バンドで紡ぐイロトリドリノ音
緋色(ひいろ)
第1幕 悲哀のベースヒーロー
第1話
――
透き通った声で、軽やかに飛び回るギターボーカル、
パワフルかつ安定感のあるドラム、そして、そのすべてのバランスをとるように低音を響かせるベース。
プロのように上手くはない、でも決して下手なわけではない。目を惹かれたのは何よりメンバーたちの笑顔。
その姿は、とても、とても輝いて見えた。
――
「……久しぶりに見たな、あの夢」
「そっか、もうそんな季節なんだな」
季節は2月、まだまだ寒さも厳しい季節。
俺、
自分でいうのも悲しくなるが、どこにでもいる陰キャモブだ。
一つだけ違うのは、バンドでベースをしていることくらいだろうか。
今はスリーピースで活動しており、ベースとギター、ドラムの3人構成だ。
少し珍しいかもしれないが、ボーカルはギターとベースのツインボーカルでやっている。
バンド活動といってもオリジナル曲はまだまだ少ないし、ライブではカバー曲をやることもある。
ワンマンライブが出来るような人気もあるはずがなく、いつも対バンで色んなイベントなんかにお世話になっている。
オリジナルの作詞作曲は俺がやっているのだが、所詮は素人に毛が生えたようなもの。
ネットにも曲は載せているが、結果は残念そのもの、再生回数を見るたびに悲しくなってくるほどだ。
「やべっ、遅刻する!」
枕元に置いてあるベースを手に取りケースに突っ込む。
そして朝食も取らずに準備を終えるとベースを抱えて家を出た。学校まではそれほど遠くない、走れば十分間に合う時間だ。
「はぁはぁ、間に合ったっ!」
息切れしながら教室のドアを開ける、なんとか遅刻せずにすんだようだ。
「今日は珍しくぎりぎりじゃない、なにやってんのよあんた」
こいつは保育園からの幼馴染、もとい腐れ縁というやつか、
名前は
本人曰く、そこらのちゃらちゃらした男ドラマーには負けたくないらしい。
「ああ、久しぶりにあの夢を見てな、ぼーっとしてたらつい」
灯火は悲しそうな、どこか複雑そうな顔になる。
「そっか、そんな季節なんだね」
態度や言葉は厳しいが、しっかりと相手のことを考えられるいいやつだ、昔からその存在にどれだけ助けられたことか。
いじめられていた俺を見かねて、上級生をボコボコにしてしまったり、
独りで本を読んでいた俺を引っ張って無理やり泥遊びに参加させたり。
嫌がる俺に虫やカエルを突き付けてきたり、多少強引ではあったが、灯火がみんなの輪に入れてくれたのは間違いない。多分灯火がいなければ今もボッチだったかもしれない。
そんな話をしていると、担任の
戸波先生はかなり小さい、みんなからはももちゃん先生とよばれマスコット的な存在である。
その授業はわかりやすく、面倒見がいい性格で生徒からの人気も高い。
隠れ?いや隠れてもいないロリ好きからは神のように崇め奉られている。
「はーい、それじゃあホームルーム始めるよー」
俺は急いで自分の机に座る。
ここ高槻高校は普通科のみで偏差値も低くはなく高くもない、普通の学校だ。
バンドをやっている身からすると、軽音部を期待していたのだがどうやら去年で廃部となってしまったようだ。
なんでも、かなり無茶なことをする先輩がいたため、なくなる方向となったらしい。なんて迷惑な話だ。
ふと教室の外を見る、どこか悲しみを映し出すように冷たい風が吹いていた。
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