第30話

学祭のステージには多くの観客が集まっていた。


ミミさんのバンドもだが、俺たちのバンドも高槻フェスでかなり有名になってしまった。

まあ、そうは言っても市のイベントだったため、ほとんどのファンは市内の方々だ。

しかし、ネットの再生数が伸びたことにより、いろいろな人たちに聞いてもらえるようになったのも確かだ。


学祭ライブのお客さんは主に学生、あとは父兄の方が多い。

その他といえば、学生の友達たちだろうか。

しかし今回、高槻フェスで盛り上がったバンドが出るというウワサが広がり、

みんな他校の友達からチケットをもらえるように頼まれたと聞いた。



俺たちの前は全員1年生のガールズバンドだった。

やっぱり今はガールズバンドが流行っているのだろうか。


というか、全員もれなく可愛い。なんなんだ、この学校かわいい子多すぎじゃないか?

ミミさんといい、むしろ逆にかわいいからこそ、バンドをやっているのだろうか?


そんなことを考えていたのだが、観客席はかなり盛り上がっている。

そりゃあこんなにかわいい子がバンドしてたら盛り上がるよなーと思いながら、ふと俺は気づいてしまった。



俺のバンドって俺以外女の子だよな?しかもみんな可愛いよな。俺いらない子なんじゃ……。

いやいや、そんなことは。こんなに安定感のあるベースなかなかいませんよ、ははは。

……あ、だめだ、ちょっと悲しくなってきた。


そろそろ俺たちの番かな、準備でもしておくか。と思い、みんなの元に戻る。


「結構盛り上がってるなー、いい感じで客席もあったまってるみたい」

すると、みんながじとーっと俺のことを見ていた。


え、なに?と思っていると。

灯火と未来と天音が口をそろえて俺に……、


「エロガキ」「ヘンタイ」「け、けだものっ!」


……なんか天音のが一番やだ。てか、言わされてない?



そうこうしていると俺たちの番だ、前のバンドの子にお疲れ様っ!と声をかけ、ステージにあがる。


曲が始まりドラムが激しく叩き出す、と同時に前面にでて激しいスラップを聞かせてやった。

HYT時代の曲だが、数少ない俺が目立てる曲だ。


どうだ、このバンドはかわいい女の子だけじゃないんだぜ、ニヤリ。

と、思ったのだが、そのあと未来が歌いだすと、客席からひと際大きな歓声が上がる。

……いや、俺もボーカルやってんのよ、このあと歌うんだよ。え、俺、泣いていいか?


「どうもー!Heavenly Lightでーす!」

「高槻フェスで知ってくれた方々も多いかと思います!」

「知らない人は、ここでファンになっていってくださーい!」


未来がMCで話し出す。未来もボーカルとしてどんどん成長してるんだなーと感慨深く思ってしまった。

これが未来の生来の性格なのかわからないが、全く緊張している様子がない。

これは灯火もなのだが、緊張するのは俺と天音、……天音、頑張ろう。


観客席の後ろに父さんと日和さんの姿が見えた。


そして、その隣で……神宮寺さんが俺たちの様子を静かに見ていた。



そのあとも曲は続く。

まあ、学祭なので1バンド3~4曲ほどだ。

対バンでやるときと同じか少し少ないくらい。


観客の反応もいい感じだ。灯火はいつも通り安定してる、未来の声も絶好調、さらには天音のギターが凄くなってる。


そして、あっという間にライブは終わる。


「ありがとうございました!次もまだまだ続くから盛り上がっていってねー!」


未来がそう言いながらステージを降りていく。

次のバンドはミミさんのバンドだ。


俺はミミさんと無言のハイタッチを交わす。かなり気合いがはいってそうな感じだ。

ミミさんのバンドも高槻フェスには出ていた、多分俺たちと同様、いやそれ以上に人気が出ているのかもしれない。



「盛り上がってくぞー!」


ステージからそんな声が聞こえてきた。

俺はステージ横の休憩スペースでミミさんのバンドを見ていた。


やっぱりミミさんのギターはうまい、もちろん天音も抜群にうまいのだが、ミミさんのギターには迫力というか勢いがある。


それに盛り上げ方がうまい。ちゃんと観客を意識しているのだろう。

さらにいうとかわいい。……うん、だって、かわいいし。


俺たちも負けてられないな、と心に誓うのであった。

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