第7話

「じゃあ、お疲れさまでしたー!打ち上げ行く人はこっちでーす!」


幹事の人がみんなを誘導していく。


「君たちは不参加だったね、今日はお疲れ様っ!また一緒に出来たらいいね!」


みんなが遠ざかっていく、この後は居酒屋で宴会だろう。

お酒は飲んだことはないが、大人が酔いつぶれているのはよく見かける。

まあそれだけ楽しい気持ちになるんだろう、はやく飲みたいなーなんて思いながら帰路につく。


帰り道、日和さんが口を開いた。


「あのね、私そろそろバンドは卒業しようかなって」

「今度仕事で大きなプロジェクト任されて、多分今以上に忙しくなりそう」

「それにさ、もう私じゃ2人についていけないかなーとも思ってるんだよね」


その言葉は衝撃だった、俺は特にプロを目指しているわけでもない。

というよりもバンドが楽しいということばかりに目を向けて、将来どうなりたいかなんて考えたこともなかった。


「なんか純粋に音楽を楽しめなくなってきていて、ユキたちはキラキラしてるのに私はその中には入れない」

「大人になるって難しいね、大人になんてなりたくなかったな」


どこか諦めたような日和さんの言葉。

大人になってからもバンドを趣味で続ける人もいる、それでもいいんじゃないのか?

それとも一緒にやるのが嫌になってしまったのだろうか?


日和さんは若いうちから大人にならざるを得なかった。

それは俺がいたから、俺を育てるために子供のままではいられなかったんだ。

就職したてで、女手一つ、子供一人育てるなんてどんなにつらかっただろう。


周りは遊んでいるのに俺がいるために遊ぶことさえできず。

どう思っていたのだろうか、やはり邪魔に思っていたんじゃないか?


そんなことを日和さんが思わないことは分かっている、でも本心では?少しでも重荷だと思わなかったのか?

ぐるぐると思考が回る、気持ち悪い。俺はやっぱりいなければ良かったんじゃないか?

俺がいると周りを不幸にする。産まれてこなければよかったんじゃないのか。


「日和さんは上手いし、……まだまだ出来るよ」

「あ、でも仕事が忙しくなるならしかたない、のかな」


漠然にだが、このままこの3人でやっていくことしか考えていなかったため、

いざ日和さんがやめるということが現実的になったら、どうすればいいのか何も考えが浮かばない。

確かに長い間この3人でやってきてマンネリ感がなかったわけじゃない。

でもライブは楽しい、これからは新曲もつくって、もっと戦略的にファンなんかも増やして。

なんとなくそんなことを考えていたのも確かだった。


「あはは、ごめんね。ユキたちが深く考え込むことじゃなくって」

「別に今からプロ目指せーとか、いうつもりじゃないんだけど」

「ユキももう高校生なわけだよね、周りにバンドやってる子とかいないの?」


「いるにはいるけど、でも日和さんレベルのギターなんてそうそういないし」


「わかんないよ、私なんてテキトーに弾いているだけだし」


「同じ高校でさ、学祭ライブしたり、確かクリスマスライブとかもあったよね」


「そういうの楽しんでみるのも悪くないんじゃないかなーって思って」


「……まあ仕事なら俺は何も言えないよ」

どこかすねたように俺は言った。


「ただし!今以上に忙しくするのはなしで!日和さんの体がもたないから」

これだけは絶対に言っておかないといけない。

日和さんは昔から自分の体を軽視しがちだ、もう少し自分を労わってほしい。


「年度末の次のライブが最後かなー」

日和さんが少し名残惜しそうにそう口にした。



途中で灯火と別れてうちに帰る。

「ただいまー」

「はい、おかえりなさい」


俺はベースを自分の部屋にもって上がる、日和さんも自分の部屋にギターを置きにいった。


「おなかすいたね、今日はピザでも頼もうか」


ピザに電話を掛ける、20分ほどで届いた。

かなりお腹も減っていたようだ、一人でかなり食べてしまった。


「もうむりー」

食べ過ぎて動けなくなった俺はソファーに寝っ転がる。


日和さんもちょうど食べ終えたようだった。


「日和さん、明日の墓参りはいつもと同じ時間でいいんだよね?」


明日は俺の母さんの命日、毎年日和さんと灯火も一緒に墓参りに行くことになっていた。



「ユキ、落ち着いて聞いてほしいんだけど」


いつになく日和さんがまじめな顔で話しかけてくる。

どうしたんだろうか、何かいやな予感がする。


「……あのね、明日のお墓参り、あなたのお父さんがくるの」



え、聞いた瞬間思考がストップしてしまった。

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