第2幕 一握りの勇気をボーカリストに

第11話

新学期、俺は高校2年生になった。

新入生も入ってきて、学校は活気にあふれとても賑やかになっていた。


そういえば俺は新たにバイトを始めた、駅前にある居酒屋「栞や」が俺のバイト先だ。

初めてのバイトでうまくいかないことだらけだが、働くということは思っていたよりも楽しい。

優しい先輩も多く、怒られることもあるが、俺は徐々に仕事に慣れていった。


部活紹介や勧誘が行われる中、うちの学校には軽音部はないため特にすることはなく、

みんな頑張っているなーと他人事のように眺めていた。


昨年度末のライブで、日和さんがバンドを抜けたため、

ライブの予定も立てることができず、一人でギターとベースを触りながら新曲でも作ろうかと思い、

出来たばかりの新曲をネットにアップするが、結果はむなしく再生回数はやはり伸びなかった。


――

ライブができないまま時は過ぎ去り。

すでに季節は6月にも差し掛かり、気温もやや暑さを感じるようになってきた。


「今年の中庭ライブは見送りだなー」


幼馴染兼腐れ縁の三澄灯火に向かって問いかける。

「去年もでてないじゃない」


「まあ、なによりギターがいないとどうにもならんよなー」


それはそうだ、去年のメンバーといえばギターは日和さんだ、学校のイベントに出ることはできない。


俺の高校では文化祭に加えて、毎年7月の夏休み前に中庭ライブというものが存在する。

ダンス部や吹奏楽部の大会が夏休みに行われるため、その前の練習の一環という名目で行われるのだ。


高校の校舎は大きく四角形になっており、その真ん中に中庭がある。

その中庭をステージにして、ダンス部や吹奏楽部が発表を行うのだ。

生徒たちはステージ前で見るもよし、校舎の各階からでも見ることができる。


うちの学校は特にダンス部と吹奏楽部に力をいれており、メインはダンス部、吹奏楽部にはなるのだが、

有志での参加も認められており、その場合オーディションを通ったもののみが発表の場を得る。


今までライブハウスばかりで、学校でライブをするという経験のない俺は、

ライブやりたいよなーと思いながら、この話は終了となるのであった。



――

今日はいつものライブハウスにお客として参加する。

灯火と二人、チケットを渡して中に入る。


「へー、結構お客さんはいってるね」


灯火がいうように、いつもよりもお客は多いようだった。


「何か人気のバンドでも出てるのかな?」


ドリンクチケットで、黒い炭酸水コーラを受け取り飲みながらライブの開始を待つ。

すると照明が落ち、ステージの始まりを告げた。


まずはドラムがリズミカルにたたき出す、そのあとベースが加わり、最後にギターとボーカルも入ってきた。


「どうもー!シルフィード・ダンスでーす、今日も盛り上がっていくぞー!」


四人組のガールズバンドだ。

このバンドが目当てだったのだろう、客席が一気に沸く。


衣装にもこだわっているようで、みんなややきわどい服装をしている。

若干、目のやり場に困るところだが、下品な感じではない。むしろ、うん、可愛い。


人気があるだけあって演奏もうまい、さらに盛り上げ方がうまい。

この盛り上げ方は勉強しておいたほうがいいかもしれない。


と、隣の灯火が声をかけてきた。


「ねぇ、このギターかなりうまいね」


確かにそれは俺も思っていた、周りが下手なわけではないがギターの上手さがひと際目立っている。

しかもめちゃくちゃにかわいい、大学生とかだろうか。これが人気の要因なのだろう。

そんなことを考えていると、隣の灯火に足を蹴られた。


「お前は俺のこころが読めるのかよ」


ふんっ!とそっぽをむく灯火、まあ本気で怒ったりしているわけではない。

ライブに集中しよう、ステージに目を向ける。



「わぁーーー!きゃーーー!」


そうしてステージが終わる。

――


「ねぇねぇ、君たちHYTの子だよね!」「わたしはミミ!よろしくねっ!」


片付けも終わり他のバンドを見に来たのだろう。

さきほどステージにいたギターの人がいきなり話しかけてきた。


「そ、そうですけど、俺らのこと知っているんですか?」


「3月にライブしてたでしょう?あの時たまたま見にきてたんだよねー!」


どうやら日和さん卒業ライブを見に来てくれていたようだ。

それはともかくこの人距離が近い、可愛い上にいい匂いがするのでやばい。

灯火がさっきからこっちをにらんでいる。お、おれのせいじゃない。


「君の曲かっこいいよね、ノリもいいし、なんか味があるというか惹きつけられるというか」


褒めて?くれてるんだよな、まあそういっていただけるのは素直にうれしい。


ネットにあげている曲にはほとんどコメントがつかないため、こうやって直に褒めてもらえるのはかなりうれしい。


「今はギターいないんだっけ?誰かあてはあったりするの?」


「いや、それが何もなくてですね」


「そうなんだ!、今度良かったら誘ってよ!まあ、今のバンドがメインだからヘルプって感じになっちゃうけど」


これだけ上手い人とやる機会なんてそうそうあるものじゃない。

今までずっと同じメンバーでやってきた俺たちにとってはいい機会じゃないだろうか?


「なあ、今度ライブ一緒にやってもらうのどうかな?」


隣にいた灯火にそっと耳打ちする

灯火はじとーっとした目でこちらを見つめ。


「エロガキ」


違うっての、ギターうまいからだっての、やましい気持ちなんてこれっぽっちも、ないこともないけど。


「まあいいんじゃない、ライブできるならやりたいし」


とりあえず灯火のOKをもらったので、声をかけてみる。


「すみません、いきなりで申し訳ないのですが、今度ライブしませんか?」

「うちのオリジナルになってしまうんですけど」


「全然OK!むしろやりたい!」「連絡先交換しとこっ!」


と言われて連絡先を交換することになった。灯火は複雑そうな顔をしていた。


「でも、HYTの曲ってツインボーカルだよね?わたし歌のほうは全然だめで」


なるほど、今まで作ってきた曲は日和さんありきだったから、全曲ツインボーカルになっている。


次から次へと問題が発生する。


「はぁ、今度はボーカルか」

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