第7話 剣の代わりの杖2

 会場全体がグネビアとランスロの姿に魅せられていることに、王女マギーは大変怒っていた。




「なんですか、あの平民の小娘。王女きどりですか、王女は私です。ランスロがどんなに強くても、杖一つで剣に勝てるわけはありませんわ。お父様、さっさと試合を始めましょう。」




 国王が言った。




「マギーよ。たかが杖だが剣に勝つこともあるよ。私もなぜだかわからないが、あの少女は杖にとても強い思いを込めているような気がする。その杖を振るうランスロは、きっと無敵だろう。」




「そんなことより、お父様、早くしてください。」




「わかった、わかった。奏者よ、直ちに第1試合の開催を告げよ。」








 御前試合が進行し、ランスロの最初の試合になった。最初の相手は士官学校の上級生だった。学校で行う剣技の試合ではランスロに負け続け、今回は汚名をそそいでやろうとリベンジの心が強かった。




 お互いが構え、にらみ合った時に上級生は思った。




(鋼で作られている剣を木の杖で受け止めることなどできないだろう。一撃が当たり杖を砕いてしまえばおれの勝ちだ。)




 それから上級生は、ランスロに真っ向、左右と剣を連続して打ち込んできた。ところが、ランスロはそれらを全てきれいにかわし、かすりもしなかった。ランスロは感じていた。




(遅い。剣が振られる方向が完全に予想できる。)




 上級生が全力で行った打ち込みが全て空振りに終わった後、へとへとでもう動けなくなった。それを見て、ランスロは上級生を杖で一撃した。




 甲冑を着ているとはいえ、力を集中させたその一撃は上級生の急所に当り、そのまま気を失った。




「それまで、ランスロの勝利。」




 審判がランスロの勝利を告げると、会場中から大きな歓声がわいた。




 国王が隣の公爵に聞いた。




「通常、相手が剣を何回も振れば、体をかわせないタイミングの一撃が必ずあり、その時は自分の剣で受け止めざるを得ない。ランスロは杖で受け止めなければいけない瞬間を作らせなかった。魔法を使っているのか。」




 公爵は答えた。




「国王様。ランスロは魔法など使っておりません。あの子は毎日厳しい体さばきの練習を繰り返し、相手の動きを読み取る超人的な感覚を習得したのです。ただ、最後の杖の一撃は…。」




「最後の杖の一撃がおかしいのか。」




「はい、いかにランスロが力を集中させ急所を狙ったとはいえ、甲冑を着ている相手を、杖の一撃だけで気を失わせることができるのか。甲冑は剣の打撃さえ吸収することができるのです。魔法のような気がします。」








 ランスロの次の相手は、親友のゴルバだった。ゴルバの剣はランスロの次に強いと言われ、やがてはランスロとともに国を支えていく騎士になると強い期待を背負っていた。観覧席から見ていたグネビアは、かって終わった未来で、ゴルバのことをよく知っていた。




「ランスロと、とても仲が良いゴルバとの試合。杖しか持たないランスロに、卑怯なことが大嫌いなゴルバはどうするのでしょうか。」




 試合前にゴルバと向かいあった時、ランスロが言った。




「ゴルバ、聞いてくれ。いつものように私に剣を振るったとしても、きみは卑怯でもなんでもない。私は臣民のために、この杖できみに勝とうと思うし、勝てることを確信している。」




「ランスロ。そうか、君がそう言うなら間違いないな。私はこの剣を、力一杯振るわせてもらうぞ。」




 ゴルバの鋭い剣戟がランスロを襲った。いかに超人的な感覚をもっていたとしても、今度は体さばきだけでかわすことはできなかった。




 ランスロはゴルバの剣を杖で受けた。正確に言うと、杖を当てて剣の動きをそらしていた。杖を当てるだけでも杖が砕けしまう可能性もあったが、ランスロは全く心配していなかった。




(この杖は特別な力をまとっている。決して砕けたりしない。)




 試合は長時間続き、お互いが力を出し尽くした後、ゴルバが全力で最後の一撃を放った。剣を振る軌道が見事にランスロの体の中心線にそって正確で、杖を当ててそらすことはできなかった。




 ランスロは決意して体の真正面に杖を降り、そこで杖がゴルバの剣とまともにぶつかった。誰もが杖が砕け、ランスロが吹き飛ばされると思った。








 その瞬間、観覧席のグネビアは祈った。




「お願い、ランスロを守って。」








 大きな衝撃音が会場中に鳴り響いた。はるか遠くに吹き飛ばされたのはゴルバだった。衝撃で剣ははるか遠くに飛ばされていた。




 立ち上がって、ゴルバが笑いながら言った。


 負けを素直に認めた気持ちの良い顔だった。




「さすが、未来のナイト・グランドクロスだ。とてもかなわない。」




「それまで。ランスロの勝利。」




 会場の空気が壊れそうほど巨大な歓声が沸いた。




「国王が公爵の方を見て、また質問した。」




「今の結果をどう思う。」




「魔法と言ってもいいかもしれません。ただ国王、魔法も奇跡も結局は人間が起こすものです。」




「あの少女か。」




 国王と公爵の2人は、観覧席のグネビアの方を見た。








 ランスロは決勝戦に進出した。決勝戦の前には休憩時間がとられていた。




 王女グネビアは宮殿に戻り、庭園で幻惑の魔物の蝶に文句を言っていた。




「これでは、ランスロが優勝してしまうじゃない。どうするの。」




 蝶が言った。




「王女様。心配なさらなくても大丈夫です。ランスロは決勝で絶対勝てません。」




「決勝の相手は、どうせ、どこかの貴族の若者でしょう。年齢に関係なく、この国ではランスロに勝てる剣士はもういないわ。とても悔しいけど。」




「王女様。ランスロは既に、この国どころか全世界で最強の剣士でしょう。」




「なに言ってるの。それでは終わっちゃうじゃない。」




「終わりませんよ。人間で最強ですから。人間を捨てた魔界の者であれば勝てるのです。」

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