゃむさぼっている。
百歩譲って入れ替わるのはやむを得ないとしても、よりによって何で夏奈と・・・。
クリスマスイブ、この聖なる日に、僕はまだ見ぬ神に疑問をぶつけるしかなかった。
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