セキュリティ担当 江守の事件簿
雨後乃筍
出口のないネットワーク
第1話 それは1本のクレームから始まった
「取引先からクレームが入っているんだよ」
人事担当者はそんな言葉を漏らしていた。時間はすでに17時を過ぎている。いつも不思議に思う。なぜややこしい話に限って終業間際に言ってくるのだろうと。
東移システムは、企業をクライアントとしてITサービスを提供している。
IT業界ということもあり、人の出入りは多い方で中途入社も積極的に取っている。今回は、取引先企業から、新規の企業から営業コンタクトがあり、しかも内情が分かった上での売り込みをかけられているらしい。
内部調査によると、クレームのあった取引先の業務を請け負っていたのは、システム第一事業部、通称シス1。
シス1は、ユーザー数500人以上のクライアントを中心に、ヘルプデスクサービス、デスクトップサポートを提供している。当然ながらIT周りの内情に通じている。
当社の顧客リストを使って営業をしているのであれば問題だ。人事担当者は、元従業員にコンタクトを取ることを予定しているが、その前提情報として、該当者の絞り込み、またどれくらいの情報に影響があったかを確認してほしい、と言うことだった。
人事担当者が持ってきた、過去90日でシス1から辞めた人間は3人いた。
当社では、名刺はすべて名刺管理システムに登録し、紛失漏えい防止のため、登録後の名刺はシュレッダー破棄するルールとなっている。これは属人的になりがりなクライアントの管理をチームで共有することを意図している。
過去、多くの退職者が悪意なく名刺を持ち出していた。本来名刺は、企業間とのやり取りを目的として交換するもので、1個人とのやり取りを想定していない。もちろん、プライベートで自分の名刺を渡すケースもあるだろうが、厳密には「会社の資産」の「私的利用」になるため、行ってはいけない。
ところが、業務中に交換した名刺を個人の所有物と思い込み転職後に「転職の挨拶」を送ってトラブルになってしまうことがある。「個人」と「企業」の区別が付いていない公私混同の例だろう。
(ログだけで区別がつくだろうか)
名刺管理システムは同一部署内であれば、原則全員アクセス可能だ。過去90日となると、かなり膨大な量になるだろう。
(今日中には無理だろうな)
江守はログシステムのコンソールを開き、いくつかのクエリーをセットした。明日の朝までにはエクスポートが終わっているだろう。
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