第十七話 託された想い(綾人視点)
蓮から、今から会えないかと連絡が来たことに、驚いた。
今まで呼び出された事はなかったし、何より既に深夜と呼べる時間帯だ。
……何かあったのかもしれない。
(きっと、ひなこに関することに違いない)
すぐ行くと返信をして、待ち合わせ場所に急いで向かった。
待ち合わせ場所に着くと、既に蓮は到着していた。
俺に気がつくと、軽く手を上げる。
「遅くに悪かったな」
「いやっ、……問題ない。それより、何かあったのか?」
俺は乱れた息をしながら返事をし、蓮に視線を向ける。
蓮は焦っているわけでもなく、落ち着いていた。
表情から察するに、ひなこに何かがあったわけではなさそうで、少しほっとする。
荒くなった息を整える為、少し下を向くと、蓮が話し出す。
「最初に約束してくれ。今から話すことは、ひなこには内緒にするって」
「は?」
何言ってるんだ?と言おうとして顔を上げると、少し辛そうな、しかし決意めいた蓮と目が合った。
「頼む。約束してくれ」
俺の肩を強く掴む蓮に、唯ならぬ状況なのだと察し、俺は分かったと答える。
「一体何なんだ?」
「どう話そうか……ひなこが見た、夢の話、覚えてるか?俺に似た男が鎖に繋がれている話」
俺が頷くと、蓮は続ける。
「……あれは、俺の祖先なんだと思う。堕神を封印する為に、最初に人柱になった人」
「堕神を、封印……人柱……は?」
驚き過ぎて、困惑する。
「そう、祖父さんに聞いたんだ。堕神の絶望は深く、瘴気が蔓延し多くの人が死に、多くの異形が産まれたと」
蓮は目線を伏せる。
「仕方なかったんだ。誰かが犠牲にならなければ死を待つ他になかったのだから」
「それで、なんで蓮の祖先が……」
「俺の祖先は染谷神社の神主で、堕神とは異なる神を下ろすことができた……封印には神の力が必要だった、それだけだ」
そう答えた後、蓮は少しの沈黙の後、俺の目を真っ直ぐにみた。
「今度は、俺が人柱になって、堕神を再封印する」
頭を強く殴られたような強い衝撃を受ける。
「……な、何言ってるんだよ、そんなの駄目に決まってるだろ?!」
俺は蓮の首元のシャツを引っ張り、声を張り上げる。
「もう、決めたんだ。ひなこを、自分の大切な人達を守る為に、そうしようって」
「駄目だ!他にまだ方法があるかもしれないだろ?!まだ異形についても調べたりてないし、ひなこの夢だってまだ…」
そう言いながら、ボロボロと自分の目から涙が溢れ落ちる。
蓮は、そんな俺をみて、静かに微笑む。
ーーどうして、そんな顔で笑えるんだよ。
「もう、時間があまりないんだ。豊穣祭の日に、封印を完了させる」
蓮の声は驚くほど落ち着いていて、それが俺には許せなかった。
「ひなこはどうするんだよ!こんな、お前を犠牲にするなんて絶対許さないぞ」
「……わかってる!!」
蓮は大きな声を出す。
俺は驚き、蓮の顔をみる。
その頬には、涙がつたっていた。
「わかってるんだ……俺だって、俺だって!生きたいよ!」
心の底から、吐き出したように、胸を抑えて、吐き出す姿に、俺の視界が滲む。
「……でも、他に方法がないんだ」
ーーそうだ、蓮だって生きたいに決まってる。
それでも、ひなこのことを守りたいんだ。
蓮はそっと、俺の肩を掴む。
「俺が居なくなった後も、ひなこを守るって約束してくれ」
真剣な顔つきに、俺は俯く。
「……止める事は、出来ないんだよな」
「……あぁ。すまない」
蓮の言葉に、俺も覚悟を決める。
「わかった。ひなこのことは絶対に俺が守る。一生守る」
そう言って、蓮の肩をぎゅっと掴む。
そんな俺をみて、蓮はほっとした表情をした後、優しく微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます